変わっていないように見えるだけ
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冷える田舎の夜、温かな温泉に男女が二人。静かな時間が流れていた(私の心以外)。


「俺の話聞け」


「わ、わかった‥から‥動かないでよ!」


沖田の変質者発言により私の焦りはピークに達していた。こんな状況で金た‥ゴホンッ‥これ以上沖田が暴走したら仲直りどころじゃなくなるので私は話を聞くことにした。というか頷くしか選択肢がなかった。こんな状況で話なんて落ち着いて聞けないだろうけど。


こんなことになるなら、お土産屋さんで会ったとき、廊下でぶつかったとき話せば良かったと後悔しながら沖田が話すのを待った。ていうか距離、距離!もう少し離れようよ、沖田クン?


ぽちゃん、


沖田は私が逃げないことが分かると目の前から、隣へと移動した。依然、状況は際どいけど沖田が隣に行ってくれただけで私のショート寸前の心臓は落ち着きを取り戻した。


「ショート寸前ってお前、セーラームーンか」


「‥‥‥」


普通にツッコんでじゃねェエ!私の心臓事情は放っておけよ!早く用件を言えぇえ!


「お前とこんなところで会うたァな」


「‥こっちの台詞なんだけど」


冷えた肩を温めるように湯船に深く浸かった。顔を見ていないから、沖田の話を聞けるかもしれない。逃げずに思ったこと話せるかもしれない。


「世の中ってモンは狭いなァ」


「いや、私が言ってんのは何で女風呂であんたと会わなくちゃいけないのってことなんだけど」


「安心しろィ、清掃中って札かけといた」


「安心できるかァア!」


驚いてバシャァっと立ち上がりそうになった。が、すぐにハッとして動きを止める。お、落ち着け‥!今立ち上がったらとんでもない状況になる!立つな、絶対立つんじゃないぞ私!


「立て、立つんだジョー」


「お前は何を言ってとんじゃァア!」


沖田が感情のこもっていない声でそう言った。拳を作ってフンフンッ、とパンチしている。ジョーか、それジョーか。ていうかジョーにかまけて変態発言すんなよ。


「‥話したかったことって何よ」


このままでは話が進まないので、私は自ら話題を振った。沖田はすぐに口を開かなかった。


「‥ザキがな、」


少しの沈黙のあと、沖田が山崎さんの名前を口に出した。てっきり謝るのかと思っていたのでお湯の中の足がズルッと滑った。いやこれはアレだよ?天然温泉だからヌルッとしてるだけだか「絶対護るって言ったんでさァ」


「‥は?」


沖田のいる左隣を見ると沖田は夜空を見ていた。真っ黒い闇を映す目がゆっくりと瞬きをする。


「自分は潜入捜査で敵陣にいるが、何かあったときはその職務を投げ出してオメーを護らせてほしいって」


「‥‥え、」


「そう言うザキに土方のヤローは、そんな状況にはさせねェって言った。俺の作戦に抜かりはねェからって余裕面してな」


沖田が自嘲染みたようにフッと笑う。その目は優しくたくましく見えた。山崎さんと土方さんがそんなこと言ってたなんて、


「言い訳にしか聞こえねぇかもしれねぇがな、近藤さんもとっつぁんも‥俺らはオメーを裏切ったわけじゃねぇ。オメーを、藤堂を信じてた。何があっても助けるって決めてたんでィ」


「でも‥!私は言ってほしかった‥私がどんな気持ちで捕まってたか‥真選組を待ってたか、分かるでしょ‥?それにいくら護ってくれる人がいたって、抜かりのない作戦があったって、そのどれもが成功するとは限らないじゃん。真選組なら尚更分かるんじゃないの!?」


