涙の理由は教えナイチンゲール >「貴様ら‥なぜだ!なぜ生きている!」 沖田とともにやって来た真選組の登場により、おっとっ党はあっという間にお縄についた。反撃をする間もなく捕まった間黒は、悔しそうで苦虫を潰したような表情で叫んでいる。 「そういう話はカツ丼食いながら、たっぷり話してやらァ」 両脇を隊士たちにおさえられている間黒に沖田が近づきブチィッ、 「んがァアア!」 間黒の鼻くそ‥じゃなくてイボを引きちぎった。あぁ!それ私がやりたかったのに! 「隊長、イボ引きちぎりすぎじゃないですかね」 そこへ隊士が一人、間黒に同情するように沖田へ話しかけた。間黒の元イボがあった位置は赤く腫れてしまっている。 「何でィ、隈無。お前まだあのイボのこと根に持ってんのか?俺ぁイボがある限り引きちぎり続ける」 その言葉に顔がひきつっている隈無という隊士は、すぐに沖田から離れて行った。何言ってんのあいつ、そこに山がある限りみたいな風に寄せて言ったけどイボだからね。何?イボがある限りって。全然決まってないんだけど、 「で、お前はいつまで拘束プレイしてんでィ」 それからイボをポケットに入れる沖田がふとこちらを見た。私はまだ縄に縛られたままで。ていうか好きでこんなことしてるんじゃねーよ!お前が外せよ、仕事まだ残ってるよ!イボコレ(イボコレクション)より人質解放でしょ! 「無事だったか、藤堂」 なかなか助けてくれない沖田にイライラしていると、煙草をくわえた土方さんがやって来た。ていうかあんたらさっきから普通に登場してるけど、あんたらこそ無事だったんですか?毒ガスは?そんなピンピンしちゃってゴキブリもビックリの生命力だよ。 「土方さんこれ外し‥」 聞きたいことはたくさんあるけれど、まずは自由になりたい。でも沖田はやってくれそうにもないので土方さんに頼もうとすると、それに気づいた沖田がてくてく私に近づいてきた。 「土方さんには無理でさァ。あ、俺はこの縄の縛り方DVDで見たことあるんで出来やす」 そしてほどこうとしてくれた土方さんを差し置いて私の手足を縛る縄をほどき始めた。何それ、それなら最初から外してよ。沖田がしゃがみこんで縄をほどく様子を、そしてわざとキツく縛り直したりしないか注意して見ながら、私は自由になるのを待った。ていうかどんなDVD見てんだ、こえーよ。 「おら、もう動けるぞ」 「‥ご、ご苦労!」 ほどかれた縄、久しぶりに自由になった体。手首は赤くなっているけど怪我はしていないし間黒に引っ張られた前髪もそんなに減っていなかった。沖田にはありがとうなんてくすぐったいこと言えなくて、手首をさすりながら大使たちの縄もほどく沖田を眺めた。 「事件のあとすぐで悪ィが事情聴取に付き合ってもらう、その大使の通訳も頼みてぇ」 「あ、はい」 私たちは事後処理を始める土方さんたちより先にここを出て、念のため病院で診察をするらしい。病院へはタイミングよくやって来た山崎さんが連れていってくれるようで。 「マナちゃん、大丈夫だった?」 「チッ」 「え?」 「あ、これはオット星語でイエスの意味なんで」 大丈夫なわけないじゃん、山崎てめーキャラ的に私が怖くないと思ってるのかとイラついたので丁度いい、舌打ちをしてやった。みんなに‥沖田に、心配かけたくないから、泣いてるところ見られたくないから普段通りに振る舞ってるだけなのに、だから山崎さんいつまで経ってもダメなんだよ。 「藤堂、」 大使たちに言葉が通じずテンパっている山崎さんに(あえて)手を貸さないでいると沖田が隣にやって来ていきなり隊服のジャケットを脱いだ。 「‥な、なに?」 その行為になぜか胸が音を立てて鳴った。そして沖田は脱いだそのジャケットを雑に私にかぶせた。 バサッ、と肩に乗る重みと温かさ。え‥何これ?いきなり沖田がどうしてこんなことしたのか分からない私はシャツ姿になった沖田をポカーンと見上げる。一方沖田は少しスカーフを緩めながら、 「着物はだけて豚の皮が丸見えでィ。外のカメラに映って放送されてみろ、苦情殺到でィ」 と言った。しかも不自然なほどこちらを一度も見ないまま。見上げた横顔はいつもと同じ、ふてぶてしい。でも沖田の下手くそな優しさが、ドSフレーズに包まれた思いが、雑にかぶせられた隊服の温もりが、はだけて冷えた肩にじんわり伝わって。 「‥‥っ」 自然と目頭が熱くなる、見上げた蜂蜜色がぼやける。泣きたくないのに、本当ムカつく‥沖田なんか、大嫌いだバカ。 「おま、っ‥何泣いて、」 「‥う、うっさいこっち見んなイボフェチ!ジャケット臭すぎて涙腺やられただけだから、っ」 こちらを見た沖田はハッと驚いた表情を浮かべた、それにハッとした私は顔を反らす。さ、最悪!見られたくなかったのに!ていうか泣きたくなかったのに‥!私のバカ!笑われる、また写真撮られる!(52話参照)慌てて涙を拭って何事もなかったかのように前を見るけどそれでもまだ沖田の視線を感じるので、私は自分を守るようにジャケットをつかんで雑に被されたそれを羽織り直した。 どうしてか、ジャケットを掴む手は震えていて。 「‥それはお前の鼻がおかしいんでィ」 ふわり、やってきた私の知らない匂いがした。臭い、本当臭すぎ‥どんだけ私の涙腺壊す気だ馬鹿野郎。 一方、山崎とオット星大使は、 「えーっと‥あー、アーユーオーケー?」 「「チッ」」 「傷つく!普通に傷つく!マナちゃん助けてえぇえ!」 前へ 次へ back |