似た者同士が笑うとき
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「何、まだいたの」


何だかんだ1時間ほど露天風呂に入っていた私が温泉を出ると、既に出て着替えていた沖田が壁にもたれていた。ぽかぽかを通り越して熱い私とは裏腹に沖田は髪が半乾きなくらいで、いつもとあまり変わっていない。ラフに着た浴衣と首に巻いたタオルが似合っている。


「行くぞ」


沖田はそう言って一人歩き始めた。行くってどこにだよ、と思いながらも待っていてくれたことがちょっと嬉しくて。案外あっさり仲直りってできるもんだなーと沖田の後ろを歩きながら思った。温泉に入る前に通ったこの廊下が、仲直りしただけで何だか全く違う場所に見える。不思議だ。


「代金請求は土方十四郎で。西の間に泊まってる真選組の瞳孔開きっぱのキモチワルイ男でさァ」


沖田がやって来たのは売店。フロントの隣にあるそこはアイスクリームやお土産などが売られていて、他の宿泊客もちらほらいた。


そんなお店で私たちはお風呂上がりの一杯、フルーツ牛乳とコーヒー牛乳を飲んだ。沖田、ではなく土方さんの奢りで。申し訳ないなと一瞬考えたけど、タダで飲めるという魅力には敵わなかった。土方さん、ゴチになります。


「う、うま!」


火照った体に流しこむ冷えたフルーツ牛乳の旨さは想像を絶するものだった。何これ、フルーツ牛乳ってこんなに美味しかったっけ!?驚く私のとなりでコーヒー牛乳を飲む沖田。一気に飲むらしい、グビグビと喉が鳴っている。


「ッハー!うめぇな」


「ぷっ、髭できてるよコーヒー牛乳の」


「オメーはモノホンの髭生えてんぞ」


「えぇ!嘘!?」


「男性ホルモン分泌されすぎじゃねーのかィ、ヒロインのくせしてありえねぇ」


冷ややかな視線をこちらに向ける沖田。ひ、髭って!マジで生えてんの!?それマジでヒロイン失格じゃね?自分では髭を確認できないのでとりあえず口元を隠す。


「嘘でィ、豚に髭生えたらもう終わりだろ色々と」


「‥終わってんのはお前の性格だろ!誤解を生むような嘘言うんじゃねェエ!」


私の口元を隠す仕草を見て沖田が真面目な表情でポツリ。キレる私を無視して2本目のコーヒー牛乳を買いに売店へ戻っていく。うっぜーな、飲みすぎてそのドス黒い腹を壊してしまえ。


「藤堂、行くぞ」


沖田が2本目のコーヒー牛乳をプハァ!とこれまた一気に飲み干して空ビンを捨てたあと、まだ半分近く残っている私のフルーツ牛乳をとってグビッと勝手に飲んだ。


「あぁ!勝手に飲むな!」


「誰が払ったんだと思ってんでィ」


「土方さんでしょーが!何であんたがそんな偉そうにしてんだムカつく!」


空になった私のフルーツ牛乳をゴミ箱に捨てた沖田は売店を出て歩き始めた。とことん勝手な男だな、次はどこ行くつもりだよ。


「何やってんでィ、」


私が沖田の後ろ姿を眺めていると、歩いていた沖田が立ち止まりこちらを振り返った。


「どこ行く気?」


「散歩」


「一人で行け」


「俺が襲われたらどうすんでィ」


「ぜひとも襲われろ。捜索願い出してほしいなら行く前にフルーツ牛乳もう一本奢れ」


シッシッと追い払う仕草を見せれば、沖田が小さくため息をはきながらこちらへ近づいてきた。


「ったく、素直じゃねぇなー。俺と散歩行きたいって言えってんでィ」


「いや行きたくねーし。外真っ暗だし寒いじゃ‥ちょっと!」


沖田が私の腕をパシッと掴み、何も言わず歩き始めた。腕‥痛い痛い痛いィイ!


「ちょ、沖田痛い!離してよ!」


「散歩に付き合うなら力加減-2にしてやらァ」


痛がる私をよそに沖田は旅館の玄関へ歩いていく。お前どんだけ散歩行きたいんだよ!しかも-2ってあんまり変わらなくね!?


「散歩着いてきてほしいって。私と一緒に散歩したいくらい言えば?」


素直じゃないのはお互い様だから沖田が素直になったら私も、素直になってあげなくもない。沖田が素直なんて想像つかないけど。


そう言う私に足を止めた沖田は私の腕をそっと離した。するりと力が抜けた私の腕がぶらんと揺れる。


「‥‥おまえに拒否権はねェ」


沖田は立ち止まったまま、振り返らずに、そう言った。周りの音にかき消されてしまいそうな小さい声は、私の中に大きな音をたてて降ってきた。それはなぜかとても心地よくて愛しくて嬉しくて。沖田はどんな顔をしてるんだろう、今何を思ってるんだろう。


「なにそれ、」


そんなの素直じゃないよと笑えば、沖田が伏し目がちにゆっくり振り向いた。


「‥うるせェ、」


沖田のふてくされた表情は母親に怒られたあとの子供のようだった。あの一言が沖田のなかでは精一杯の素直らしい。それがまた可笑しくて、でもその新しい表情に嬉しくなって。


沖田は離したばかりの私の腕にまた触れた。その手は母親の手を握る少年のようなやわらかさで、でも臆病さが見え隠れしていた。あまりの違いにさっきの痛みが甘く疼く。


「‥これ、力加減-5くらい?」


「さァな」


沖田が歩き始めて、腕がそっと引っ張られる。私は自然と口角が上がるのを感じながらその後ろを歩き出した。


「「( あぁ、本当に素直じゃない )」」


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