口は災いのもと
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「痛い痛い痛い痛い痛いってばァア!」


「戻さないと治らないでしょう?」


「麻酔しよう麻酔!麻酔してくださいホントお願い」


「いくつなのあなた、戻すのは一瞬だから。ほらいくわよ」


「ちょ、待っいやいやいや‥ぎぃいやァア!」


本日二度目の叫びはCDショップではなく大江戸病院。診察室で私の叫び声が響く。自分の指があらぬ方向へ向いているというショッキングな状態とありえないほどの痛みで涙も止まらない。早く戻してほしいけど痛いから触らないでほしい。そう思っている間にも痛みは収まらない。


「しばらく痛みは続くけど我慢して。絶対動かしちゃダメよ」


ヤツに中指を折られ、病院で先生に折られた。結果、中指は元の正常な位置に戻ったのだけれど。
グルグルに巻かれた包帯を見る度に痛みが襲う。
魂を吸いとられたような気分だ。痛いし泣きたいし痛いしムカつくし痛い。何で私こんな目にあってるんだ。


痛い、失恋の痛みより痛い。今年1番泣いたかもしれない。


「付き添いのひと、外にいるわよ」


先生の心のこもっていないお大事に、という言葉を背に診察室を出る。付き添いじゃありません加害者ですと言う気力は残っていない。もう声が出ないんじゃないっていうくらい叫んだ。


「藤堂さん!大丈夫ですか!」


診察室をゆっくり出ると私を呼ぶ声がした。声のした方を見ると見たことのあるおじさんが立っていた。あの人‥お母さんのお見舞いのときに会った、真選組の人だ。その隣にはヤツもいる。目を合わせているが反省の色は全くない。ていうか睨んでね?おかしくね?


「大丈夫だと思いますか?」


私の泣き腫らした顔を見ておじさんはいや、と言って申し訳なさそうに私の手元を見た。おじさんは悪くないのはわかっている。でもとりあえず今の私には誰も絡まないでほしい。放っておいてほしい。


「今回は‥ウチの総悟がすまなかった」


おじさんが頭を下げたけど私は無視して二人の前から去った。後ろから私を呼ぶ声がしたけど知るもんか。私は猛烈にキレてんだ。噴火寸前なんだからなァア!ていうか何でおじさんが謝るの?あのクソガキ反省しろ。





「あれマナ?来るの明日じゃなかった?」


病室でお母さんはヤマザキさんと情報番組を見ていた。どうも、と挨拶してきたヤマザキさんを見た瞬間、寄るんじゃなかったと後悔した。真選組の人がいたらお母さんにヤツのこと言えないじゃないか。いや言おうと思えば言えるんだけど言いにくい。


「‥いろいろあって今日来た。これDVD」


お母さんは私の泣き腫らした顔を見て心配したのか何か言いたげだったが、DVDを渡すと表情を変えてDVDを受け取った。


「ありがとう〜♪お母さん嬉しいわぁー」


DVDを大袈裟に抱き締めて喜ぶお母さん。そんなに嬉しいか、私にはわからない。今の状況ならなおさらである。


「あれ、その指どうしたんですか?」


ヤマザキさんが私の包帯に巻かれた中指に気づいた。ヤマザキさんは私と喋ったことないけど、きっとお母さんが色々話しているから話しかけやすいんだろう。でも私はヤマザキさんのことをよく知らない。お母さんの電話は基本受け流してるし。


「ちょっとイナバウアーしただけです、」


「い、イナバウアー?」


ヤマザキさんは首をかしげる。お願いだから私とは絡まないでくれ、私はお母さんに会いに来たんだから。


「指大丈夫なの?お店は?」


DVDを大事に持ったままお母さんはそう聞いてきた。そうだ、店番があるのに怪我をしてしまった。お母さんの退院はまだ先なのに!


DVDを受け取ったときとはうってかわって、お母さんが心配そうに私の表情をうかがう。


「うん、軽い捻挫。利き手じゃないから店番は大丈夫」


嘘をついた、たぶん大丈夫じゃない。店番はできるけど効率が悪くなるだろう。いつもやっていることを片手でやるんだから、大丈夫なはずがない。でもお母さんを心配させるわけにはいかなかった。


それによく考えたら、私の怪我は自業自得でもある、あんなヤツと絡まなければよかったんだ。中指なんか出さなければよかったんだ。
ただでさえ、お母さんが入院してて大変なのに‥それなのにお母さんに愚痴ろうとしていた私はバカだ。


「そう、のり子ちゃんにも一応言っておくんだよ」


お母さんは少し安心したようだ。DVDをセットし始めている。心配したわりには立ち直りが早すぎる。もうちょい心配してくれてもよかった。ていうかその調子で自分の病気も治してほしい。


お母さんが本気でDVDを見始めたので、私はヤマザキさんにも挨拶をして病室を出た。


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