「あれぇ、サチコちゃんじゃん」

営業部に着く前に、廊下で坂田さんと会った。呼び捨て(私は呼び捨てを認めていないので非公認)で私を呼び、呑気に手を振っている。土方先輩も絡みにくいけど、この人も違う意味で絡みにくい。どうしてこうも私は絡みにくい人たちにサンドイッチされてるんだろう。

「おはようございます、これ土方係長からです」

さっさと渡してさっさと帰ろうと坂田さんが何か話をする前にファイルを差し出した。土方というワードを出した瞬間、坂田さんの眉がピクッと動いた。分かりやっすー、

「消毒してくれた?ノロの次はマヨウイルスらしいよー怖いわー」

「早く受け取ってくださいよ」

坂田さんは渋々親指と人差し指でつまんだ。汚い雑巾を持つその仕草に、鼻をつまむ仕草まで付けてくる坂田さん。あんたいくつだよ、やってること小学生なんですけど。

「サチコちゃん、今日ランチでもどう?」

パンパン払ったファイルを持っていた書類に重ねながら坂田さんはにっこり。美味しいイタリアン奢るよと先週も誘われたけど私はマイ弁当だ。エリートと違って毎日外食するお金なんてない。

「結構でーす。私仕事あるんで」

坂田さんしつこいからここら辺で帰っておかないと!とペコリと頭を下げて方向転換したにも関わらず、坂田さんは私の腕を握った。

「いっつも断るよねーいつになったらOKしてくれんの?」

「忙しいんです、来週の営業会議が終わるまで」

「あの会議の書類サチコちゃんが作るの?」

坂田さんはすごいねーと感心している‥が私は作ると言ってもあくまでデータの整理とか下準備で、ほとんどは土方先輩がやっている。ここ最近残業してるらしいし。でもまぁ書類作成にギリギリ携わってるし、この状況から逃げる理由にはじゅうぶん使えるのであえて訂正はしない。ていうかいい加減手を離してほしいんですけど。

「じゃあ会議終わったらディナーどう?」

「‥‥‥」

何でいちいち英語?ランチとかディナーとか‥エリートだから?夕飯とか言った方が行きやすいんだけどな。

「鈴木!」

ニコニコする坂田さんをどう交わそうか悩んでいると、どこからか名前を呼ばれた。瞬時に声のした方を向くと、長い廊下の先に土方先輩がいた。遠くでも分かる、すごい剣幕だ。

こ、こえぇぇえ!別に寄り道とかしてませんよ、書類はちゃんと渡したし。

「すぐ帰って来いって言っただろーが」

私たちのところまでやって来た土方先輩は坂田さんをギロリと睨んだあと視線をこちらに向けた。その眼力が強すぎて思わず目を伏せた。

「束縛ですか、土方くん」

「うるせー。てめぇこそウチの後輩に手ェ出そうとしてんじゃねぇ」

まだ捕まれたままの手を見て土方先輩が坂田さんを睨む。坂田さんも黙って睨み返し。その間には怯える子羊(私)。朝9時にこのサンドイッチは胃に来ますお二人さんんん!

「サチコちゃんにパシらせておいて、お迎えたァとんだ上司だなオイ」

「渡し忘れたのが1枚あったから届けに来たんだよ、さっさと手ェ離せ」

私の腕にもう一本、土方先輩の手がつかまれた。痛い、二人ともつかむ力が強いィイイ!

「鈴木、行くぞ」

無理矢理、土方先輩に手を引かれ私は来た道を戻った。後ろから坂田さんが日曜ならモーニングでも良いからねぇーと叫ばれた。やっぱり英語かよ。

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