巻きグソフトクリーム250円
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インスタントカメラ片手に動物園を回り、昼過ぎに動物園の中にある休憩所でお昼を沖田と食べた。出かける前に作ったおにぎりと卵焼き、唐揚げとポテトサラダ、そして沖田が喜んでくれたタコさんウインナーが入った弁当を沖田は美味しそうに食べてくれた。口いっぱいに頬張る沖田と、それを見て微笑む私。私たち、周りにいる親子や家族連れと何ら変わらないように見えるのかなぁ。


「沖田〜ゾウさんと写真撮るからこっち、こっち来て」


お昼ご飯を終えて、また動物園を回りながら沖田の写真をいっぱい撮った。最初は撮られることに難色を示していた沖田だったけど、たくさんの動物を見て楽しいのか私の「写真撮るよー」の呼びかけにも自然と応えてくれるようになった。少しずつかもしれないけど、沖田が私に心を開いてくれてたらいいなと思いながらレンズ越しに沖田を見ながらシャッターを押す。


「あ、沖田。アイスクリームあるよ、食べる?」


「うん、チョコレートがいい」


それからしばらくして、動物園を堪能した私たちがそろそろ動物園を出ようと出口に向かって歩いているとアイスクリームが売っている売店を見つけた。朝から晴れている今日は気温も高く、アイスクリームは一休みするにはちょうどいいアイテム。


「はーい、いらっしゃ…あれ?マナちゃん?」


売店へ入り早速レジでアイスクリームを頼もうとすると、レジのお兄さんが私の名前を呼んだ。へ?と思ったのもつかの間、私の名を呼んだのは銀さんだった。動物園のロゴが入ったTシャツを着てなぜかアイスクリームを頬張っている。


「ぎ、銀さん!こんなところで何やってるんですか」


「アイスクリーム食べてる。いやァ〜今日暑くね?温暖化だね、オンダンカ」


チョコとバニラのミックスソフトクリームをペロペロしながらカラッと晴れている外を鬱陶しそうに見つめる銀さんの目はいつもより死んでいる。


「銀ちゃん見て見て!このソフトクリーム、いい具合に巻きグソ感出たアル…あ、コロッケ女ここで何してるアルか」


ここお店だよね?銀さんレジに立ってるってことはお手伝いか働いてるんだよね?何呑気にアイスクリーム食べてるの?当たり前のようにアイスクリームを頬張る銀さんに疑問を感じていると暖簾がかかった店の奥からチョコソフトクリームを持った神楽ちゃんが登場。これまた銀さんと同じTシャツを着ている。ていうか神楽ちゃん、私たちが今から食べようって言ってるものを巻きグソなんて言うんじゃあないよ。あとコロッケ女って呼び方止めよう?


「神楽ちゃんたちこそ何してるの?お手伝い?」


「そうアル。マナ、江戸に帰ってきたアルな」


神楽ちゃんは少し驚いた表情。そっか、江戸に帰ってきてから神楽ちゃんたちに会うのは初めてだっけ。


「うん、少し前に帰ってきたの。神楽ちゃんたち元気そうだね」


「おかえりってことでこの巻きグソフトクリーム、700円であげるヨ」


若干溶けてきているチョコソフトクリームを差し出す神楽ちゃん。何でウンコアイスに700円?図々しいわ。ていうか他にお客さんいないのにアイスクリーム巻いて、それ絶対自分用だよね?


「ていうか、後ろのガキンチョどこぞの沖田くんにソックリだね」


「………!」


ふと銀さんが私の後ろを指差す。し、しまったァアァアア!!沖田のこと知られちゃいけないのに銀さんたちに会ったことがビックリしてすっかり忘れてたァアア!!途端に冷や汗がぶわっと溢れ出す。


「本当アル。巻きグソでドSって書けるヤツにソックリアル、お前には950円でこのアイスクリームやるネ」


「………」


子どもだから、とか初めて会ったからとかそういうことは彼らには御構い無しらしい。カウンターから身を乗り出してアイスクリームを差し出す神楽ちゃん。そんな神楽ちゃんを敵視するように沖田は私の後ろに隠れながらも伺うように顔をそろーり出している。でも神楽ちゃんのアイスクリームの話はシカト。子どもの沖田って人見知りなのかな、っていやいや!そんなこと呑気に考えてる場合じゃない!沖田のこと知られたらマズいんだってば!!


「ゴホンッ…えっと、じゃあソフトクリームのバニラとチョコレートひとつずつくださぁい」


さっさとアイスクリームを買ってここから出よう。沖田には記憶がないし彼が何も言わなければ何もバレないはずだ、うん。


「沖田くんとはどうなったの?もしかしてもうママになっちゃったわけ?」


カウンターでソフトクリーム二つ分のお金を差し出すと銀さんがニヤニヤ笑いながらお金を受け取った。


「な、何言ってんだこのセクハラ親父!そんなことあるわけないじゃないですか!」


「…おっ、親父!?親父って言った方が親父なんですぅ〜」


「いや、違うと思います。完全に銀さんが親父です」


「まーた親父って言ったァ!神楽ー!マナちゃんのソフトクリームのコーンの下のところ穴開けて!溶けたソフトクリーム垂れてくるように細工して!」


「ちょっとォオオ!銀さんどんだけ子どもなんですか!?親父か子どもかどっちかにしてくださいよ!!」


親父というワードがよほど気に食わなかったらしい。お金を受け取ったときはあんなにニヤニヤしていたのに、いざソフトクリームを渡される時はスマイルのかけらもないブッスーとした表情。思わずこちらの顔が引きつる。ここの接客最悪にも程があるだろ!


