迫り来る時間をともに
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※沖田視点


震える肩を抱く力加減は麻痺していた。藤堂の泣き声が胸から直接伝わって、自分の無力さに藤堂の肩に顔を埋めた。小さな背中に背負ってるモン降ろせよ、お前が必死に抱え込まなくてもお前の周りには一緒に持ってくれるやつ、いるじゃねぇか。


「うっ、ひっ‥っく」


なァ、俺が言わねぇとお前はまだ俺を頼らねぇのか。俺が強引にしねぇと素直にならねぇのか。


‥そんなに俺が、嫌いか。


こんなに近くにいるのに、答えは解らない。心の中に出てくる言葉たちは藤堂の涙に消えていく。この手の中にいるはずなのに、気持ちは遠い。それでも俺は藤堂をただ抱き締めることくらいしかできなかった。それが自分にできる精一杯の気持ちの表現だからだ。


自分の不器用さに笑えらァ。女の涙も拭えねぇ、泣き顔すら見られねぇ俺はこいつを、藤堂を抱き締める資格なんかあるんだろうか。


‥‥‥


‥‥





「お、きた‥」


あたたかい手が背中をつかむのが心地よくて、人肌を包み、人肌に包まれることの温もりに浸っていたとき胸の中で藤堂が俺を呼んだ。


どれくらい時間が経ったかは知らない。外は相変わらず暗いし誰も通らない。時間が止まっていると言っても不自然ではないほど現実味のない世界に俺たちはいるような気がした。


「の、ど‥かわ、いた‥っく」


「あ?あぁ」


鼻をすすりながら何を言うかと思えば、藤堂はしゃっくりするようにヒックヒックしながら自動販売機の方を見た。たしかにそんだけ泣きゃ体ん中カラッカラだろうな、泣き止んでも俺の胸から離れない藤堂。今さらになって自分のしたことがとんでもないことだと手汗が滲んだ。


正直もっと拒絶されると思った、いつものうるさいテンションで胸を叩いてまでも、金玉を蹴り上げてまででも俺から離れると思っていた。


そんな藤堂がおとなしく俺に抱き締められてたってことは、お前の中の俺は少しでも認められてんのか。息を整える藤堂を見下ろしながら聞いてみる、もちろん声には出さずに。


それからまたしばらくして、背中からするりと落ちた藤堂の両手。急に背中が軽くなって自分がちっぽけに感じた。藤堂は着物の袖で涙で濡れた顔をぬぐっている。俺はそっと藤堂から離れながら首元のスカーフを手にする。


「汚ねぇな、これ使えよ」


首もとのスカーフをしゅるんとほどき、藤堂の頭にかぶせた。普通女ってハンカチとか持ってるだろ、何で男からスカーフ借りてんでィ。


「え、いいの‥?」


真っ赤な目で俺を見上げた藤堂。ひっでぇ顔だな‥まぁさっきよりはマシな面「ブーッ」


「‥‥‥」


‥おいメス豚。いいの?とか遠慮してたくせに早速鼻かんでんじゃねーか。それ隊長格のシンボルなんだぞ、分かってんのか。


「あの‥沖田、ありが‥とう」


しばらくして藤堂も、さっきまでの状況を冷静に考えたのかよそよそしくなった。下を向いたままもじもじしてやがる、いつもならからかうところだが、俺にもそんな余裕はなかった。とりあえず近くのソファーに座らせて自販機に向かう。たしかこいつオレンジジュース好きとか言ってた気がする。オレンジジュースのボタンを押しながら、その情報を聞いたのはたしか台風が来てあいつの家に泊まったとき(第37話参照)だなと妙に懐かしくなった。


あのときはまだ夏で、藤堂は金成木に好かれてて、


「は、離してよ」


「そんなに野郎が好きか、」



あぁ、いつからだろうか。うるさい女が、もっとうるさく俺の中で暴れまわるようになったのは。


「真選組一番隊隊長沖田総悟、参上でィ」


「お、沖田‥!」



いつからだろうか。自分の知らないうちにあいつを目で追っていたのは。


「俺の言うこと聞けねぇっつーんなら俺の金玉見せるぞィ」


「‥‥‥‥は、」


「だから、俺のきん‥「な、何言っとんじゃアァァァァァ!」



いつからだろうか。いろんなあいつを知りたいと思ったのは。


「だから何で、」


「護りてぇモンはな、自分の手で護るからこそ意味があんでィ」



いつからだろうか。あいつの一喜一憂が気になり始めたのは。


「次落としたらお前の奥歯、麻酔ナシで根こそぎ抜く」


「こぇーよ!」



あぁ、いつから俺は‥こんなに。そこまで考えて止めた。今は自分の感情よりも大事なモンがある。


冷たいオレンジジュースをごくごく美味しそうに飲んだ藤堂はウトウトし始めた。ガキみてぇだな、と寝顔を見ながらもジャケットをかぶせた。そして隣に座ってわざと藤堂の肩を自分の肩に乗せてみる。藤堂は動かない。目覚めないほど泣き疲れているらしい、規則正しい寝息に俺のまぶたもどんどん下がっていった。


次、目覚めたときは何で肩乗せてんだメス豚って言ってやる。それで藤堂は知らないから!あんたの肩に乗せてた頭が腐りそうだわ!ってギャーギャー騒げばいい。いつも通りの、今まで通りの俺らに戻るだけだ。


だから、


「‥藤堂」


それまでは俺のわがままに付き合え。もう寝てっけど。


言葉も何もいらねぇから、そばにいさせてくれ。


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