坂田 銀時
「‥ちよこちゃん、何コレ」
「菓子パ」
あっけらかんとした口調でそう答えたちよこ。テーブルの上にはたくさんのお菓子。いやまァ、たしかに菓子パだけど‥
「チョコは?」
「私嫌いじゃんチョコ」
「俺好きじゃんチョコ」
スナック菓子しかねぇじゃねぇかァア!お前はもっと女の子らしい菓子買えねぇのか?俺の方が確実に嗜好は女だよコレ。せめてプリッツはポッキーにしようよ、トッポでも可。もしかしてそんくらいのチョコも嫌なの?
「こんなん野球少年のおやつじゃん」
「せっかくのバレンタインなんだから、文句言わないの」
「せっかくのバレンタインだから言ってるんだけど!ちよこバレンタイン分かってる?」
「チッ、侍がバレンタインデーに舞い上がるなっつーの。2ヶ月前にクリスマスあっただろーが」
「急に口調怖っ!その考え方ちよこの方が侍じゃねーか」
ちよこは基本、嗜好が俺と逆だ。コーヒーは絶対ブラックだし甘いものは基本食わない。いちご牛乳に至っては砂糖と牛乳を混ぜたただのピンク色の液体だと思っているらしい。いちごぎゅうニャーの俺からしたら理解不能だけど。
「じゃがりこうまー」
いや、でもさちよこちゃん。今日バレンタインじゃん?好きな子にチョコあげるんだよ、ちよこが嫌いでも俺にくれるくらい良くね?銀さんめっちゃ楽しみにしてたよ?ちよこの家来るまでルンルンだったよ?
「銀時も食べなよ、ほら」
「‥‥‥」
こいつにはそういう女らしさがない。見た目はそこらの女より可愛いのに、芋焼酎とするめが好物とか公言しちまうような女だもんなァ。
「‥そんなにチョコ欲しかったの?」
「当たりめーだろ、クリスマスの朝枕元にプレゼントなかった時のショックと同レベだから」
ざくざく、じゃがりこを食べながら俺を見るちよこ。いや、ざくざくじゃねぇよ。俺のテンションがざくざくにされてっから今!
「じゃがりこ、プリッツ、ポテロング、どれがいいか選んで」
「俺はこういうのじゃな「じゃあ、じゃがりこね」
おい聞けよ塩辛女。イライラしてきたよ銀さん、糖分足りないからァア!
「はい、ゲームスタート」
急にじゃがりこをくわえて俺の後頭部をぐいっと寄せてきたちよこ。え、何?と状況を理解する前に口に入ってきた塩辛いそれはじゃがりこだった。目の前には真顔のちよこ。今すぐにキスできそうなその距離。え、何コレ。
ざく、一口ちよこがじゃがりこを噛めば縮まる距離。俺は突っ込まれたまま固まっていたけれど、侵食されていくそれにやっと意味が分かった。
「フッ、」
何お前、こんないやらしいゲームするために棒状の菓子ばっか買ってきたのかよ。
ざく、ざく、ざく、
近づく度、一回に噛む長さが短くなって。焦らしですかちよこちゃん、こんなに近いのに。
「(何その不意打ちなギャップ)」
オッサンみてぇな嗜好だけだと思ってたら、こんな可愛いこと考えられるのかよ。悪ィけどその焦らし効果テキメンだわ。
「ふふっ」
今さら恥ずかしくなったのかちよこがニッコリ笑った瞬間、ギリギリ保ってた俺の理性がプツンと切れた。
「(あーもう知らね‥)」
ざくっ、
残ったじゃがりこに一気に食らい付く、と見せかけて唇にゴールイン。チョコみたいに甘くなんかねぇ塩っ辛いキス。
ざく、ざくっ、
でも何でこんなに旨いんだよ、
「‥悪くないでしょ?」
「んーまぁまぁ」
ちよこのしてやったり顔が悔しいから素直には言ってやらないけど。
「もう一回やろうよ」
はしゃぐちよこはポテロングに手をのばす。いやいや‥そんな長いの焦らしまくりじゃん、
「ちよこ、こっち向け」
「ん‥っ」
振り向いたその顔に自分の顔を近づけた。今度は障害物のない柔らかなキス。
「やっぱり、こっちだな」
「へへっ‥私も」
5センチ先の甘い世界(スパイスがあっても良いじゃない)