ぼんやりと映った天井はいつもと変わらぬ我が家の寝室のものだった。


もそっ、


でも今日はちょっと違うんだ、いつもは広いこの布団が窮屈で、それでいてあったかいの。


右となりには背を向けた十四郎が寝ていた。朝方の静かな部屋に十四郎の小さな寝息が聞こえる。


昨日は久々に会えたこともあってふたりとも盛り上がったまま寝た。なのでお互い何も身に纏っていないわけで。布団と肌が触れあう心地よさが快感である。


布団からはみ出た十四郎の左肩には、もう見慣れた大きな古傷がついている。出会った頃はまだ痛々しかったそれは、今ではもう十四郎の一部かのように斬られた傷口だけが脹れていた。


毎回、十四郎が傷を追って帰ってくる度に私は彼の傷口にわざと触れる。どれだけの痛みか、分かるはずもないのに、触れたら何か分かる気がしてしまって。


頑張ったね、と心の中で呟くのだ。この痛みを分けることができたならどれだけ私のやり場のない気持ちは救われるだろう。


何も出来ないからこそ、この募る思いを傷口に充てるのだ。それが無意味だとしても、


その度に十四郎は申し訳なさそうに微笑む、その笑みが切なくて好きだった。


斜めに入ったその傷口に手を伸ばすと脹れた部分が当たった、冷たい肩なのにそこだけ熱がこもっている。


きっとこの先も彼は、たくさんの傷を負うだろう。そして私はその痛々しい生傷に触れるだろう。


足掻いても、彼の帰りを待つことしかできない私が、唯一許されるこの行為の意味に十四郎は気づいているだろうか。


十四郎を起こさないよう、寝返りをして彼に背を向けた。傷口に触れた左手を布団のなかで握る。


「名前‥また触ったな、」


もそもそ布団が動いたと思えば、十四郎が寝返りをしてこちらへ向いたらしく私をぐいっと引き寄せた。熱い体温が背中に伝わる。掠れた声が私の背中にかかって途端に熱を浴びたように体が火照った。


「とーしろー‥」


ぐいっと引き寄せた体は十四郎に包まれたまま、太い腕が私の体をまさぐり始めた。


「あ?やめねぇぞ」


うなじに口づけしながら十四郎の手が私の胸に触れる。私はその手に自分の手を重ねて、彼の手の温もりを感じる。


「っふ‥ん」


胸を触る強さが増して、声が漏れてくる。布団のなかでは十四郎の片方の手がお腹の下を撫でていた。


ツツーと指を滑らせ、そっと侵入してきたそれを私の体は受け入れる。


「あ‥とおしろ、」


ぐんぐん食い込む指に私の体は逸り、十四郎はその指の数を増やしていく。


「名前、」


背中や腕に途切れなく浴びる愛撫にどんどん熱をおびていく私の名を呼ぶ十四郎。


十四郎が布団をめくり、私の両肩を布団につけ、またがった。寝起きの少し腫れた顔が私を見つめる。昨晩見あげたときと同じ少し悪巧みしているような表情。


トクン、トクン


胸が静かに騒ぐ。十四郎が私の髪を撫でておでこにキスした。伸びた十四郎の前髪がかかる、


「いつも心配かけてっけど、」


「へ?」


「でも、ここにぜってぇ帰ってくるから」


そのまま唇に熱を落とす十四郎。掠れた声が心地よく感じる、このまま目を閉じたくなった。


「うん、十四郎は総悟くんに殺されなきゃ許さない」


「おいどういうことだそれ」


ふふっと笑えば、こしょこしょと体をくすぐる十四郎。


きゃはははと笑う私の声と十四郎の笑顔、最高の目覚めの朝がここにある。




冷たい、ふたりの温度
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