「あぢぃい!何でこの船にはクーラーが少ないの」
水着のパンフレットとせんべいの袋を片手に長い廊下を歩き続け、数少ないクーラーが設置されている談話室へ入る。
じわり、と汗をかいた体を冷風が包み込んだ。そう、これだよこれ!ふぅーい涼すぅいぃー。
談話室にはいつものメンバーと、そしてもうひとり。談話室で会うのは実に珍しい、
「晋助もいたの、」
お頭が畳の上で煙管を吹かしていた。以前それくっせーなと言ったら海に投げ捨てられそうになったので、出来るだけ匂いが来ないように晋助から離れた場所に腰かけた。私は学習する女なのだ、
「何っすかそれ」
床にパサッと広げた水着のカタログに食いついたのはまた子だった、銃を腰に常備していても彼女も女なわけで。私は比較的近くに座っていたまた子にも見えるようパンフレットをずらした。
「水着のカタログ。海水浴かプール行きたいんだー私」
「はーあ?アンタ指名手配されてないからそんな呑気なこと言えるんすよ」
「ねぇ晋助はどんなのが好み?」
「無視か、でも晋助様の好みは気になるっす!」
私と興奮気味のまた子の視線に晋助はこちらをチラリと見てくわえていた煙管を手にとって一言、
「興味ねぇ」
とだけ言うと何事もなかったかのように、また煙管をくわえた。ちぇーっクールぶっちゃって。
「晋助パイセーン、気取ってないで教えてくださいよぅ、俺ら誰にも言わないんで」
「名前!晋助様に向かってパイセンって何すか!その高2男子みたいなうざいノリ失礼っすよ」
「うっせーな、また子パイパイ」
「おー、それはまたイノシシ露出女にピッタリなあだ名ですねぇ」
部屋の隅でお茶をすすっていた武市さんが頷いた。おそらくまた子がロリコンじじいと言い返して、武市さんがフェミニストです!と訂正するお決まりのパターンが繰り返されると思うのでふたりは放っておこう。
「で、晋助はどんなのが良いの。やっぱ王道の白ビキニ?セクシーな黒?」
「拙者はフリルがついたのが好きでござる」
晋助の隣で音楽プレーヤーをいじる万斉が表情を変えないまま、独り言のように呟いた。
「「「‥‥‥」」」
聞いてないのに何で入ってきたんだろう。しかもフリルって、何か‥冗談に聞こえないんだけど。どう返せばいいんだよ。万斉、実は武市さんより変態なんじゃね?アイドルプロデューサーだし、いつも何考えてるかわかんないもん。超ムッツリっぽい、
万斉の横顔を見ながらあれこれ考えていたら万斉のサングラスがギロリとこちらを向いたので慌ててパンフレットに目を移した。
「‥で!晋助はどんなのが好み?」
「しつけぇ、興味ねぇって言ってんだろ」
晋助は相変わらず煙管を吹かしたまま。興味ないはずがないでしょ。晋助は過激攘夷志士の前に立派な成人男性なんだから。普段から謎に包まれているけど水着の好みくらいはあるはず。ていうかそっちも過激なんじゃないのおにーさん?
「晋助ってば好みの水着が恥ずかしくて言えないんでしょう?」
「何すかそれ!晋助様、一体何が好みなんすか!」
武市さんと言い合いが終わったのか、また子がこちらの会話に戻ってきた。おーい鼻息荒いぞ、
「んー例えばスクール水着とかさ」
「スクール水着ッ!!」
私の言葉にまた子が大声を出した、すかさず武市さんがうるさいですよイノシシ女と注意するも、また子は興奮しっ放しである。例えばで言ったのに‥
「ちょっと!晋助様のイメージが壊れるっす!それじゃあ武市先輩と同じじゃないっすかァア!」
「でも興奮してるじゃん、また子」
ぎゃあぎゃあうるさいまた子の横で、私はせんべいの袋を開けて一口かじった。
「それは名前がスクール水着とか言うからっす!」
「例えばの話じゃーん‥で真相はどうなんですか晋助パイセン?」
「‥高2キャラまだ続いていたでござるか」
ばりっ、ばりっ
せんべい片手に晋助に近づく。そしてまた子も近づく。武市さんと万斉は顔だけ晋助に向いている。やっぱりみんな気になるんだ。これでスクール水着だったらどうしよ。
「アホらしい」
無表情のままそう言い放ち、晋助は立ち上がった。みんなの期待が晋助の足音に消される。どんだけ拒むの、フリルって告白した万斉を見てごらんよ、みんなの見る目が変わってるよ、キャラ崩壊しだしてるよ。もうスクール水着でもいいじゃん、ん‥ちょっと待てよ。
「‥分かったー!晋助は裸が好きなんだ」
ばたばたばたっ、
談話室を出ようとする晋助の背中に叫ぶ私に他の三人がズッコケた。え、ドリフターズ?
「万斉、そこのせんべい女海に沈めとけ」
脳内サマーバケーション (否定しないってことは確定だね) (斬新な考えでござる)
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