指切りげんまんは大きな声で歌いましょう
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「沖田、次はどこに行きたい?」


朝から動物園を満喫した私たちは、残りのフィルムが3枚となったインスタントカメラ片手に動物園を出た。早く現像して見たいなぁとさっきまでの思い出を振り返りながら微笑んでいると、沖田は少し考えたあと金色クワガタが欲しいと言った。


「…ってちょっと待った、沖田。金色クワガタはあとで行こう。まずは携帯ショップ行かなきゃだった」


「えーーー、どこ行きたいか聞いたのそっちだよ」


「大丈夫、あんなに潔く故障してればそんなに時間かからないから」


「ぶーー!」


沖田と遊ぶことばっかりで、盛大に壊された携帯のことを忘れてしまっていた私は、渋る沖田の手を引いて携帯ショップへ向かった。私の携帯を見て店員のお姉さんが若干顔を引きつる中、携帯は案の定買い替えとなった。少し時間がかかるとのことだったので沖田には店内に作られたキッズスペースで遊べばと勧めたけど、他の子どもが遊んでいる中に入るのが嫌なのか私の側を離れなかった。途中ジュースを買ってあげると大人用の椅子から足をぶらんぶらんさせて美味しそうにゴクゴク飲んだり、じっとしているのに飽きた頃にはキッズスペースから絵本を持ってきて私の隣で一人黙読。動物園を出たときは駄々を捏ねていたときとは裏腹に静かに待っていてくれたのはありがたかった。


「ありがとうございましたー」


それからしばらくしてニュー携帯を手に入れた。たまたま同じ機種の色違いが在庫としてあったので、色違いを購入。青色の携帯なので、今まで持っていたカラーより男の子っぽいなと思っていると沖田はかっこいい色だと言っていた。


「よし、じゃあ今度こそ金色クワガタゲットしに行こうか!」


道端の猫じゃらしを抜いて遊んでいた沖田に声をかけると、沖田がくるっとこちらを向いて驚いた表情を見せた。何だ何だ〜?金色クワガタゲットできることがそんなに嬉しいのか?なんて得意げに思いながらも、沖田のこんな可愛らしい表情が見れたことに満足している自分。


「なんで何も言わないの?金色クワガタ欲しいひとこの指止〜まれ!」


沖田と同じ目線になるようしゃがみこみ、人差し指を立てた。すると、沖田はすぐさまてくてくとこちらに近づいてきて、猫じゃらしを持っていない方の手で私の指をギュムッと掴んだ。瞬間、人差し指に知らない体温が溢れるのを感じた。一瞬ハッとするようなその温もりに、いつの日か屯所で眠る沖田に指を握られた日のことを思い出した。


あの日はまだ子どもの姿になった沖田に戸惑ってた頃で、目を覚ました沖田に出て行けと物凄い剣幕で追い出された。悔しくて悲しくて悲しくて、心が悲鳴を上げていた。


あの日からそう多くの日が過ぎたわけでもない。けど、沖田はあの日よりもずっと私を見てくれるようになった。私の中にもウジウジした考えはどんどん小さくなった。沖田が元の姿に戻らなかったらどうしよう、とかどうやったら沖田と仲良くなれるだろうと、考えなくなった。今の沖田と真っ直ぐ向き合おうと思い行動するようになった。


そして、沖田は今私を見てくれている。ずっとずっと見てきた、元の姿と同じ紅い大きな目で私を映してくれている。懐かしいようで、新しい感覚。その感覚にとてつもなく私の心は震えていた。油断したらすぐに涙が溢れでてしまいそうだったので、笑ってみせた。目の前で同じ目線の沖田に微笑んだ。すると沖田は何のことやら?と言いたげな表情で少し首を傾げた。そして、何やら思いついたように目をまん丸くさせたかと思えば握っていた私の指を沖田が強めに握り返した。


「ゆびきりげんまん、嘘ついたらゆび10本おーとす、ゆびきった!」


「………え?」


突然歌い出した沖田。ぐわんぐわんと揺れる手は、沖田が歌い終わると同時に止まった。聞いたことのあるリズム。だがしかし後半部分の歌詞には懐かしさが感じられない。感じたのは恐怖だ。ゆ、ゆび10本…おおおお落とす…?ヤ◯ザか?
それが冗談に聞こえないのは、沖田にはバッチリしっかりくっきり前科というものがあるからで。


「っぎゃあぁあ!!やめて!離せコノヤロー!!」


あの時のバキッという何とも言えない鈍い音が身体中を駆け巡り私を震え上がらせた。咄嗟に沖田から瞬殺で手を離し両手をクロスさせて両脇に挟み込む。あ、私のワキ汗いま半端ない。沖田はと言うと私が突然暴れ出すように手を離すもんだから、驚いたようにポカーンと小さな口を開けている。油断はしないぞ、たとえ姿が変わって子どもの姿になっていても沖田は沖田だ。根元から行かずとも指の第一関節くらいまではぐにゃりと折ってしまいそうである。


「…よし、行こうか」


スッと立ち上がり汗のかいた手を拭う。ポケットモンスターだったらズボンで汗拭きしたら握手するって歌ってたけど、握手できるほどの信頼と実績が沖田にはないので私はそのまま歩き始めるのだった。


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