ラブ&ピース
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「あの日はな、」


誘拐された日のこと、囮作戦のこと、今さらだと言いながらも沖田は全て話してくれた。


身の危険があるため松平さんは避難していたこと(警察のトップなのにおかしくね?)、毒ガスは細工を施して他のガスにすり替えたこと、私たちが倉庫で見ていた隊士死亡の報道は真選組が間黒たちを騙すためにつくったビデオで潜入していた山崎さんがセットしたこと、間黒と私の会話は隠れて待機していたみんなに筒抜けだったこと、私の真選組を信じる発言を聞いて近藤さんが号泣したこと、ターミナル直前に沖田がわたしの首を叩いたのではなく(64話参照)、小型発信器をつけたということも。


全て聞いても、やったことの残酷さは変わらないし(ていうか思っていたより酷かった)、どうして一般人である私が囮にならなくちゃいけなかったのかムカつくことはたくさんあった。


でも山崎さんをはじめ、真選組なりに私を思っていてくれたことは素直に嬉しかった。自分達が囮にしたんだから心配するのは当たり前かもしれないけれど。


「じゃあ何で、言わなかったの」


「私が誘拐されることも、殺されちゃうかもしれないことも想定内だったの?」


自分が囮だと初めて知ったあの日、誰も否定しないことに私は深く傷ついていた。目も合わせずに気まずそうな表情を浮かべるみんなが遠く見えて、裏切られた気持ちが強くて。


だから安心したんだ。例え当たり前のことでも、私にとっては彼らを裏切り者のまま思い続けることはなくなったから。これで今まで通り、面と向かって彼らの悪口を言える。


真選組の行動、そして沖田総悟の独断で私は振り回された、傷ついたしたくさん泣いたけど、やっぱり私はそんなどうしようもない真選組が好きだ。バカでうるさくて一緒にいて良いことなんてないけど、彼らといる私は満たされている。沖田といる時間は楽しい。あんなに傷ついたのも、彼らだから。沖田を信じていたから。


今回のことで、彼らのことを心からそう思えるようになった。認めたくないと片意地を張っていた自分も溶かされるような気がして。


「沖田のばーか」


「急に何でィ」


湯船に浸かりながら、私は夜空を見上げる。星が大きくて空が近く感じた。


「‥ばーか」


「‥‥‥」


自分の声が空に溶ける、笑っているように聞こえるその声は沖田にどう届いただろう。チラリと隣を見れば沖田はフッと微笑んでいた。


「いつものオメーじゃねぇな、んな優しいばーか聞いたことねェ」


「沖田だって言い返さないなんて、いつもと違うじゃん」


「言い返す価値がないだけでィ、Sはそんな甘っちょろいモンに反応なんかしねぇ」


「‥ふーん」


そう言う沖田の声も笑っていた。そんな清々しい表情しちゃって‥私と仲直りできて嬉しいのか。寂しかったのかコノヤロー。


ずっと曲げていた足を伸ばす。あたたかな乳白色のお湯が揺れて波打った。


遠くで聞こえる鈴虫の音色、風で揺れる草木、静かな時間が流れる世界には私たちだけのようだった。


「何ニヤついてんでィ、気色悪ィな」


「う、うるさい」


悔しいけど、気づいてしまった。認めたくないけど、分かってしまった。


私の平和は沖田だということに。


「あとで売店のフルーツ牛乳おごれ」


「はぁ?仲直りしてあげたんだから沖田が払ってよ」


口喧嘩ばっかりでバカにされていつもムカつくけれど、沖田といる私はどこかで沖田を認めてしまっている。


「ねぇ、沖田」


沖田のいる日常がいつまでも続いてほしい。できればずっと、沖田と一緒に口喧嘩していたい。


「何でィ‥はっ!茹ですぎたか」


「豚肉扱いすんじゃねぇよ!」


大嫌いなはずの沖田にそんなことを思ってしまった私だけれど、やっぱりこの時間も平和だった。


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