プルルルル、プルルルル、


受話器からはいつまでたっても呼び出し音だけが鳴り続けていた。しばらく鳴らしてるのに出ないと言うことはきっとまだ仕事なんだと諦めて耳元から携帯を離す。プツッ、と電話を切っても耳には呼び出し音がこびりついたままだ。


「ふぅ」


銀ちゃんと喧嘩して今日で一週間。最近の万事屋はやたらと依頼が入って忙しい。年末で大掃除とか片付けの依頼が多いらしく、今週も何件か入っていると言っていた。


「悪ィ、」


そうなるとも知らないずっと前から、きっと暇だと見込んでいた私たちは温泉旅行の予定を入れていたのだ、神楽ちゃんや新八くんも一緒に。


仕方ない、ああいう職種は忙しさに波があるし稼げるときに稼いでおかないと(万事屋はとくに色々とお金がいるし)生活に困るから。


仕方ない、分かっていたはずなのにあの日‥銀ちゃんが行けないと謝ってきた電話で私は言ってしまったのだ。


「最悪、楽しみにしてたのに」


温泉旅行の予定だけではなかった、鍋パーティーも雪まつりも、最近はろくに会えてさえもいなくて私の中で限界だったようだ。冷たく言い放ち、電話を切ったがそのあと、銀ちゃんからはかかってはこなかった。


頭を冷やしてから考えてみれば、100%私が悪い。会えなくて募った寂しさを銀ちゃんにぶつけてしまった。張り切って立てていた旅行がなくなることが悲しくてムカついた、言い訳だけど。銀ちゃんたちと温泉で癒されよう。そう思っていたのに。それがなくなったからって、思いやりもなくあんな冷たい態度をとってしまった。


そして一週間、謝ろうと私は仕事の合間をぬって電話をしているのだけど呼び出し音が永遠に流れ続けるだけで誰も出ない。


「‥行こっかな、」


明日から冬休みに入る私。仕方ないけど部屋に出しっぱなしのキャリーバッグはしまおう。それと、明日銀ちゃんに会いに行って謝ろう、うん。




ピンポーン


次の日の朝、私は弁当を作って届けることにした、3人分。どうせ忙しいからちゃんとしたもの食べてないだろう、たくさん作った弁当が入った風呂敷が重い。


「あい‥悪ィけど依頼ならちょっと勘弁してく‥名前?」


出たのは眠そうに目をこする寝巻き姿の銀ちゃん。私だと分かってその目を大きく見開いた。


ちゃんと言わなきゃ、ごめんって。


「お、おはよう」


「‥おう」


銀ちゃんが私をじっと見る、逸らせなかった。死んだ魚の目よりひどい、死んで成仏してない魚みたいな目。やっぱり忙しいんだ。胸がズキンと痛む。


「あの‥謝りに来ました」


「は?謝りに?」


「うん、その‥電話で、銀ちゃんのこと考えずに怒っちゃったから‥ごめんなさい」


頭を下げる、しばらく無言が続いた。


「俺だって…行きてーよ」


「え?」


銀ちゃんの声が小さくてよく聞き取れなかった。顔をあげると銀ちゃんは口を尖らせ髪をいじっていた。


「俺だって、名前と混浴したかったよ」


「こっ、混浴!?」


「ウマイもん食って卓球したかったよ」


「‥‥子供みたいね」


ふふふ、と思わず笑ってしまって。その瞬間、銀ちゃんが私を抱き寄せた。持っていた風呂敷がぐらんと揺れる。


「銀ちゃ‥」


「‥‥‥」


銀ちゃんは何も言わなかった、ただ強く私を抱き締めたまま離さなかった。苦しかったけど、愛しかった。体温の高い体が私を包む。


「ちゃんとご飯食べてる?お弁当作ってきたからみんなで食べて」


やっと離してくれた銀ちゃんに風呂敷を差し出す。タイミングよく銀ちゃんの腹の虫が鳴った。


「‥名前最高アル!銀ちゃん早く食べるネ!」


「お前いつからいたんだよォオ!」


すさまじい寝癖がついた神楽ちゃんが風呂敷を担いで家の中へ消えていった。相変わらず食に対することには彼女はすごい。


「お前も、食ってけば?」


元気な神楽ちゃんにやれやれといった表情の銀ちゃんが私を見る。


「え、」


届けるだけだと思っていたから、その提案に驚く。それより、わたしたち仲直りできたんだよね‥?


「あ、その前に」


そう言って銀ちゃんの顔が近づく。そして唇に銀ちゃんのあったかい唇が重なった。


「‥っ!」


短く、優しいキス。


驚く私に銀ちゃんはニヤリと笑って耳元で囁く。


「俺が一番食いてーのは名前」


「‥っあ」


ちゅっと耳に軽くキスしてもう一度、私を抱き寄せる。寝起きによくもこんなエロいことできるな‥赤く火照った頬を隠すように銀ちゃんの胸に顔をうずめた。





働くオトコは美しい。
(ほとんど残ってねぇじゃねーかァア!)
(仲直りしたならまた作ってもらえヨ)

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