第一印象は大切に >「‥おはようございまぁす」 結局、私は通訳の仕事を受けることにした。この間のファミレスでは答えは出さなかったのだけれど、しつこく近藤さんが頼み込んできたので私が折れたのである。ただし報酬は真選組ソーセージ以外、かつ高価なものという条件付き。 相手はお役人さんなので気を付けてねと言う近藤さんは、私が何か失礼なことをすると思ってるんだろうか。そんな子供じゃあるまいし、コミュニケーション能力は日々の店番で培ってますが!? 「お役人がターミナルに着くのが11時予定だから、それに合わせて俺たちもターミナルに行くよ」 当日の朝、パトカーで家まで迎えに来てくれた近藤さんから今日の流れを聞く。沖田の運転するパトカーに乗り込んでひとまず屯所へ向かった。 「あ、あれ砂かけババアじゃね?」 「局長室入ってくけどどうしたんだ?」 「今日の役人の通訳って聞いたぜ」 「マジ?意外にすげーのな、砂かけババアって」 屯所に着くなり、すれ違う隊士たちがコソコソ。まぁただの会話なら許そう。しかし、引っ掛かることがひとつ。みなさんもお気づきであろう、 「‥‥砂かけババアって何?」 「お前、自分の名前も忘れたのか?末期じゃねーかィ」 前を歩く沖田が立ち止まり、呆れたようにそう言った。いや‥は?私の名前が砂かけババア?そんなはずがない、どこの世界に妖怪がヒロインのお話があるんですか!? 「早く人間になりたいよ〜」 「それベムだろ!しかも真似うぜーよ、何その馬鹿にしたみたいな表情」 「現に、俺ァお前を馬鹿にしてるぜ」 フンッと得意気に微笑む沖田。あぁ、何で廃刀令なのかなぁー刀があれば沖田を殺れるのに! 「この間の祭りでオメー、土まみれで遊んでただろィ?それを金成木を捕まえに来た隊士どもが見てたっつーわけだ」 「ちょっと待ってよ、それ私一人みたいに言ってるけど沖田もいたじゃん、一緒に戦ってたじゃん。それにアレは砂じゃなくて土だから!砂かけババアとか完全に無理矢理じゃん!」 真選組総出でヒロインを妖怪扱いしよって‥!ムカつくな!屯所中の障子に穴開けてやろうかな! 「すげぇ剣幕だったからなァ、この際もう砂でも土でも良いだろィ」 「良くないわァ!ちょ、いい加減にしてよ。さすがの私も泣くぞコルァ」 私に対する真選組の扱いに傷つきながら、近藤さんと沖田と局長室へ入った。するとすでに部屋には土方さんがいて、もう一人サングラスをかけたおじさんもいた。 「総悟てめー朝の稽古サボってると思ったら、藤堂迎えに行ってたのか」 土方さんが呆れた様子で沖田を見ている。サボリ?ホントにダメ人間だな朝稽古くらい真面目にやれよ。 「近藤さんがマヨったら大変でしょう」 「沖田、迷うでしょ?マヨうじゃねーだろ、ていうか土方さん何ちょっと喜んでるんですか」 沖田の発言に明らかに反応して頬を赤らめる土方さん。そんな、2文字だけで反応する?しかもマヨネーズ関係なくね? 「べ、別に喜んでねーよ」 「「うっわ、土方照れてるキンモッ」」 「‥おめーらなァア!」 沖田と上手にハモってしまったことと、土方さんのキモさの両方に私は引いた。刀に手を添える土方さん、朝から元気だなオイ。 「トーシィ、レディーの前で物騒なモン出してんじゃねェよォ」 そんな土方さんに声をかけたのはそれまでずっと黙って土方さんの隣に座っていたおじさんだった。かなりハスキーな声とサングラス姿はいかにもザーヤクな人である。 「おーい嬢ちゃん、ザーヤクって何だ熱出たときケツにぶちこむアレかァ?」 「(‥やべーよ、近藤さんが前話でラーゴリとか言うから移ったじゃんか!しかもこれ否定してヤクザのことです。って言っても良いことなくね?)」 ハハハハ‥なんて愛想笑いを浮かべれば、おじさんが銃をこちらに向けた。ヒィイイイ!すんません許してくださいまだ死ねない私には応援してくれている読者のみんながい‥パァーン! 「ンギャァアア!」 物凄い銃声とともに大声を出したのは私の横にいた近藤さんだった。え‥近藤さん撃たれた? 「近藤、てめェこの子にどんな教育してんだァ」 わ、私の(ザーヤク発言)せいで近藤さん撃たれたァア!え、何!この人攘夷浪士?ザーヤ‥じゃねぇヤクザかと思ってたのにさらに恐ろしいキャラ設定上乗せ!?銃を懐にしまい、何もなかったかのように机に置かれたお茶をすするおじさん。私は固まったまま動けずにいた。レディーの前で物騒なもの出すなとか言った矢先に出たよ、ものっそい銃声だったよ! 「お、おっ‥沖田‥!」 助けを求めるように隣の沖田の袖をぐいぐい引っ張ると沖田が何でィと私を見てきた。何でィじゃねーよ!何でそんなに平気なの冷静なの警察でしょ?ラーゴリが1匹、天に召されたよ!あんたの上司撃たれたんだよ! 「あぁ、紹介がまだだったかィ。とっつあん、この女が今日の通訳でさァ」 私の肩に手を乗せ(馴れ馴れしく)、私をおじさんに紹介する沖田。違う、私は紹介しろなんて頼んでない!愛想笑いもできず、おじさんを見ることもできないまま私は立っていた。やべーよ帰りてーよお母さんんん! 「面倒なことに呼び出しちまってすまねェなァ、嬢ちゃん。にしてもウチの栗子とあんまり変わんねぇんじゃねぇのォ?あぁおじさんは松平片栗虎、よろしくゥ」 「藤堂マナです‥よ、よろしくお願いします」 松平と名乗ったおじさんは真選組の上司らしい。警察の上の方と言ったところか。こんなおじさんまで巻き込んでいるお役人の来日に一般人の私が関わることになるなんて‥!恐ろしいよ、沖田より破壊してるもの!ひとつの命破壊したもの! 「マナちゃんさァ、欲しいもの何かないの?おじさんが通訳のお礼に買ってあげるよォ」 「‥近藤さんを甦生させてください」 午前9時、いつもと違う一日が始まりました。 前へ 次へ back |