「ていうかソフトクリーム形悪っ!」


銀さんの表情で気づかなかったけど、渡されたソフトクリームはだらんとやる気のない巻き方。スリムじゃないっていうか、横にベタァと溶けてる。私はバニラとチョコだからまだマシだけど沖田なんて100%チョコだから見栄えが悪い。ハエがたかってそうなビジュアルのソフトクリームに沖田も無表情。ちょっとこれトラウマになったらどうすんの。


「飲み物買ってきましたよ〜」


ひとまず溶け出しているソフトクリームをこぼれる前にペロリと舐めていると、入り口からこれまた見覚えのある顔が。


「新八くん!」


「えっ、マナさんじゃないですか!こんなところで何やってるんですか?」


最後に会ったときと何も変わらない新八くんは私を見るなりとても驚いた表情で固まってしまった。そして、すぐに私の隣でソフトクリームを頬張る沖田へ目線を移しまた驚いた表情。


「えっ、沖田さん?何でこんな小さく…弟さんとかですか?」


「へっ?えっと…うんまぁそんな感じ?」


新八くんが沖田の弟だと勘違いしてくれたおかげで、沖田を説明するのにちょうどいい言い訳を見つけた。そうだ、そんなに焦らなくても子どもの姿になったなんて話信じる人なんていないだろうから身内とか親戚って言っておけば良かったん「でも総一郎くん、身内は姉貴しかいなかったんじゃなかったか?」


「んぐっ…!?」


安心したのもつかの間、鼻をほじりながら銀さんがぽろっと呟いた。げぇえぇええ!そうなの?沖田の身内事情知らないけど…そうなの!?そしてなぜそれを銀さんが知ってるのォオオ!?溶け出したソフトクリームが指に伝う。


「えっと…すんごい遠い親戚、みたいな?」


「へェ、そんな遠い親戚同士でそんな顔が似ることってあるアルな」


「……ね、ね〜!本当似てるよネ〜ビックリビックリ〜」


死んだ目の銀さんの隣で、ソフトクリームを頬張りながらこれまた死んだ目で私を見る神楽ちゃんに冷や汗が止まらない。っやべーよ!バレる!疑われてるゥウウゥ!!


「まぁいいや、とりあえず金。ふたつで千円」


「払いましたけど!?しかも千円て高っ!」


人をドキドキさせておいて、実はそこまで興味がなさそうか銀ちゃんが手を差し出した。ダメだ、これ以上この三人といたらもっとボロが出てしまいそうな気がする。


「よし、じゃあそろそろ行くね!みんなまたお店にお弁当買いに来てよ」


「サービスしろヨ、米多めにしろヨ」


舐め腐った目つきで私にサービス…というかただの増量を要求してきた神楽ちゃんに顔が引きつるも、何とかお店を出ることができた。大丈夫かな、銀ちゃんたちに怪しまれてないといいな…と今さらなことを思いながらもホッとした私はソフトクリームを一口。


「おいしいね、アイス」


すると下の方から沖田が話しかけてきた。小さな手でソフトクリームを持ち、もう一方の手で私の着物の裾をぎゅっと掴んでいる。そしてチョコソフトクリームを美味しそうに頬張りながら私を見上げていた。


…ってちょっと待って?沖田、私の裾掴んでる!?いつのまに…


「…くぁ、くぁわいいィイイ(可愛い)!」


万事屋にバレないように必死だったから気づかなかった。な、何これすっごく可愛いんですけど!きゅっ、と優しく掴まれている感覚が私の心をくすぐらせる。沖田の記憶が消えてから散々避けられてたくさん傷ついてきたからこそこの感覚が嬉しくて幸せで胸がいっぱいだ。


でも、沖田ってば何で急に裾なんか掴んだんだろう。三人に驚いちゃったかな?


「沖田びっくりさせちゃってごめんね。あの人たち私のお友達なの」


「うん。びっくりしたけどめすぶたのおっきいおしりにかくれたから大丈夫だった」


「そうそう、おっきいおしりだから壁にピッタリなんだよね〜巨人も寄せ付けないし〜…って誰がウォールマリアだ駆逐したろか!!」


笑顔でソフトクリームを頬張る沖田の頭をパシッ軽く叩く。まったく…可愛いことしてもすぐこれだ、沖田は所詮クソッタレなんだ。


でもやっぱり、


「ねぇねぇ、そっちの味もたべたい」


掴んでいた裾をクイッと引っ張って私のソフトクリームを見上げる沖田に、私は何も言えなくて。愛しい気持ちだけが増えていく。


「その前に一枚、ハイチーズ」


言いたいことはたくさんあるはずなのに、口の周りにチョコアイスが付いた沖田に微笑むしかできないなんて。でも、すごく幸せだ。


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