見た目は子供、頭脳はドS
>


「‥き、記憶喪失!?」


恐らくここ半年で一番の大声が出た。まぁ自分の声のデカさ以上にどデカいこと起きてるけどな!


「しーっ!声がでかいよマナちゃん!」


「そりゃでかくもなるでしょーが!沖田が子供になっただけでも着いていけないのに何でやっかいごと増えてんだアァァ!私がいない間にとんでないことばっか起きてるんですけど!もはやギャグ連載(続編)の規模じゃねーし!」


沖田(チルドレンver.)と衝撃の再会を果たした町中から場所は変わり、私は屯所に来ていた。通された応接室には私以外に近藤さん、山崎さんがいて彼らは机を挟んだ向かいに座っている。


彼らが私を見て慌てたり何かを隠そうとしていた理由が沖田だったということは分かっても、どう考えてもあの少年が沖田なんて信じられない。どうしたら子供に戻るなんて可笑しなことが起こるの?ベンジャミンバトンかコルァ!


「ねぇねぇ、このおばさんだれー?」


「‥っんぐぁ!」


すると突然、どこからやって来たのか沖田(少年)が私の髪を引っ張りながら顔を覗き込んできた。おいてめぇ誰がおばさんだクソガキィイ!本物のおばさんに失礼だから!つーかいつからここに来たんだよ!


「こら総悟!外で遊んできなさい、いま大事な話してるから」


子供とは思えぬ力で髪を引っ張り続ける沖田に本気でやり返そうか歯を食い縛っていると、近藤さんが少し大きめの声を出した。‥いや声出すだけじゃなくてこいつ(沖田)を止めてくださいィイイ!マジ痛い!毛根が叫んでる、涙出てくるぅうう!


「隊長、女の子には優しくしなくちゃダメだよ」


ブチブチブチィ!とマイヘアーを根こそぎ持っていかれそうになる寸前、山崎さんが立ち上がって止めに来てくれた。ていうか山崎さん!?沖田が自分よりはるか年下になっても隊長呼ばわりしてんの!?もうちょっと威張れば!?


「このおばさんだれー?」


山崎さんに強制的にだっこされた沖田はそれでもなお山崎さんの胸を叩きながら私を見続けている。ぎゃあぎゃあ騒ぐ声が応接室に響いて、近藤さんも苦笑い。


「局長、ちょっと俺外しますね」


しばらくしても沖田がなかなか静かにならないので、山崎さんは嫌がる沖田を抱いて応接室を出ていった。やかましい声が遠くなるまで私たちはしばしじっと待った。


そしてやっと久々の静寂が戻ってきたところで、近藤さんが口を開く。


「2週間前、違法薬物の売買をしていた攘夷組織を検挙してね。やつらの活動場所の現場検証が一番隊で、そのときに誤って落下した違法薬物を総悟が頭から浴びてしまったんだ。その薬物は調べだと容姿が子供になるだけのものだったんだが、一度に大量の薬物を浴びたからか今回総悟は記憶まで失ってしまった。もしかしたらもっと酷い症状も出てくるかもしれない」


「‥違法、薬物……」


私の言葉に近藤さんが静かに頷いた。ドクドクと流れる自分の心臓の音を聞きながら必死で考える。違法薬物、それで沖田があんなに小さな子供になってしまったってこと?でもそんなことってありえる?


「剣じゃ一番歯が立つ総悟が子供になったなんて浪士どもに知られたら何をしでかすか分からん。それに正体が掴めていない薬物ゆえ公にしていい問題でもない。マナちゃんから総悟あてに何度か連絡が来ていたことは知っていたんだが‥すまなかった」


「‥いえ、」


人間の容姿が変わってしまって、さらに記憶もなくなってしまうなんてどれだけ強力で恐ろしい薬物だろうと怖くなる反面、沖田が帯刀をし真選組という場所に身を置いていることに、薬物を取り扱うこともある危険な仕事だということに、私はいままでとくに何とも思わなかったということに気づいた。いままでの私たちは毎日がただ単に平和だったんだ、でもそれは今まで私が沖田の命が危ないとか危険な任務に就いていることに直面する機会がなかっただけで。


あり得ないことが起きていることは事実でも、決して100%あり得ない話でもなかったのだ。


近藤さんは話を続けなかった。私が頭の中で整理する時間が必要だと思ったのだろう、


沖田が二週間前に声が聞きたくなったと電話をしてきたとき、もしかしたら今回の斬り込みの前だったんじゃないか。あの日の沖田を必死に思い出すけど焦りばかりが溢れて余裕がない。


「「‥‥‥」」


私たちの間に無言の時間がしばらく流れた。流れる時間を真剣に使い考えても何も出てこないことは分かっているけど、考えることしかできない。そして沖田が子供になってしまって、私は何をするべきかわからなかった。記憶がないならなおさら、私は沖田にどう接したらいい?


