お母さんの新しいお友達
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「それでね、山崎くんったらおもしろいのよ」


へぇー、


「まだ治ってないのにいきなりガバディ始めちゃってねぇ、婦長さんに怒られてるの」


ふーん。


元々お母さんは私に電話をすることが多い。入院生活はとにかく暇で、電話をかけてしまうのは入院あるあるだそうだ。


まぁ電話すると言っても、内容は今日の病院食が美味しかったとかどんな検査をしたかとか、私だったらお弁当の売れ行きとか、常連客と話した内容とか普通の会話だ。まぁ店番で週に一度くらいしかお見舞いに行けないから私としても近況報告するのにはちょうどいいから良いんだけど、良いんだけども!


最近、そんな電話の内容に変化が起きているのだ。一週間前、お母さんのお見舞いでクソ男(沖田総悟という名前だと判明)とモメてからだ。


「それを見て笑ってたお母さんも怒られちゃってねぇ、でもすごくおもしろかったのよ‥くくくっ、はぁー今思い出しても笑えちゃうわ。明日は屋上でミントンするらしいの」


お母さんの電話の内容はほぼ、同じ病室の男(ヤマザキさんというらしい)の話に変わった。ここ数日間のお母さんからの情報によると、ヤマザキさんは真選組の隊士で一緒にいた3人も全員真選組の人らしい。そしてあのクソ男は意外や意外、隊長。お店の手伝いをする前は星へ留学していた私の知識では真選組が警察というだけでどんな組織かよくわからなかった。だがのり子おばさん曰く"チンピラ破壊軍団"らしい。よくわからない。


隊長ってのは実は人気がなくて誰でもなれるのか、それとも人数が少なくてジャンケンとかで適当にあいつが隊長になったのか。どっちにしろ私が隊士だったら入隊初日に辞表を出すだろう。


話がそれたが、何が嫌かって私は毎日のように聞きたくもない真選組のことを聞かなくてはならないということだ(ヤマザキさん情報多め)。たまにあのクソ男の話が出てきた日なんて胃がキリキリして寝れないんだから。お見舞いにくる隊士の名前も出てくるけど、いちいち覚えていられない。


「ねぇマナ‥聞いてる?」


「ん?あぁ聞いてる聞いてる、婦長がガバディねぇーおもしろいよねぇ」


お風呂上がりの柔らかくなった爪を切りながら、聞き流していた電話の内容から覚えているワードを並べる。それを聞いてお母さんは張り切って訂正するが、もちろん私は聞き流す。いつから私はムーディー○山になったんだ。


「そういえばあんた、今週はいつ来るの?」


爪を切り終わって、爪切りの中身をゴミ箱に捨てているとお母さんが思い出したようにそう聞いてきた。そうか、今週まだ行ってなかった。でも行きたくないなーあの男に会ったら嫌だし。


とりあえず壁にかかったカレンダーに目を移すとカレンダーは先月のままになっていた。


「んーGWのどれ、かかな」


私はのっそり立ち上がりカレンダーの前へ移動した。受話器を耳と肩の間に挟み紙をつまむ。びりびりびりと乾いた音を立てて、まだ真っ白な四角いマスのかたまりが印刷された紙が顔を出した。自分が思っていたより大型連休が続いていて驚く。いつ行こうか。


「できるなら早めに来てくれない?」


「え、何で?」


「だってほら‥AIBO観たいから」


赤く縁取られた連休の日付を見ながらお母さんの口から出てきた"AIBO"の言葉の意味を思い出す。


AIBO‥AIBO‥AIB‥あ!


「‥あーあれね、」


思い出した、お母さんが好きな刑事ドラマね。元々、刑事モノが好きなお母さんは再放送でさえも毎週欠かさず観ていて、そこらの新人の警官より知識は豊富だと自慢している。何年も前から放送していたから私も見たことはあるけどハマる理由がわからない。お母さんは主演の人がかっこいいとか言ってたけど。


「初回限定版だからね!」


で、そのAIBOが少し前に映画化されてGWにDVDが販売されるのだ。


「えぇぇー、レンタルじゃダメな「絶対嫌、初回限定版買わなかったらお母さん病院の屋上から飛び降りるからね」


「何それ、そんな欲しいなら何で予約しなかったの?」


「忘れちゃっただけよ、」


あんなに好きなのに何で忘れるかな?


「はー‥いつ発売なの?」


「5月3日よ」


めくりたての5月カレンダーを見て5月3日を確認する。


‥え、明日じゃね?


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