「やまざきくっ、ん‥」
彼女の苦しそうな息づかいは熱い。触れ合う唇はもっと熱かった。
少し着物がはだけた白い肩が俺の欲望を煽る、さっき自分が脱がせたその部分をもう少しだけ広げてみた。きれいな白が見えた。
「や‥恥ずかしっ」
ずり落ちた着物をあげようとする彼女の手をとってぎゅっと握れば、顔をさらに火照らせる。
愛しい、その言葉の意味が分かった気がする。どうしてこんなに好きなんだ、どうしてこんなに触れたいんだ、俺は限界だった。
「名前ちゃん、」
彼女の頭に腕を回してそっと布団の上に倒した。キラリと光る髪飾りをほどけば、石鹸の香りを纏った艶髪がするりと広がった。
彼女に股がり、その髪を撫でながらキスを続ける。さっきよりも奥深くへ入っていく舌を彼女の中で掻き回す、色っぽく漏れる声と俺の首に回す細い腕。
「‥やまざきくん、じゃないみたい」
潤った唇が緩い弧を描く。虚ろになった瞳がどうしようもなく色っぽくて、
「俺は、きみが思ってるほど優しくないよ」
男はみんな狼だ、かわいい赤ずきんを狙うね。そう言えば彼女はふふっと笑った。乱れ髪にその笑顔は新鮮で、
「もう、我慢できないから」
え、と驚く彼女にキスした。はだけた肩や鎖骨に何回も何回も。その度に反応する彼女がかわいくて、愛撫はエスカレートしていく。
「や‥そんなに見ないで」
着物から解放されたその体は薄暗い室内でも分かるほど白く透き通っていた。胸を隠す彼女の腕をそっととって肩の上で押さえると、身動ぎして抵抗する。でもそんな微力では今の俺に敵わないよ。
ちゅ、っ
大きく成ったそのふくらみに唇を鳴らせば、
「ぁ‥」
彼女はくすぐったそうに身をよじる。白くてやわらかい胸に顔を埋める、もう止まらないだろう。欲望が支配する脳内でそう思った。
「やっ、まざきく‥っん」
優しく手中に収めても指の間からはみ出そうな胸。彼女の清くなめらかな肌に俺は触れている、俺の汚れたこの手で。
「名前ちゃん、」
途端に彼女を汚してはいけないような気がして、手を離した。上半身裸の彼女が不思議そうに俺を見つめる。
「どうしたの、」
「おれ、よごれてる」
「え?」
自分の手のひらを広げる、さっきまで愛しさに溢れていたのに、血がべっとりついて傷がたくさんついているように見えてしまう。
洗っても洗っても、斬った感触や命を奪った事実は消えやしない、俺の汚れた手。
何も知らない、誰色にも染まっていない美しい体に、この手が触れるのは許されるのか。
「やまざきくん、」
起き上がった彼女がそっと俺に抱きついた。熱いほどの体温が俺の肌に伝わった。
「汚れてなんかないわ、とても素敵な優しい手じゃない」
そっと俺の手をとり、自分の頬へあてがって彼女は目を閉じた。長い髪が肩に滑り落ちて手の甲に触れる。
「だから大丈夫‥‥だよ?」
「‥っ!」
恐怖が入り交じったそんな微笑み、俺の理性を吹っ飛ばすだけだ。そんな顔をしないでくれ、
「あっ、」
そんな顔をしないでくれ。
‥今度こそ、本当に止められなくなる。
彼女に唇に噛みつき、強引に舌を絡める。抱けないと思っていた手は彼女の手と繋がっていた。
「んっ‥はぁぅ、んっ‥!」
華奢な体が俺を受け止めている、体は隙間もないほど近づいているのにまだ足りなかった。
「‥く、っ!」
足りない、足りない、もっと奥だ、もっともっと中へいきたい。
「あぁ、っ‥いっあ‥んっ!」
苦しそうな顔で俺にしがみつく彼女の爪が俺の肩に食い込む、
「名前ちゃ‥ん、っ!」
グンッ、と腰を彼女に押し込むように最後の力をいれた。悲鳴に近い声が部屋に響く、だらんと生気を失ったような彼女の体。俺から放出される欲望に彼女は涙を流した。
「‥っはぁ‥やまざきくん、」
荒い息づかいで俺の名前を呼ぶのは反則だと思いながらも、愛しさが溢れて力が抜けた彼女の体を包み込んだ。
「名前、」
今はその呼び方の方がしっくりくるような気がして耳元で囁いた、彼女はふふっと笑って俺の背中に腕を回した。
消せぬなら、溶かしてたもう (いっそ混ざり合いたい)
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