「容姿が子供になって、記憶喪失になるって‥…どんな薬なんですか。全部は分からなくても、分かってることはあるんですよね?」


それだけ危険な薬物を頭から浴びたのなら、もっと恐ろしいことが起こるんじゃないか。このまま容姿も記憶も元に戻らないとか‥とくに沖田は人生のほぼ9割悪いことしかしてないから、ここで禊とかお仕置きとか天罰的な何かが当たるんじゃないのか。


「まだ全ての実態を把握できたわけじゃないんだが‥江戸川粉という薬物だ」


どうやら公言してはいけないことらしい、近藤さんが小声で教えてくれた。


「えどがわ、こ‥?」


「えどがわこな、だ」


私の言葉を近藤さんがゆっくり訂正。え、それって…


「‥それどこぞの名探偵ですよね?赤リボンに眼鏡のあの子ですよね、工藤新一ですよね?何か違う作品始まってんだけど!」


「ばあ!」


疑問が浮かび上がった私の声に突然、上乗せするかのように大きな声が被さった。


「あぁ、総悟!」


その声の主はさっき山崎さんに連行されたはずの沖田。スパーンと勢いよく襖を開けて部屋へ入り込みドタドタ走り出した沖田、の後ろから少し遅れて山崎さんがやって来た。沖田が無理矢理逃げたのか、と思いながら今の今まで静かだった空気が壊れていくのを感じた。


「ぶーた!ぶーた!めっすぶたー!」


沖田は走り回るだけでなく大声で私をからかいだす始末。


「‥近藤さん、こいつ本当に記憶ないんですか、普通に呼ばれ慣れた名前が聞こえるんですけど。それともぶたって言葉しか知らないんですか。それともどっかの国の言葉で美人とか可愛いとかそういう意味なんですか、ぶたって」


「気にしないでいいよ、俺もゴリラって呼ばれてるから。子供は素直だよなあ!」


「いや違うでしょうがアァァアア!」


ハッハッハッとまるで父親のように走り回る沖田を楽しそうに見つめる近藤さん。いやいや、薬物浴びてるんでしょ?そんな呑気に親子感出してる場合じゃないでしょ!


「本当に総悟は昔から変わらんなあ!」


「やっぱり昔から性格腐ってたんだ‥生ゴミ以下の性格で誕生したんだ‥もう直しようがないんだ‥」


当初は薬物だの記憶喪失だの衝撃的なワードばかりで心臓に悪かったけど、このドタバタうるさい感じは私が知っている真選組そのままで。何だか重苦しい雰囲気じゃなくても良くね?と思えてきた。薬物はじゅうぶん危険なんだろうけど、死んだり苦しんでいるわけではないし、以前と容姿以外は何も変わらぬありのままの沖田からして私が思っているような危険な状態ではなさそうである。第一、江戸川粉なんて超インチキ臭い。インチキ臭すぎて蓋したいくらいの薬物じゃないか。


「‥時計から麻酔銃とか打ってこないですよね?むっちゃハイテクなメガネとリボンは常備してないですよね?」


相変わらず部屋をドタバタ走り回る沖田を目で追う。何で走り回ってるだけであんな楽しそうなんだろう、無邪気っていうか無垢っていうかウザいっていうか。


「大丈夫だ、総悟はいまサッカーに夢中だから」


「オイィイィイイ!しっかり危ねぇじゃねぇかアァア!ていうか危ない以外の何物でもないィイイ!あいつ今までサッカーのサの字もないような生活してたでしょ!何コナン君にキャラ寄せしてんだよ!」


次会うとき赤いリボン&最強眼鏡をしてたらどうしよう‥!サイレンの音と一緒に「ネクストコナンズヒントは"弁当屋"」とか恐ろしい次回予告流れたらどうすんだアァァアア!CM挟むときに出てくる”キィィ…バタン!”ってドア閉まる音聞こえてきたらどうすんだァアア!!


そんなことを思いながら山崎さんと追いかけっこ状態の沖田を見つめる私だった。


※幼児化した沖田くんは、ミツバ篇で近藤さんと出会うシーンくらいの年齢です。稽古サボろうとして土方さんに引っ張られてたくらいのサイズ感です。


前へ 次へ

back

×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -