その日、屯所は土方十四郎の叫び声で朝を迎えた。叫び声ってか嗚咽?


声の主がいるであろう食堂には寝起きの隊士たちが集まってきていた、私もちゃっかりその群衆に混じって状況を確認。


「おい、誰だ俺のマヨネーズに細工したやつァ、出てこい‥おヴェエ!」


食堂の長机の上にはトレイに乗った朝食オンマヨネーズ。あーあ、マヨネーズだけでも気持ち悪いのに吐いちゃって‥朝からモザイク乱用だよ土方さん。隊士たちも彼を気持ち悪がっている。ザキなんてもらいげろしてやんの‥きったねー。


「マヨネーズの中身、歯磨き粉だったらしい。絵の具か何かであの色に誤魔化して」


隣にいた原田隊長がキレる土方さんの代わりに解説、歯磨き粉と絵の具ねぇ。


「ふーん、そうなんだ‥‥‥‥」


え、歯磨き粉と絵の具だと?私が昨日ドラッグストアと100均をはしごして購入したものと同じなんだけど。たまたま?いや歯磨き粉と絵の具がたまたま?ちょっと厳しくないこれ。


「おい名前!てめぇか!てめぇだろ!」


口を押さえながら苦しそうにする副長と目が合った。おぉう、マジで気分が悪そうだ。


「何で私なんですか!私は昨日歯磨き粉と絵の具を買いに行っただけです!」


「おめーじゃねぇかァア!よくもお前そんな堂々と言えんなァア!」


「誤解しないでください、私はたしかに歯磨き粉と絵の具を買いましたけど!でもそれだけです」


「それだけってどういうことだオラァ」


隊長に頼まれたんです、パトロール行くなら買ってきてほしいモンがあるんでさァって。昨日隊長に言われた台詞をそのまま言うと、土方さんは総悟か!とまたキレ始めた。


ふぅ、これで私の無罪確定。にしても隊長ほんっとよく思い付くよなー歯磨き粉と絵の具なんて想像しただけでも吐きそう。ま、いつも土方さんのマヨネーズ買いに行かされてる私からしたらちょっとした仕返しにもなったからいいけど。よーし、顔洗って私もご飯を食べることにしよう。


「うげっ、」


食堂を出て歩くこと2歩。誰かに首根っこをつかまれた。蛙みたいな声が出る。


「どこ行くんだてめぇは」


土方さんがニヤニヤして私の首根っこをつかんでいる。あ、口の横に歯磨き粉がついてる。


「どこって顔洗いにいくんですけど。‥言っときますけど私は何も知りませんでしたからね!ただ隊長に買ってこいって言われただけですよ」


「ほーう。じゃあてめぇは何も知らんけりゃクスリや武器も運べつったら黙って運ぶんか、あぁ?」


「例えが違いすぎますよ!ドラッグストアと100均の買い物で土方さんを陥れるなんてわかんないじゃないですか!しかも歯磨き粉と絵の具なんて気づくわけありません」


土方さんはときに理不尽だ。普段は頭のきれる鬼の副長だというのに、こういうことになると本当困る。悪いのは私じゃなく隊長だ、


「歯磨き粉と絵の具の組み合わせなんて怪しいだろーが!総悟の部下ならそれくらい気づけアホ!」


「知らないですよ!"あれぇ?隊長お絵描きが趣味なのかな?歯磨き粉の絵を書くのかな?"って思ったんですぅう!」


「それがアホだって言ってんだよォオ!」


「マヨネーズと歯磨き粉の区別もつかない方がアホですバカです、これからは自称マヨラーって名乗れハゲ」


「上司に向かってハゲ?いい度胸してるじゃねぇか」


土方さんは青筋をたてて私の首根っこを強くつかみ、抵抗する私をずるずると引きずりだした。何でこうなるんだ、私はおつかいを頼まれただけなのに!隊長どこ行ったんだよォオ!


「原田隊長、助けて!無実、私!」


連行される私を他の隊士たちは黙って苦笑い。みんな他人事だと思って‥!そんな中私ががしっと咄嗟につかんだのは原田隊長の腕。


「ハゲを笑うものはハゲに泣くんだよ。
アディオース!」


「原田てんめっ!」


つかんだ腕はあっけなく離され、原田隊長が私に手を振る。ハゲって原田隊長のことじゃないのに、敏感すぎるんだよアンタは!



運び屋、つかまる
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