朝の情報番組で特集していた最新映画が気になったので、歩きながら携帯でカチカチ調べていた。あ、来月スマホに変えるんで。今さらカチカチ?とか思わないでほしい。

私が勤めるシルバーカンパニーは一応大手IT企業。都会にそびえ立つ高層ビルに本社が入っていて友人にはよく羨ましがられる。まぁ私も入社当初は出勤するの楽しかったけど、

「あれー、っと」

警備員やらセキュリティやらでオフィスに入るだけなのに面倒だと気づいたのは入社して一週間後。もう三年目だから生活の一部になって慣れたことは慣れたんだけど。たまにこうして社員証をカバンのどこに入れたか忘れて入り口で立ち止まることもしばしば。

今日はすぐ見つかったけど、遅刻しそうなときとか危ないしやっぱりキーホルダーつけよっかなぁと思いながらビルへ入った。

ビルの中には駅の改札のようなものまであって、そこに社員証をかざすとやっとエレベーターが見えてくる。ギリギリ閉まりそうなエレベーターが見えて私は駆け足でそれに乗り込んだ。学生の頃はもっと余裕のあるOLになりたいと思っていたけど(例えば閉まりかけのエレベーターには見過ごして次のを待つとか)実際はそんな余裕ぶっこいてられない。それに今は上がった息を整えるのに必死だ。

オフィスのある15階のボタンは既に点滅していた。目の前はドアだし結構人が乗り込んでいるので後ろを確認するのは無理だけど、社内の人がいるらしい。駆け込み乗車みたいなことしておいてアレだけど‥せめて同期か仲良い子がいいな。後輩とか怖い上司とかだったら何か気まずいし。

―チン

15階に着くまで、エレベーターは何度か他の階で止まった。その度、ドアの目の前に立つ私は降りなければならなかった。同じ行動を3階分繰り返したところでやっとエレベーターの奥の方へ行くことができた。15階まではまだあるのでちょっと壁にもたれる。

静かなエレベーターには空調が効いていて、涼しいなぁなんて癒されていると風とともに、できれば朝イチで嗅ぎたくない煙草の臭いが鼻を掠めた。そしてその臭いはおそらく私が朝イチで会いたくない人から放たれるものだった。

「(‥げ、土方先輩じゃん)」

斜め前に立つ後ろ姿は若くして我が社の係長で私の上司でもある土方十四郎だった。クールな風貌、スタイリッシュにスーツを着こなす彼は仕事ができると評判のエリート男だ。私が入社したときはただの先輩だったのに、この三年でメキメキ昇進しやがった‥じゃねぇや、昇進されました。今はもう土方先輩じゃなくて係長と呼ばなければいけないのだけれど、慣れない。なので私は本人の前以外は土方先輩と呼んでいる。

土方先輩は仕事ができる反面厳しくて怖いと噂されていて、私は日々彼のそんな部分を身をもって感じている。ていうかその噂は私が流したようなもんだ。仕事ができる、方ではない私は何度彼をキレさせたか。自称、彼の怒りマスィーン第2号だからね。

いつのまにかエレベーター内は私と土方先輩だけになっていた。私の存在には気づいているはずだけど、挨拶はおろかこちらへ振り向くこともない。土方先輩は絶対自分から挨拶しない。私たち後輩が挨拶しても無視。この三年で返ってきた挨拶は"あぁ"だ。

昔から挨拶は大事って散々言われて育ったのに、挨拶しない人がエリートって何かムカつきますよ。世の中そんなに甘くないってことですかね。

チン、

ほらね、ドアが開いて土方先輩はさっさとおりていってしまった。仕事ができても無愛想なんだよなぁ土方先輩は。

決して本人には言えないけど、そしてそれ以前に私に愛想があるのかも謎だけど。

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