やりすぎは禁物 >「よーし!じゃあ二人の仲直り記念にみんなで卓球をしよう!」 近藤さんの一言で、私たちはなぜか卓球をすることになった。でも盛り上がっているのは近藤さんとお母さんとのり子さんだけ。何だよ、仲直り記念に卓球って。ていうか真選組の皆さん?あんたらのせいで私がどんだけ傷ついたか知ってるのか?もう傷は癒えてきたけどお前ら謝れ。フルーツ牛乳とアイスクリームとその他諸々奢れ。 「マナちゃん、ほら行くよ」 「近藤さん廊下は走っちゃいけないですよ、学校で"おはし"って習ったでしょう」 騒ぐ近藤さんにのろのろ着いていく私。なんだかんだ沖田や土方さん、山崎さんまで着いてきている、これ本当に卓球やる感じ? 「"おはし"?あぁ、(お)大声で(は)走らないと(し)しばくぞコルァ!の略だっけ?」 「どんな学校!?」 全員大声で走ってたら怖いんですけど!(お)おさない(は)はしらない(し)しゃべらないの略でしょーが。 「ていうか真選組、護衛で来てるんですよね?そよ姫は?」 「心配すんな、そよ姫は将軍様が見てんでィ」 「何で将軍が護衛してんだァア!お前ら死ぬぞ、首ちょんぎられるぞ!」 アイスキャンディーを食べながら(結局お母さんに買ってもらった)歩く沖田。スキップしながら卓球場へ向かう近藤さん。後ろでは土方さんと山崎さんがしゃべっている。ちょっと大丈夫なの?何で真選組が普通に温泉旅行来たみたいにエンジョイしてんの?税金ドロボーどころじゃないよこれ。将軍家より卓球って! 「2対2で10点先取、負けたチームは売店のアイスクリームを相手チームに奢るでどうでさァ?」 「よっしゃァア!負けないから俺!局長の名にかけて」 卓球場は意外にも広く、マッサージチェアやテレビなど色んなものが揃っていた。ビリヤードとかもあるなんてすごいなぁ。来る前までは乗り気じゃなかったけど、楽しみになってきたかもしれない。多人数で卓球なんて初めてだし、温泉の夜ってこういう楽しさがあるんだ、修学旅行みたいだとワクワクしてしまう。それに勝ったらアイス。私はバニラがいい!将軍家には申し訳ないけど私の頭はいつのまにか卓球に切り替わっていた。きっと他にも護衛の隊士がいるよね、うん。 ピンポン玉とラケットが全員の手に渡り、チーム決めをした。私は近藤さんとペア。うまく分かれなかった沖田が審判をすることになった。近藤さん卓球とか得意なのかなぁ。 「じゃあまずは地味鼻クソチームvs豚ゴリラで」 「おい総悟、鼻クソって俺のことか」 「ていうか豚ゴリラって何だこらァ沖田!」 ネーミングセンスうざすぎるんですけど!チーム豚ゴリラってもう怪物じゃんそれ!近藤さんも何か言ってよ!私は隣の近藤さんをバッと見上げた。 「よろしくな、マナちゃん!いや‥豚!」 「すいません!チーム変えてください!」 「文句言うなゴリラ。俺なんて審判なんだぞ、早く審判抜けてぇからさっさと戦って負けろィ」 「ゴリラは近藤さんでしょーが!私は豚のほう‥ハッ!」 自分でそう言った途端、ハッとした。や、やべー‥ 「へェー皆さん、今の聞きましたかィ?こいつ自分で豚って言いやしたぜ」 「‥くっ、」 しまったァア!なんて後悔は時すでに遅し。沖田の笑顔に影が入る。ニッタァとこちらを見て笑っている。くっそー! 「マナちゃん、偉い!よく言ったね、豚もゴリラもみんな生きてる、みんな友達なんだよ」 しかも近藤さんの助け船、意味分かんないんですけど!誰か安定した船を、ドSの荒波を渡れる頑丈な船を至急くださいィイ! 「位置につけメス豚。さっさと始めるぞィ」 「‥う、うっさい!」 今この状況でメス豚って呼ぶなとは言えない。言えないのが悔しい。沖田が誇らしげな表情をしているのがむかつく。私は持っているラケットに力を込めながら卓球台の前に立った。こうなったら、沖田を潰す!潰して潰してぐっちゃぐちゃにしてアイス奢らせてやる! 「あ、あと土方さんとメス豚が負けた場合の罰ゲームは例外で裸でリンボーダンスなんで頑張ってくだせェ」 「「何でだァア!?」」 私と土方さんの声が重なる。裸でリンボーダンス!?何でそんな恐っろしいことさらりと言えるんだ、想像するのも嫌なんだけど。 「試合開始でィ」 試合が始まると途端にみな真剣な表情に変わった(とくに私と土方さん)。コンコン、とピンポン玉の音が響く。審判である沖田の隣ではお母さんとのり子さんが頑張れとかおぉ!とか盛り上がっている。応援か野次か分からないしうるさいんだけど! コンコン、コンコン、 ピンポン玉はなかなか止まらなかった。意外にも山崎さんが強くて油断できないなと焦りながらも、近藤さんとのコンビネーションも忘れずにピンポン玉を追う。しかも卓球なんて数回しかしたことないはずなのに、私も意外と相手チームにピンポン玉を返せていた。とにかく真剣だった(とくに私と土方さん)。 「マナちゃん、スマッシュ!」 「‥っ!」 しばらくラリーが続いて、土方さんが返した玉が私の方へやって来た。その玉を見て叫ぶ近藤さん。よっしゃ、チャンス!私はラケットを握りしめて、コンと弾んだ玉へ勢いよくラケットをぶち当てた。 「うをぉおりゃああぁあ!」 土方さん、ごめんなさい。リンボーダンスはよろしくお願いします。そんな謝罪を込めた私の玉はものっそい勢いで飛んでいった‥ってアレ、飛びすぎた!?軽い玉に力を込めすぎたからか、ピンポン玉は相手の卓球台を越えて‥ 「楽しそうな遊びをしているな、ぜひ余も‥パァアアン! 「「「「‥あ」」」」 タイミング悪くやって来た誰かのおでこにクリーンヒット。ピンポン玉を食らった人はその場に倒れこんだ。コンコンッ、とピンポン玉の落ちる音もする。やばい!と思い私は慌てて倒れた人のもとへ駆け寄る。怪我とかしてないよね?って‥ 「しょ、」 倒れていたのは男の人でおでこが赤く腫れていた。 「しょ、」 何かこの人‥見たことあるんだけど‥ 「しょ‥」 この人って、あの人だよね‥あの、あれ‥ 「‥将軍かよォオオォォオォ!」 前へ 次へ back |