糖度は6% | ナノ

沖田 総悟




「総悟、今日パトロールでしょ?」

「‥乗せねェぞ」

「お願いっ!コンビニに寄るだけだから!」

目の前で手を合わせて片目を閉じるちよこ。ブッサイクなウインクだな、近藤さんの方が上手い。

「何買うんでィ」

「ジャンプ」

「お前マガジン派じゃなかったけかィ」

「たまにはえぇがなー」

「‥‥‥」

口調がウザかったのでちよこの腕に生えている宝毛をぶち抜いた。

ブロォオン、

助手席にヘコんでいるちよこを乗せた。そんな宝毛が大事なら日頃から俺に自慢するなってんだ、抜いてくださいって言ってるようなモンでィ。

「‥総悟に宝毛が生えたら抜き返すから」

「代わりにお前の毛根断ち切ってやらァ」

「それ脱毛?全身脱毛?」

「うっせーな、脛毛ガムテープで引っ張るぞ」

「おーこわ」

「ガリガリガリクソンか」

信号が赤になり、ゆっくりブレーキ。ミラーにかけられたお守りが揺れて鈴が小さく鳴る。

「これ色褪せてきたねぇ」

ちよこが入隊してきた年に、何台もあるパトカー全台にこいつがひとつひとつ作ってつけたお守りはかなり色が褪せてきていた。最初はお守りとか裁縫の他にバレンタインとか誕生日に手作り菓子を作っていたちよこだが、最近はとんと料理してる姿は見ねーし手作り菓子も食わない。

「総悟、今度商店街のせんべい買ってきてー」

今じゃ俺に命令するまで生意気になった。女らしさってのは信じれねぇや。

「おら着いたぞ、30秒で買ってこい」

「せめて3分」

ノロノロとコンビニに入っていくちよこの後ろ姿を眺める。ケツでかくなったな、アレじゃ岩と見間違えんぞ。

「‥バレンタインか」

コンビニのあちこちにハートやらチョコやら甘ったるいロゴが見える。実際、バレンタインなんて一部のヤツ(若い男女)しか盛り上がってねーと思うんだけど。まぁ屯所みてぇな男所帯は別か。そういえば朝から全員ソワソワしてたな、とくに近藤さん。

早くも店から出てきたちよこを見て、こいつも誰かにあげんのかと何となく気になった。去年も一昨年も女中たちとセットで寄越してきやがったけど、一応女なわけだし真選組として働いていたって好きな男の一人や二人いてもおかしくはねェ。ケツでかいけど。

「ふぉー外寒すぎ!」

暖房のスイッチを強にしながらブルブル身震いするちよこ。

「お前何買ったんでィ、」

ちよこは何も持っていなかった。パトカーを出たときと同じだ。

「内緒。女には秘密のひとつやふたつあんの」

「暖房の温度上げろ、凍えそうでィ」

「どういうことだコルァ、甘ったるいチョコレートで溶かすぞ」

「ふーん、お前もバレンタインとか気にすんのか」

「当たり前田のクラッカー」

「誰でィ」

「言ったら言うじゃん」

「そんな小5みてぇなことしねぇよ」

「どうだか」

今の会話からしてチョコを渡す相手はいるらしい。問題はそれが誰なのかということだ。普段から一緒に行動すること多いが、外にいるようには見えねぇ。こいつが町中で知らない男と会っているのも見たことがない、ということは隊士の中か。


「ザキ」

「眼中になし」

「近藤さん」

「願い下げ」

「土方チンカス十四郎」

「何そのハーフみたいな名前」

「誰でィ、」

「言わないヨーゼフ」

「パトカーから降ろしたろかいけつゾロリ」

「やってみろシアンルーレット」

チッ、本当に言う気がないらしい。窓の外を見ているちよこ。腹立つ、お前の分際でいっちょ前に恋心なんか抱いてんじゃねーやィ。

「剣に迷いのあるやつは死ぬぞ」

「それ総悟が近藤さんに言われやつでしょ」

ひとり余裕ぶっこいてるちよことは裏腹に俺はこいつのチョコを渡す相手を脳内で必死に探していた。でもいざこの人ですと言われても納得はできねぇ気がする。そんなの認められるかってんだ、ちよこに手出すなんざ許さねぇ‥父親か。

「キツいよ、その自分ツッコミ。新八くんに指導してもらってきたら?」

「あの眼鏡か」

「ぶっぶー、そんなに気になるの?」

屯所に着いたパトカーからちよこが降りる。結局パトロールしてねぇ、いつものことか。

「総悟」

一足先に門をくぐるちよこがポケットをごそごそして何やらポーンっとこちらに投げてきた。投げられたそれは小さくて何か分からないが、とりあえずキャッチ。

「正解、もう分かったでしょ?」

フフッと意味ありげに笑ったちよこは足早に屯所へ帰っていった。ひとり取り残された俺の手の中にはチロルチョコ。

「ちよこ、来年は手作りにしろィ!」

「声デカイィイイ!」

俺の叫びに慌てて戻ってきたちよこの真っ赤な顔を見て、嬉しくなる自分がいた。

「ちよこ、」

意味もなく名前を呼びたくなって。バレンタインも悪くねぇと思った18の冬。



ツンデレの正攻法
(ちゃんと受け取ってよね)
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