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坂本 辰馬


「辰馬!」

久しぶりに聞いたその声に、自然と笑みがこぼれる。サングラスの向こう側で控えめに手を振るちよこがいた。

「おまん、髪伸びたのぅ」

「だって半年ぶりだもん、そりゃ伸びるよ」

自分を見上げるちよこに近づき、その頭を撫でた。柔らかい髪が手のひらを滑る。目を細めて笑うちよこ、半年経ってもこいつはやっぱりおぼこいのぅ。

「胸は相変わらずじゃき」

「うるさい!馬鹿!」

「アッハッハッハッ」

「何が笑えるんじゃあ!」

ぽこぽことわしの胸を叩くちよこ。久しぶりに会って早々怒らせてしまったが、そんなことすら楽しいと感じる。

「電話で早うもんちきて言うから帰ってきてみれば、元気しゆうじゃか」

「それは‥いま辰馬に会ったからでしょ」

「ほーう、素直じゃの」

口を尖らせてこちらをチラリと見上げるちよこにずっと我慢させてしまっていたことを、申し訳なく思った。直接会えば、電話や手紙じゃ見えん細かい表情も丸見えじゃ。
せっかく会えたから寂しかったとか会いたかったとか、あえて言わんちよこを見ると愛しさとづつない感情が同じくらい溢れた。会いたくてもすぐには会いにいけんのは仕方ないことじゃき、それを理解して付き合うとてくれるちよこには頭が上がらん。

「今日はちよこのしたいこと何でもしちゃる」

「ほんと?」

「本当じゃ」

わしが頷くと、ちよこはパァアっと表情が明るくなり俺の手をとった。

「行くぜよ!」

「おーさすがやの、わしにそっくりじゃ」



久々に感じる江戸の冬は寒かった。

「あっ、ここの肉まん美味しいの」

「ここのお店に辰馬が好きそうな船の模型があってね、」

「辰馬、こっちこっち」

寒い江戸の町をちよこはお構い無くはしゃいでいた。行く先々で楽しそうに笑うちよこ。わしに会っただけで元気になってこんなにはしゃいどる、
わしがちよこの歳の頃もこんな元気だったかのぅと思うほどだった。

「それにしても、ちよこと出掛けるのはまっこと久々やのぅ」

「うん、辰馬楽しい?」

となりを歩きながらそう聞くちよこ。

「あぁ、おまんより3倍は楽しんどる」

「えぇーそれはないよ!私の方が楽しいし幸せだもんねー」

おーおー、その笑顔でその台詞は反則じゃ。帰したくなくなる。そっとちよこの小さな手を握った。きゅっとあたたかい力が返ってくる。ちよこ、残念じゃったのー‥やっぱりわしの方が幸せじゃ。

「辰馬、」

ふたりで一日中遊び回ったあと、やって来たターミナル。半日前にもう一度戻りたい思うのはわしだけじゃないはずじゃ、夜景を見ながら迫る別れを惜しむ。

「今日バレンタインデーでしょ?」

手作りじゃないけど、と付け加えたあと渡されたのは大きな船の形をしたチョコレート。

「なんじゃぁ、これは」

「すごいでしょ?男の人に人気なんだって」

大きいから快援隊の人たちとも食べれるね、とクスクス笑うちよこ。いかん、これはわしがひとりで味わうモンじゃき。

「わしからもプレゼントがあるぜよ」

「え、うそ何?」

驚くちよこを楽しそうに見ながら懐から出したはカーネーションの花。

「わぁ、かわいい‥」

赤とピンクが1本ずつのカーネーションを受け取ったちよこは目を輝かせた。

「夜景見ながらお花なんて、辰馬ロマンチスト」

「アメリカっちゅう国では、バレンタインに愛する人に花を贈るんじゃ」

「そうなんだ‥素敵、ありがとう」

嬉しさと恥ずかしさが入り交じった笑顔がこちらを向く。

「いんげの。おまんカーネーションの花言葉、知っとるか?純粋な愛情じゃ、その可愛らしい色もおまんに似合うとる」

そう言いながらちよこの頭に手を乗っけた。慣れんことすると恥ずかしいけんど、ちよこの目から涙が溢れるのを見たら、

「辰馬‥ありがと、う」

わしの恥ずかしさを越える愛しさに包まれた。無言のままちよこを抱き寄せて、そっと顔を埋めて。

ささやくように名前を呼んだ。



時よ、どうか僕らを置き去りに
(二人の世界で眠りたいのです)
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