「オメーにこっちの作戦話したところで上手くいく保証もねェだろ」


「そっ‥それは、」


「土方さんや近藤さんがお前を囮にすんなら話せって言ったのは確かだ、でも俺は話さなかった」


「だから何で、」


「護りてぇモンはな、自分の手で護るからこそ意味があんでィ」


勢い任せに喋っていた私たちの会話は、沖田のその言葉でプツンと切れた。というか私がその言葉に返すことができなかった。沖田がゆっくりこちらを見る。夜空を見ていたその目は真っ直ぐこちらをとらえていて。その真剣さに私が恥ずかしくなった。そんな言葉‥恥ずかしげもなく言わないでよ。


「メス豚のこと分かってんのはザキでも土方のヤローでも近藤さんでもねぇ、俺だ」


「めっ、メス豚って‥言わないでよ!」


「でもお前があんなに‥悲しむとは思わなかったんでさァ」


沖田が私を見て言ったその言葉はとても小さな声だった。


「‥お前ならふざけんじゃねェってキレて、でも次の日にはコロッケ売ってんだろうって思ったんでィ」


いや、沖田の言ってることは正しいよ。実際キレたけど次の日店番してたし。でもきっと今、彼が言っていることはそういうことじゃない。沖田の大きな目が刺さるようで私の胸がドクンと大きく鳴る。


「お前のこと考えてなかった」


「(‥それいつもじゃね?)」


珍しく、沖田が真面目に話していた。今まで喧嘩らしきことは何度かあった、その度沖田は彼なりに反省していた。それはごめんねの言葉すらないものの、私にはちゃんと伝わっているもので。


「‥‥悪かった、」


「沖田‥」


不意にそれた沖田の視線はわざとらしく遠くを見据えていた。沖田が私に謝った、それは私の中の闇を照らすかのように、私の心を穏やかにさせた。胸が温かくなる。じんわり、そんな言葉がピッタリだった。


「‥悪かった、間黒のイボ勝手にちぎって」


「‥‥は?」


「いや、お前あいつのイボちぎってやるとかなんとか言ってなかったっけか」


「イボ、って‥は?」


沖田が自分の鼻の横をツンツン指す。いやツンツンじゃねぇよ!え、何?今の"悪かった"って‥そっちィイ!?鼻くそ野郎(間黒)のイボォオ!?


「ちょ、あんたふざけるのもいい加減にしてよ!」


「だから悪かったって言ってんだろィ、イボも囮のことも」


沖田は吹っ切れたかのように両手で水鉄砲のようなものを作り始めている。私はそんな沖田を見てさっきまでじんわりしていた胸が冷めていくのを感じていた。


「せめて囮を先に言えよ、何でイボが先?」


「レディーファーストでさァ」


「どういう意味ィイ!?イボに性別あんの?ていうかそれで私があとってどういうこと!?」


キレる私に沖田の水鉄砲がプシュッと飛んできて顔面に直撃。お、お前はァ‥!全然反省してないじゃん、さっきのちょっとドキッとした台詞も何か信じれないんだけど。


「藤堂、」


上げて落とす、このパターン何回目だろうと呆れる私の名前を呼ぶ沖田。とりあえず振り向く前に水鉄砲のフォームを両手で作る(バレないようにお湯の中で)。


「何よ」


「猿、アレ猿じゃねーかィ?」


水鉄砲をお湯から出して発射させようとした瞬間、沖田が私の後ろを指差した。え、猿!?田舎だと温泉って猿出るの!?私は沖田の驚く表情に気をとられ水鉄砲を発射しないまま後ろを振り向いた。だが振り向いた先は露天風呂が続いていて猿はいない。


「猿ってどこにい‥バシャァアア!


沖田の方を振り返ると同時に私の頭からお湯が降ってきた。バラエティとかでよく見る頭上から大量の水が降ってくるような感覚。突然の事態にうわあ!となかなかの大声が出てしまった。え、何これ。


「あり?猿にお湯かけてやろうと思ったらお前だった」


「‥あ、あんたってやつはァ‥!」


顔を拭って額に張り付いた髪をわける。ニタニタ笑う沖田はどこから持ってきたのか大きな桶を持っていた。それでかけたのか。


「いやー色々と悪かったなァ、藤堂」


お猿さん、この男の金玉を思いっきり引っ掻いてください。


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