夢でも、会えたらいいね
>


「おい寝るな」

「んっ…起きてる起きてる」


夕食を終え、借りてきたDVDを沖田に見せている間にお風呂を済ませた。まさか沖田が家に泊まりに来るとは思っていなかった私は自分が思っていたよりも疲れていたらしい。沖田の隣に敷いた布団に寝転んで数分、ウトウトしているところを寝転がりながらDVDを見ている沖田に起こされた。

子どもって寝るの早いよね?ていうか早く寝させなきゃダメだよね?ボーッとする頭でそう考えながら時間を見るとあと数分で10時になるところだった。あぁ眠い…いつもなら10時なんて余裕なのに、子どもを相手にするとこんなにも疲れるのか全国のお母さんお疲れ様です。


「ねーるーな!」

「ひゃっ!」


またウトウトしていたらしい私のほっぺをつねる沖田。重い瞼を開けて映った沖田はふてくされてこちらを見ている。


「寝るなじゃないよ、もう寝る時間でしょ?それあとどんくらいで終わるの?」


「1万分」


「馬鹿なこと言うんじゃないよ、そんなに遅くまで起きてたらお化けくるよ」


「めすぶたのすっぴんの方がお化けだと思う」


「………」


ブチッ、


「あぁ!まだギガレンジャー出てきてないのに!」


手元にあったリモコンでテレビを消すと沖田が大きな声でブーイング。だからどんだけ元気なんだよ、あとお前は子どもになっても女の子のすっぴんに対して本当に失礼なことしか言わないのな!沖田にすっぴん寝顔を撮られたことは今でも思い出しただけでイライラする。あの写真ちゃんと消したのかな!?


「めーすーぶーたー!テレビつけてよ!!」


小さな足で私の体をボスボス蹴ってくる沖田を見ながらふと思った。


そういえば、沖田が私のすっぴん寝顔の写真を撮ったのは沖田が家に泊まりに来たときだったっけ…


「………」


あの日もたしか台風が来てて、金成木さん家の猫ちゃんがいて、


「(起きたら、沖田が隣で寝てて…)」


…い、いかん!変に緊張してきた!違う違う!確かにあの時と状況は似てるけど!今は沖田があの時の沖田じゃないから!子どもだから!ミスターチルドレンだから!


「ギガレンジャーキーック!!」


「グフォ…!」


やましいことなんて何もない!いつのまにか頬が熱くなるのを感じながら必死で自分を抑えていると、お腹に沖田の右足が凄まじい勢いで食い込んできた。さっき食べたコロッケが出るんじゃないかというくらいの強さ。ギ、ギガレンジャーキック超絶強ェ!!


「…って違うぅうう!お前何してくれとんじゃァア!」


どうやったらそんなクソ強いキックかませるんだよ!そんな小さい体で!!ニシシシと楽しそうに微笑む沖田がこれまたムカついて、


「必殺!美脚ばさみ!」


こちらを向いて寝ころがる沖田の足を自分の両足で挟み、思いっきり自分の方に寄せた。子どもの軽い体重だ、か弱い、私のか弱い脚の力でも沖田はいとも簡単にこちらへ引っ張られる。


「うわ!離せ!剛毛!」


「ちゃんと剃っとるわ!技名に美脚って入ってんだろーが!」


まさか足を挟まれて私の胸元まで引っ張られるとは思わなかったらしい、悔しそうな顔でジタバタと反撃している。こうして沖田に触れると本当に小さいんだなということが分かる。こうやって私は知らない沖田を感じては切なくなるんだ。少し慣れたけど、


「アーンパーンチ!!」


「ゴファッ!!」


胸のあたりにいた沖田からグーパンチ炸裂。パンチが直撃した私の顎がキレイに天井を向く。


「ってオイイィイイ!いきなりアンパンマンとかアナログな技使うの!?」


わりと本気で顎が痛む。子どもの言動は本当に容赦ってものがない。ニヤニヤと笑っている沖田はアンパンマンのように愛と勇気がともだちの正義のヒーローにら到底見えなくて。


「そんな悪さばっかりしてるとバイキンマンが口の中から入って、沖田の歯をぜ〜んぶ真っ黒い虫歯にしてご飯食べられなくなるよ。そんで歯が抜けて血がブッシャアアって出て口の中が血だらけになって、」


顎をおさえながら適当に脅してみると、それまで余裕そうに笑っていた沖田からスッと表情が消えた。そして口をぎゅむっと閉じた。え、何これ。


「…え、沖田?」


「…もうねる」


不思議がる私をよそに沖田はそう呟くと、私の胸元から自分の布団へ戻り頭から布団をかぶった。大人しくなってからスムーズすぎるほどの就寝。あっという間に部屋が静かになる。


「…………」


チョロい。意外とチョロいぞチルドレン沖田!!あれだけ強烈なアンパンチをかましておきながら、バイキンマンの攻撃が怖くて寝るなんて…ブギャハハハハハ!涙出る!腹よじれる!腹筋ちぎれるぅうう!!


吹き出したい気持ちをおさえながら私も違う意味で口をぎゅむっと閉じる。沖田が元の姿に戻れたら、からかってやろう。そんなモン痒くもなんともねェなって言うだろうけど、それでも言ってやるぞ。


「………」


まあるく膨らんだ隣の布団を見ながら、ふと思った。きっと世の中の親は子どものこういう言動に日々幸せを感じてるんだなぁと。憎たらしくても、子どもはやっぱり可愛いし愛おしいかけがえのない存在なんだよね。まぁ、私は沖田のお母さんでもなんでもないけど!

でも、他人である私ですら心があったかくなるくらいだ。これが血の繋がってる子どもだったら、心が火傷しちゃうくらい幸せなんだろうな。


そーっと沖田が眠る布団をめくれば、沖田は本当に寝ていて天使のような寝顔が私の心をさらにあたたかくした。


前も沖田の寝顔を見たことがあった。屯所にお弁当を届けに行ったとき、昼寝している沖田に近づいたら手を握ってくれたっけ。まぁそのあとすぐに起きて帰れってキレられたけど。それに対してすっごく傷ついたけど。


あの日からそんなに多くの時間が流れたわけじゃないし、沖田が私に少し心を開いてくれたかと聞かれれば頷けないけど。でも私はあの日よりも沖田との距離が縮んでる気がする。姿が変わっても私への扱いが変わらないのももう慣れたし、扱いが変わらないおかげで姿が変わる前の沖田を過剰に求めることもなかった。そりゃあ元の沖田に戻って欲しい気持ちはある、めちゃくちゃある。


でも、


スースーと静かに寝息を立てながら眠る沖田を見ていると、とてつもない愛しさに体中が包まれて幸せだって感じるんだよ。いっそのこと沖田のお母さんになりたいって思っちゃうくらい今、沖田が愛おしい。きっと沖田が元に姿に戻ったとき、私は愛しさと切なさを感じるんだろうな。そんでもってあと心強さがあれば私は篠原涼◯だ、うん。


栗色の髪をそっと撫でて、部屋の電気を消した。明日は朝から沖田とたくさん遊ぼう、帰るギリギリまでいっぱい思い出を作ろう。


明かりが消えたことで再びやってきた睡魔に誘われるがまま、私は眠りの世界へおちていった。


前へ 次へ

back

×
「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -