ちなみにイルカはひみつのなかま
>




「攘夷党、おっとっ党の幹部である間黒容疑者がオット星から来日していた大使2名と通訳の女性を人質に引きこもっている現場には、たくさんの報道陣が詰めかけています。情報によりますと‥」


私たちが連れてこられたのは、江戸から遠く離れた港の倉庫。大使2人と一緒にパイプ椅子に座らされ紐で縛られた挙げ句、口にガムテープを貼られた。しかもガムテープは私だけ。


何で私だけ口の自由もなくなってるんだ、うるさいのか?私がさっき大声で叫んだからうるさいとか思ってるのか、あぁん?


倉庫にはテレビが置いてあり、私たちが誘拐されたことを中継で放送していた。倉庫の外には報道陣や野次馬が映っていて、事件の大きさが伺える。


「フフ、マスコミも増えてきたな」


私の近くでは間黒が楽しそうにテレビを眺めていた。ただ、私はこいつらに捕らえられているのに恐怖心はなかった。


「地獄でもあのガキと言い合ってろ、」


結局、あの銃は麻酔銃で(しかも効き目は数分程度)すぐに目が覚めたし、


「そんなに腹が減っているのか。言っておくが貴様の昼食は用意されていないぞ、」


あんなこと言ってたのに、ここへ来てすぐ私たち人質にカロリーメイト(メープル味)をくれるという何ともツンデレな優しさを見せたのだ。いや、そこは普通おっとっとだろ、とか思ったけど‥そう思えるくらい私は余裕だった。


似たような経験があるから、というのも一理あるけれどそれ以前に間黒がアホだということに気づいたからだと思う。そのうち解決して、次の話ではもうお店でコロッケ売ってるよみたいな。


そう、思ってた。そう思ってたのに、


「なお、彼らの計画的犯行は特別警察である真選組にまで被害を与えており、当時護衛にあたっていた30名のうち18人が死亡、8人が意識不明の重体となっております」


テレビから流れたそのニュースに私は頭が真っ白になった。港の現場からさっきまで私たちがいたターミナル前に画面が変わると、そこには立ち入り禁止と書かれた黄色いテープ、何台ものパトカーと救急車。サイレンやカメラのフラッシュ、行き交う人々の声。事件の恐ろしさが生々しく映し出されていて。私は目を凝らしてテレビを見続けた。時折、真選組の隊服が映ったけれど、沖田はいない。


「18人が死亡、」


数分前の情報が耳にこびりついたまま、頭の中でこだまする。一気に18人もの命がなくなった、こんなのひどい。絶対許せない‥家族は、亡くなった隊士の家族はどんな思いでテレビを見ているだろう。そう考えたら、涙が溢れた。


「藤堂、」


沖田は、生きてるの?亡くなった隊士の中にいないよね?最後に沖田と別れたときを思い出す、いつもの憎たらしい沖田総悟だった。当たり前か、あの時はまだこんなことになるなんて知らなかったんだもん。じゃあ沖田はもう‥


「‥‥‥」


いやいや、何考えてるんだ自分。たしかに沖田はムカつくし憎たらしいし一緒にいても良いことなんて全然ないクソ野郎だけど‥ぶっちゃけ死ねなんて常に思ってるけど、あいつはこんな死に方するやつじゃない。沖田は毒ガスなんかより恐ろしいことを平気でするんだよ?そんなただの煙に、負けたりしないよね?かきくけコロッケを食べさせるようなドSの極みがそんなことでくたばらないよね?


もうすぐバズーカ片手に、私の嫌いな憎たらし笑顔で乗り込んでくるよね?


「フフッ、いい気味だ」


心の中にある不安と可能性で葛藤する私をよそに、間黒が怪しく微笑む。こんな、鼻くそ以下の野郎にあいつらが潰せると思ってるのか?あいつらは、沖田はゴキブリより生命力あんだぞ!それにヒロイン置いたまま死ぬなんて私が許さない。連載どうすんだバカヤロー。


あいつは、沖田は絶対生きてる‥だから私も生きて帰る。絶対諦めない。



「こんな状況では貴様らの救出なんぞに回す人手もないな」


「「人手(ヒトデ)?」」


一方、オット星の大使は間黒の言葉におっとっとのキャラクターをまたも発見し、楽しそうに盛り上がっていた。お前らちったァ危機感持てぇええ!何?鉄の心臓なの?オットセイの心臓はこんなモンじゃびびらねぇってか?普通に頼もしいなオイ!


「多大なる被害を及ぼした原因は、パトカー内に仕掛けられた毒ガスによるもので、」


テレビから流れる情報を必死に聞き取る。もしかしたら沖田や土方さんが映るかもしれない。彼らに関する情報が流れるかもしれない。私はジッとテレビを見続けた。


「≠★゚〆※ヾ゜♂,Υ?√(マグロにヒトデ、さすがジャパニーズカルチャーだ)」


「◎÷μ^〓♀"♯(結果報告書を書くのが楽しみですよ)」


「(オメーらはもういいィイイ!黙れ、残りのカロリーメイト食ってろ!)」


そんな緊迫した空気は隣のオット星大使2名によって崩される。思うことや言いたいことはたくさんあるけど、ガムテープのせいで何も言えない。手足の紐はキツく縛られているのでほどくのは難しいし、これじゃあ本当に何もできない。あぁ!もどかしい。ていうか大使にこそガムテープ貼ってくんないかな!


真選組が大きな被害に遭っている今、人質として拘束されている今‥私はどうすればいいんだろう。


「貴様に仕事を与える」


倉庫に連れられてしばらく経った頃、仲間と話していた間黒が私のもとへやって来て睨む私の顎を無理矢理上げさせた。触るな鼻くそ!と怒りを込めた目で間黒を睨むと間黒がニヤリと笑った。無駄に歯並びが良いのがまたムカつく。


「今からここを中継に繋ぎ、我々の条件と要求を伝える。事件の悲劇性を強めるために貴様ら人質を映す。テレビの向こうの国民、そして今ごろ三途の川を渡っている真選組にも、良いアピールになるからな」


そう言って私の口元に手を近づけ、ブビリッ‥


「っつたぁあ!」


間黒が思いっきりガムテープを剥がした。皮膚ごと持っていきそうなその勢いに叫んだ大声が倉庫内に響く。てんめぇえ‥女の顔は命なんだぞ!もっと繊細に扱えコノヤロー!


「15分後に中継を繋ぐ。その間に食べておけ」


冷たく言い放った間黒が懐から出したものは、カロリーメイト(チョコレート味)だった。


「‥‥‥」


お前どんだけカロリーメイト好きなんだよ!しかもさっきと味が違うとかその無駄な配慮は何なの?そんなパッサパサなもんより水分寄越せ。さっきのカロリーメイト(メープル味)で口の中サハラ砂漠なんだよォオ!


「こんなもんいるか!あんたがいきがってられるのも今のうちだから!」


「「いるか?」」


「‥オメーらはもう良いって言ってんだろォオオオ!」




前へ 次へ

back

×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -