子どもと遊んだ次の日の筋肉痛はお約束
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「…うっ、重っ…沖田意外と重くね!?」


「でもめすぶたは、ぼくの10ばいぐらいだよね?」


「地面に叩きのめしてやろうか」


転倒した沖田が落ち着いたところで、沖田を送り届けるために屯所へ向かい始めた。が、1日歩きまわって疲れたのか沖田が歩きたくないと駄々をこねた。アイスを買えだの、おんぶしてだの、ワガママだな!と思いながらも沖田からの甘えに私も満更ではない。むしろ可愛いくてしゃーない気持ちになっていた。


だって!だってさ!あの沖田が!私に甘えるんだよ!?元の姿に戻ったら絶対なくね!?オリンピックの方があるわってくらいなくね?4年に1回もないよね?絶対ないよね!?


「しゅっぱつしんこー」


「…いや、おんぶしてあげたんだからもうちょっとやる気出せよ」


「やる気出すのはめすぶたでしょ」


「…可愛気ないな!クソガキ!」


さっきまで泣きそうになってたのはどこの誰ですかと聞きたくなるほど、元のテンションになった沖田は私の肩を掴んで足をプーラプラさせている。偉そうに…!と若干キレる私だったが、近藤さんと約束した沖田を屯所へ返す時間が迫っていたのでそそくさと駅へ向かうことにした。


「ちゃんとコンビニ寄るのわすれないでよ、アイスたべたいから」


「…はいはい」


「はいは1回だぞ、家畜」


「…家畜におんぶしてもらって、アイスも買ってもらうあんたは何なわけ!?」


「まぁまぁおちついてよ、はつじょーき(発情期)?」


「あんたはどこでそんな言葉覚えてくるの!?めっ!」


相変わらずギャーギャー言い合いをしながらの帰り道は、沖田の発言にムカついたけど途中からしりとりをしたり、夕焼けに浮かぶ雲の形を見て何かに例えたり、おんぶしながら少し走ってみると背中の方で楽しそうな笑い声がしたり、周りから見たら微笑ましく見えるのかなぁなんて背中の温もりを感じながらそんなことを思った。


「はい。屯所に着くまでに食べきれなかったら残していいからね」


「うん、ぜんぶたべれる」


途中、屯所の最寄の駅近くのコンビニでパピコを買った。座って食べる時間はないので、私はパピコを食べる沖田をおんぶしながら屯所への道を進む。


「美味しーい?」


「ん。めすぶたもたべる?」


信号待ちで止まったところで、後ろの沖田に問いかける。おんぶも慣れてくると重さに慣れてくるらしい、おんぶした瞬間よりもゼェハァしなくなった。それでも重さは感じるので、辛くなくはないけど。


「ありがとう、でも私は沖田おんぶしてるからいい…ンガッア!」


沖田からの嬉しい提案も、両手が塞がっている今は無理だ。せっかくあの沖田が私(他人)のことを思ってくれたことはありがたいけど。そう思っていると何やら口に何かが突っ込まれた。あまりにも突然のことでおぶっている沖田を危うく落っことしそうになる。


「…はひほ(パピコ)?」


口に突っ込まれた何かは冷たく、そして私の知っている味がした。それは後ろの沖田が食べているパピコ。よく見ればパピコは沖田の小さな手がもっていて、おんぶされている沖田が手を伸ばして私の口に突っ込んでいたのだ。


「うまいか?」


「何この拷問みたいな食べさせ方!ビックリするじゃん、美味しいけど!」


沖田は満足したのか、未だビックリしている私を放置して自分のパピコを咀嚼。しばらくして中身がなくなってきたのか、ちぅちぅとパピコを吸ったり、ぷくぅとパピコに空気を送って膨らませている音が聞こえてきた。お行儀はよろしくないが、私もパピコをくわえたまま歩いた。二人で同じものを食べる幸せとパピコの冷たさが喉を潤して心へ広がっていく。


………


……





「あ、近藤さん!」


屯所に着いたとき、近藤さんと約束の時間を数分過ぎてしまっていた。門の前で近藤さんが立っているのを沖田が見つけ、私は早足で近藤さんの元へ。


「総悟!マナちゃんもおかえり」


「ただいまです。時間少し遅れちゃってすいません」


よっこいしょ、としゃがみこんで沖田をおろす。近藤さんは構わんよ、と笑ってくれた。


「総悟、マナちゃんと一緒にいれてどうだった?楽しかったか?」


「…ごはんたべたりどうぶつえんいったりした」


まるで親子のように沖田と近藤さんの間には和やかな空気が流れていた。私と一緒にいれて楽しかったか?という質問には答えない沖田が沖田らしくて笑えたけど、まぁ本人がいる前では素直になれないよね。でも私は沖田の色んな表情が見られたから、それだけで十分だよ。


