人にものを頼む時は低姿勢で頼むべし
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「…その卵こそ、この毛利卵(もうりらん)だァアア!!」


「(ら、蘭ねーちゃんまで参加してきたァアア!!)」


その画だけ見れば黄金伝説の無人島生活の一コマのような、ポケモンゲットだぜ的な銀さんの躍動感溢れる姿も、彼が口にした言葉のインパクトには勝てるわけもなく。


「いい加減にしろよォオオ!これは銀魂だっつてんでしょーが!」


その場でバンッと机を大きく叩くことくらいしか感情を表現することができなかった。反して私以外のみんなはあっさりしたような「あ、まぁ銀魂だけどたまには他作品に触れるのもアリだよね、うんうん」みたいな、受け入れてますと開き直った表情なのである。非常にいけ好かない。というかおかしい。


「いい加減にしろ、って俺は感謝されることはあってもキレられるこたァ何もしてねーよ。蘭ちゃん、新一くんに会えるの嬉しくないの?コナンくんのお守りして、新一くんとはいつも電話なのそろそろ嫌じゃないの?」


「だっ、誰が蘭ちゃんだァア!銀さん、今すぐ蘭ねーちゃんの頭のトンガリで頭ぶち抜いてもらってきてください」


「銀ちゃんの言う通りアル。マナの男の趣味の悪さは置いといて、姿が変わったサディストのために万事屋が協力してやってるアルヨ。さっさとこの卵買えヨ、8万アル」


「は、はちまん!?たっっか!!そんなにするのこの卵!ていうか神楽ちゃん、協力とか言ってるけどただの8万稼ぎに来てる人だよね!?神楽ちゃんもちょっと麻酔銃一発打たれてきて今すぐ!」


「マナさん落ち着いてください。この卵を調理して江戸川粉を被った人間に食べさせれば元の姿に戻るのは間違いないんですよ。ね?土方さん、山崎さん」


感情が荒ぶる私を新八くんが冷静沈着に宥める。ケッ、さっき私が銀さんと神楽ちゃんに貧乳をいじられてるときは無口だったのに…!


「…新八くんはなんかムカつくからとりあえずコナンくんがキックしたサッカーボール(魔球)顔面に受けてこい」


「それいいアルな。新八なんてコナンくんの機能満載眼鏡に比べたらただの二枚のレンズアル」


「ちょっとォオオ!マナさん完全な当てつけなんですけど!神楽ちゃんに至ってはただの悪口だし!」


今度は新八くんが感情的になり机を叩いた。もう毛利卵そっちのけである。私は何をしに来たんだろう。


「おい、いい加減にしろ」


すると、それまで黙っていた土方さんが騒がしい雰囲気を沈めるように強めの口調で口を開いた。瞬間ピタッと皆の動きが止まって、それぞれが姿勢を正してその場に座り直した。さ、さすが鬼の副長だ…と感心しながら私もちょっと騒ぎすぎたなと反省。


「藤堂に状況を説明するとだな…江戸川粉の治療薬は今のところ、この毛利卵だけだ。しかもこの卵は希少価値が高い。亜笠博星から遠く離れた地球ではまず手に入らねぇ代物だ。それをこいつらが3つも持ってる…っつーことはだ、」


静かになったのを確認し話し始めたのに心なしか歯切れ悪い土方さんが、まるで私に答えを求めるようにこちらに視線を向けた。えっ、クイズ!?えっと、万事屋が卵を3つ持ってるっていうことは……?


「…万事屋のみんながたまたま亜笠博星に旅行に行ってそのお土産、とか?」


「…藤堂、こいつらがわざわざお土産を買ってくると思うか俺たちに。しかもこんなに都合よく毛利卵を」


土方さんは私の回答に呆れたような反応をして、顎で三人をさした。どうやらクイズは不正解らしい。


「いや、そんなこと言われても私、万事屋と真選組の関係性知らないですし!みんな、仲良いんですか?」


私の質問にピクッと土方さんの眉が動いたのを私は見逃さなかった。


「…俺たちがこいつらに毛利卵を譲ってくれと頭を下げたらゲス顔で「えぇ?聞こえないなァ、もう少し感情も込めてほしいね〜あと頭下げる角度ももう少し深くね自分の膝に顔くっつく感じで。はい、じゃあテイク2いこうか膝方くん」って言われるくらいには仲良しだ」


「(ぬをぉおおぉおお!めっちゃ仲わるいじゃんかァアア!)」


膝方さん…じゃなくて土方さんが銀さんをギラリと睨む。対して銀さんは呑気に鼻をほじっている。


「ちょっと膝方クン、そんな言い方したら俺らが性格悪いみたいじゃん。お宅らの沖田クンも大事だと思うけど、俺らだって生活かかってるんだよ。この卵3つでどれだけウチの家計を支えるか」


「そうアル!この卵今すぐ食べてやってもいいアルヨ、それを我慢してお前らにやるって言ってるアル。1つ8万なんて安すぎるくらいネ」


「まぁ神楽ちゃんなら卵3つあっても一瞬だけどね」


えぇぇ、ちょ…ちょっと待って神楽ちゃんこの卵3つで8万じゃないの!?え、これ3つだったら24万!?卵が!?金額設定無茶苦茶すぎるでしょ!警察相手によくそんな堂々とカツアゲみたいなことできるね!?


「…分かるだろ藤堂、こういうやつらが毛利卵を持ってるんだ」


「…なるほど」


苦虫を潰したような表情で土方さんが私に耳打ちをしてきた。その言葉にはさっきの「こいつらが3つも持ってる…っつーことはだ、」の答えをもう一度私に問いかけている意味にも捉えられた。うん、今度こそ答えがわかったよ。


「分かりました、膝方さん24万円よろしくお願いします」


「何でだァアア!何が分かったんだよ!お前チャイナのこと言えねーぞ、何普通に24万要求してんだよ!つーかてめぇまで膝方言うんじゃねェエエ!」


「だって24万なんて大金払えませんよ弁当屋の給料じゃ。ていうか卵に24万円も払いたくない」


「総悟が泣くぞ」


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