そろそろ期待しない方がいい
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「本日の通訳を務めます、藤堂マナです」


真選組と行動が一緒だって近藤さんは言っていたのに、私は松平さんと行動をともにすることになった。冗談じゃない、あんな歩く兵器みたいな人と一緒だなんて確実に寿命縮まる!


「そんな緊張しなくていいってェば、」


倒れる近藤さんを無視して松平さんは私を車に乗せた。どうやら私を迎えに来てくれたらしい。ターミナルに着いて真選組と会うこともなく、私は幕府のお偉いさんたちに挨拶をしたり、通訳する際の注意を聞いたりと忙しかった。そんなハードスケジュールに普段レジ打ちとお弁当の包装しかしていない私は着いていくのが精一杯だった。しかも隣には座薬マン、松平さんがいるのだ。マジ近藤さん報酬期待してるからね!諭吉三昧にしてよね!ていうか近藤さん大丈夫かな?


「藤堂さん、期待しているよ」


「いやぁこんな若い子がオット星語を話せるとは。頼もしいなぁ」


ここ数時間、会った人ほぼ全員に挨拶という名のプレッシャーをかけられている私は高まる緊張で私ちゃんと喋れるかな、難しいこと言われて分かんなくなったらどうしようと一人焦っていた。失敗なんてできないし、でも上手くいく自信なんてこれっぽっちもない。オット星語の本読んでもっとちゃんと復習しておけば良かったァア!募っていく焦りと後悔。


今日の来日のために集められた人たちは当たり前に私よりずっと年上で、頭が良さそうな人たちばかりだった。そんな幕府の関係者と一緒にいる弁当屋の気持ちを分かってくれる人はいない。幕府、幕府、幕府、座薬、幕府、幕府だからね。井の中の蛙?袋の中のネズミ?意味はよく知らないけど感覚はそんな感じだ、真選組の生ぬるい雰囲気に帰りたい‥いやもうあったかいお家に帰りたいよママン!


「時間だ」


ターミナルに着いて1時間、お役人が到着したらしい。ついに来てしまった、もう逃げれない、やるしかない、な‥なんくるないさー。


「お役人は2人、オット星の親交大使‥名前は覚えているか」


迎えに来た幕府の人がターミナルのゲートへ向かう途中、私を試すようにそう聞いてきた。この人はさっき挨拶した幕府の人たちの中でもダントツで無愛想かつ冷酷な雰囲気を醸し出していた。ザ・エリートみたいなプライド高い感じが鼻につく。しかも私の案内人として松平さんと同様、一緒に行動をすることになっている。めちゃくちゃ嫌だ、チェンジ希望。さらにこの人は私の緊張を見透かしているらしい、きちんと説明を聞いていたのか確認するその口調がムカついた。


「‥アラザンさんとアザラシさんです」


「アラザン大使、アザラシ大使だ。遊びではないのだからな、言葉には気を付けろ」


うっぜェエ!細かいんだよ!ていうかオットセイのくせにアザラシ?アラザン?留学してた私が言うのもアレだけどややこしいんだよォオ!ピシッと訂正する幕府の人が冷ややかな視線をこちらに向ける。遊びなんて思ってないわ!クッソー舐めやがって‥私の語学力を見てもそんな態度でいられるのかね!?さっきまでの焦りは、やってやろうじゃねーかというに怒りに変わっていた。


「よォメス豚、相変わらず顔ひでェな」


ターミナルのゲートに着くと真選組の隊士が数名、その中に沖田と土方さんがいた。こんな公共の場で平然と毒を吐く沖田にイラッとしつつも、公共の場だし、私はこんなやつより大人だしぃ?反撃はしなかった。それに今の敵は沖田のクソヤローではない。


「きみ、私語は慎みたまえ。真選組は警備の任務を果たすだけでいい」


沖田にも冷たく言い放つこの鼻くそ野郎だ。何で鼻くそ野郎かっていうと鼻の横にやたらと存在感のあるイボがあるから。以後、この幕府の人は鼻くそ野郎と呼びたいと思います。


「この女にも言ったが、遊びではないのだ。その辺は弁えてくれるかね」


「‥っ」


この女、だと!?差別したようなその呼び方に思わず鼻くそ野郎を睨む。無表情のまま沖田たちの方を見ている鼻くそ野郎。ムカつく‥!こんなやつが幕府にいるから地球はダメなんだよ!


「お言葉ですがねェ、」


これが沖田だったら即反撃に出ているのに、と言えない悔しさと葛藤していると沖田が口を開いた。鼻くそ野郎から沖田へと視線を移す。


「あんたが今"この女"呼ばわりしたやつは、今日の役人来日には欠かせねぇ通訳でさァ。さっきから偉そうな態度とってるあんたより必要な人間なんでさァ」


「‥沖田、」


何を言うのかと思えば、沖田は私を庇うかのような発言をした。鼻くそ野郎をじっと見たまま視線を動かさない沖田、静かで重い空気だった。そんな中、まさか沖田がそんなこと言ってくれるとは思わなくて、私は面食らっていた。"この女"という見下した呼び方が気になったのは私だけではなかったことが何だか嬉しかった。そう思っているのが例え、沖田でも。


「きみたちは幕府に指示されたことだけをすればいい、この女も真選組も。これの何が間違っているのかね」


だが鼻くそ野郎は私への呼び方に反省することもなく、冷たい声でそう続けてくる。私は怒りを通り越して呆れていた。


「ずいぶん間違ってまさァ、あんたが"この女"呼ばわりしたのはメス豚っていう名前がちゃんとあんでィ」


「「「‥‥‥」」」


お、お前なァアア!また叩き落とすんか!思わせ振りなことしておいて奈落の底へ落とすんかァアア!何度目だよ、いい加減やめろ!"この女"と同じくらいムカつくわ!しかもちゃんとって何?ちゃんとするのお前ェエ!


「もう分かったでしょう。あんたはメス豚の案内人、もはや家畜以下でさぁ」


ニヤリと口角をあげる沖田に顔がひきつる。彼からしたら私も鼻くそ野郎も同じ標的らしい。


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