「鈴木!」

「は、はいっ!」

昼休みが終わってすぐ、いつの間にかオフィスに戻ってきていた土方先輩の怒鳴り声が背中に刺さった。呑気におにぎりと野菜ジュースのゴミの始末をしていた私はほぼ反射で立ち上がった。でも別に悪いことをしたからとかじゃない、断じて違う。

土方先輩の怒っている意味が分からなかった。何だろう、さっきエレベーター勝手に乗って帰ったから怒ってる?それとも坂田さんと何してたんだとか?こちらへ近づいてくるほど彼の怖い顔が鮮明になって、その度に私の心臓が大きく跳ねる。跳ねすぎて気持ち悪い。おぇえ‥

「先週出た数字まとめて今朝までに出せって、頼んだろ」

「‥それは沖田に頼んでませんでしたか」

「あ?沖田の教育係はてめぇだろ、」

土方先輩の怒っている理由は書類のことだった。しかも私ではない沖田に頼んだ仕事のことを。いやいやいや、まず沖田に確認しろよ!何でそうすぐ私にキレたがるのですかあなたは!

「いや、係長‥あの「言い訳する前に沖田呼んでこい」

「‥‥‥」

社会には理不尽なことがたくさんある。この言葉の意味を私は土方先輩から学んだ。例えば今がまさにその状況だ。別に言い訳なんかしてないしその書類に私関係ないし!確かに後輩のフォローは先輩である私の役目であるけれども、私が怒られる意味が分からん、持っていたゴミを土方先輩だと思ってさりげなくぎゅうっと握りつぶした。

「沖田と鈴木も一緒に来い」

そう言い残して土方先輩はオフィスを出ていった。残された私とそんな私を苦笑いで見つめる退。畜生、何で午後イチで怒られるの私。胃がキリキリするんだけど。金曜日ってもっと楽しい一日じゃなかったっけ?

「沖田くん、まだ昼休みから帰ってないっぽいよ」

退が指した沖田の席は無人。散らかったデスクだけで沖田は不在、帰ってないだとォ!?あいつどこ行ったんだよ!仕事はできなくてもルールは守れ。そういえば沖田は今朝、給湯室で会ったのが最後だ。朝イチで土方先輩に怒られたって言ってたっけ、残念だな午後イチにも怒られるよあんた。

「‥ついでに私もな」

「土方さんが言ってた書類、沖田くん出してたの見たけどなぁ俺」

退が思い出すように頷いている。沖田が出したなら土方先輩が受け取ったこと忘れてるっていうの?いやそれはないよ、いくらLOWSONの店員だからって。

「まだLOWSONネタ引きずってんの」

「あーもう仕事増やしやがって沖田め!会議用の書類3時なのに」

朝頼まれた会議用の書類はやっと半分が終わったところで、土方先輩が足りないという書類は今朝が期限だった。会議用の方が重要だけど、とりあえず今は今朝期限の書類だ。

「書類は任せて、沖田くん探してきなよ」

焦る私を落ち着かせるように、微笑む退。正直彼はバリバリ仕事ができるわけではない(私も人のこと言えない)けどその笑顔は頼もしかったし、とても安心した。あぁ、あんたが同期で本当良かったよ。

「ありがとう、今度ミロ奢る」

「それこの間の残業のときも言ってた」

「ていうか沖田、会社にすら帰ってきてないのかな?」

それだったらマジで恐ろしいぞ、色んな意味ですごい男だよ沖田総悟。いやでもあのいつも余裕な感じならじゅうぶんにあり得るな。

「あの子、常に休憩室にいない?」

「‥あーまぁ新人の唯一逃げれる場所だからねぇ。さすが元休憩室の住人」

「何それサチコもじゃん、家主になれそうな勢いだったじゃん」

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