「良かったなぁ。マナちゃんにありがとうは?」


近藤さんの大きな大きな手で頭を撫でられた沖田は、一瞬チラリと私を見た。


私が首をかしげると沖田は何か言いたげに目を泳がせたが何も言わずにバタバタと屯所に入っていった。何あれ、バイバイとか言ってくれればよかったのに。


「総悟、マナちゃんといれて楽しかったから別れるの嫌だったんだろうなぁ」


「そうですかねぇ、結構さらっと帰りましたけどね。別れ惜しむ感じ全くなかったですけどね」


次いつ沖田に会えるか分からないのに、私が沖田との別れを全く惜しまなかったのは沖田と私との間の関係に変化があったからだと思う。きっと次会っても沖田はまた私に噛み付いてくるだろうし、私も噛みつき返すだろう。沖田と今までできていた当たり前のことが、子どもの姿になった沖田ともできるまでに変わったのはすごく大きいことなんじゃないか。記憶がなくなって何もかもやり直しな状況で、元の沖田との関係に近づけたことが私に自信をくれたんだと思う。ま、これで沖田がまた私を引き離したりしたらヘコむんだろうけど。


「さっき、マナちゃんが総悟をおぶって来ただろう?そのときの総悟の顔がすごく生き生きしてたんだ」


近藤さんは笑うと目尻に少しシワができる。私たちが歩いてきた方を眺めて微笑むその横顔とても朗らかで、父親の温もりさえ感じた。


「…沖田は、変わらず生意気です。鬱陶しいです。私のことを名前で呼んでくれないし、暴力振るうし、」


「ははは、総悟とマナちゃんはそうでないとなぁ!」


「でも、」


「?」


「でも、でも…楽しかったです、すごく。久しぶりに沖田と一緒にいれて。大変な時期なのに、沖田を預からせてくれてありがとうございました」


何も恥ずかしいことはないのに、何だか自分の言葉に恥ずかしくなって照れた顔を隠すように頭を下げた。結局は私が楽しかったのだ、幸せだったのだ。沖田も楽しかったと思っていたとしても、その何倍も私は楽しかった。あっという間だった。


「…マナちゃん、ありがとう。総悟と出会ってくれて」


「へっ?」


いきなり何を言いだすんだ、近藤さんは。驚きながら顔を上げると、近藤さんはニカッと笑って私を見ていた。


「総悟が子どもの姿になってしまってから、どうすればいいか誰もわからなかった。それは未確認の薬物ってことだけじゃなくて、子どもの沖田とどう接すればいいか…それが一番分からなかったんだ。本当に総悟があれくらいの年齢のときにはもう出会っていたが、いかんせん総悟には記憶がないからな。こっちも手探り状態だった」


「…私もです。私も最初はどうやって接しれば良いか分からなくて、仲良くなりたくても拒絶されたし…」


「そうか…そうだよな。マナちゃんも俺たちと同じだよな。でも今日のマナちゃんと総悟を見て思ったよ。あぁ、大丈夫だろうって」


近藤さんの目尻にまたシワができる。とても優しい表情だ。


「例え総悟がこれから一生、元の姿に戻れなかったとしてもマナちゃんは変わらず総悟と接してくれるだろうって。そりゃあ元の姿に戻ってくれるのが一番良い。でも仮にそうならなかったとしても、マナちゃんは総悟のそばにいてくれるんだろうと思ったんだ」


「……そうですね、そうなったらとりあえずメスブタ呼びを止めさせます」


沖田が元の姿に戻らない。じゅうぶんにあり得る未来は、ぼんやりとしすぎていて実感が湧かなかったけど沖田といられるならそれでいいと思った。別に未来を悲観しているわけでも、沖田が元に戻ることを諦めたわけでもない。


ただ、私は沖田と一緒にいられたらいい。どんな形でも。恋人という関係になれなくても?という質問には、今の私じゃまだ即答できないけど。


「マナちゃん、何だかすごく大人になったなぁ!総悟のお母さんになれそうだ」


「あんな悪ガキ、女1人じゃ無理ですよ。近藤さんがお父さんになってください」


「……えっ、お父さん?それって俺たちが夫、婦になるってい「そういうことじゃないです、断じて」


いつのまにか暗くなった夜空に、一番星が光り始めた。


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