とと丸が出るとテンション上がる >「‥‥‥」 走り続けるリムジンにおかしいと不信感を抱いたのは10分ほど前のこと。 午前中にスケジュールで確認したときには昼食をとる予定の料亭までは10分と書いてあった。役人来日とはいえ、有名な星ではないのでそこまで話題になることも報道陣が詰めかけることもなかったのにターミナルを出て軽く30分が経っている。 ‥時間かかりすぎじゃね? 最初はリムジンにテンションが上がっていた私だったが、料亭はおろかどんどん街の中心街から離れていくのを見ているとさすがに怪しいと思うようになった。なのに鼻くそ野郎は呑気に手帳を確認したり窓からの景色を眺めている。 「あの‥」 静かな車内で鼻くそ野郎に声をかけるのに乗り気にはなれないけど、異様に静かな雰囲気と抱いた不信感に何だか嫌な予感がした私は、隣の鼻くそ野郎に声をかけた。 「料亭ってターミナルからすぐのところじゃなかったでしたっけ?」 「だから何だ」 「いや、あの‥遠くないですか?スケジュールには移動時間は遅くても15分って」 「そんなに腹が減っているのか。残念だが貴様の昼食は用意されていないぞ、」 「‥‥‥」 そういうことじゃねーよ!何!?こいつ私がお腹減ってるからこんなこと言うと思ってるわけ!?しかも私のご飯ないのかよ!通訳なのにどんな待遇? 「それに、」 こめかみがピクピク動く私の隣で、付け加えるように鼻くそ野郎がそう言いながら懐をごそごそと探り始めた。何だよ、私の昼食におにぎりでも出してくれんのか?だったら私はシーチキンマヨがい‥カチャリ 鼻くそ野郎が懐から出したのは、シーチキンマヨのおにぎりでも、ましてや昼食でもなかった。 「貴様らは昼食をとることができないまま、死んでもらう」 鼻くそ野郎が銃をこちらに向けていた。 「‥え」 相変わらず静かな車内、驚く大使たちの息を呑む声がやたらと大きく聞こえて、 「ぎゃああぁぁぁぁああぁあ!助けてぇええええ!」 私の叫び声が広い車内に響き渡った。なななな何?幕府の人が私に銃を向けるってどういうこと!まさか誘拐?人質? ‥やべーよ、どっちも経験済みなんですけどォ!でももう経験したくないんですけどォオ!この状況を段々と理解した私の心臓がばくばくと大きく鳴り冷や汗が溢れ出す。嫌な予感、的中するどころか的ぶち抜いてるんだけど!しかも私ただの被害者!何も関係ないのに巻き込まれてるゥウウ! 窓をドンドン叩いて大声を出す。閉ざされた車内で、しかも街から離れた静かな場所で助けを求めても無意味だと分かっていても、 「イヤァアアァダァアアアア!オカァアアアサアァアアンンンン!」 一度パニックになったら抑えられない。恐怖を心に封じておくなんて、黙って手を挙げて大人しく言う通りになんてできない。私はそんなクールキャラじゃないし、なりたくもない。 私は今を、今を生きるんだ。 「‥なんて言ってる場合じゃないィイ!」 やたらと輝く銃を大使たち、ではなく私に向ける鼻くそ野郎。何でこっち向けてるんだよ、普通ここは大使たちでしょーが! 「日本の幕府はやはり腐っているな。こんなガキに通訳を任せて‥おっとっ党がスパイとして潜入していることすら気づかないのだ」 「「「‥おっとっと?」」」 鼻くそ野郎の言葉に私と大使たちの声が重なった。え、あなたたち日本語喋れたんデスカ? 「゚#4@:%$◎~(オット星でおっとっとというお菓子が人気なんです)」 「=!#∋§〃(あ、なるほど)」 アラザン大使が恐る恐る口だけを動かしてそう言った。お菓子だったらどんなに良いか。 「‥私はおっとっ党潜入隊、間黒だ。オット星大使とお前を人質にテロを計画した」 「(は?間黒(マグロ)?」 おっとっ党なんてふざけた名前の攘夷組織は聞いたことない。おっとっ党やら間黒やら、さっきまでの恐怖はイマイチ胡散臭いそれらに少し薄れていた。その銃だって偽物だったりして。 「%〃⇒∴"∽¢∬(マグロって、おっとっとの中で大きめのやつですよね)」 「∇/!`∞◎=♯(私はイカの形が好きですがね)」 ‥つーかオット星大使二人とも余裕なんですけど。おっとっとトークで盛り上がってるんですけど、自分達が人質だって危機感はないのか。言葉が間黒に通じていないのがせめてもの救いである。 「真選組の隊士たちのパトカーには毒ガスを忍び込ませておいた、我々を追うことなどできまい」 「なっ‥」 間黒がリムジンの後ろをチラリと振り返る。それに釣られるように私も横目で見てみると護衛として走っているはずのパトカーは一台も見当たらない。車も歩行者もいない、静かな一本道を私たちはただ走り続けていた。嘘でしょ‥沖田は?土方さんたちも、 「間黒さん、B班の報告で真選組のパトカーの毒ガスの放出を確認。死傷者は多数に上っているということです」 「えっ、うそ‥!」 運転席から聞こえたその声。まさか運転手まで鼻くそ党‥!? 「メス豚発言をしたあの男も、とっくに死んでいるだろう。それと鼻くそ党ではない、おっとっ党だ」 フフフ、と企んだ間黒の笑みが私に向けられる。収まったはずの恐怖がまたやってきて、カチャリとこめかみに当てられた銃口に危険信号は一気に赤色点滅。 「地獄でもあのガキと言い合ってろ、」 パァアアアン! 私が何か言い返す前に、銃は鼻垂れた‥‥ ‥‥あ、間違えた。ゴホッ‥銃は放たれた。 前へ 次へ back |