きっと明日は槍が降るでしょう >「はい、100円ね」 「マナねぇちゃんすっげぇ笑顔、コロッケに何か入れた?」 沖田と仲直り(?)したことで私の心は軽くなっていた。あの日は結局、私が沖田を看病することはなく、花男の再放送を二人で見たという謎な時間を過ごしたのだけれどなかなか面白かったよ、花男。 「龍之介、あんたその年で人の笑顔を信じられないようじゃロクな大人にならないよ」 そして塾の帰りにお店へ来た龍之介は笑顔の私を不審がっていた。コロッケに何か入れたかだと?沖田と一緒にすんな、値上げすっぞ。 「夏休みの宿題は?もう終わった?」 「うん、一平と佐吉はまだ終わってないらしくて、あそんでくれないんだ」 そう言ってコロッケにかぶりつく龍之介。ごめん龍之介、私はあの二人と同類だからあんたには同情できない。 「自由研究とかやったの?朝顔?ミニトマト?」 お客の出入りが少ない時間帯だったので、しばらく龍之介とカウンター越しに夏休みの話で盛り上がった。寺子屋時代とは違って8月末にこんな余裕でいられるなんて何か良いね。 「しんせんぐみについて調べたんだ」 龍之介はニッコリ笑ってコロッケの最後の一口を口に放り込んだ。し、しんせんぐみって‥ 「ぶどう味?コーラ味?やっぱゼラチン溶かしたては美味しいの?」 「新鮮なグミじゃないよ、真選組」 これは驚いた、夏休みの自由研究を真選組?しかも頭の良い龍之介が何でそんなの‥とか言っちゃ真選組に失礼‥じゃないか。だってあいつだよ?沖田がいるんだよ?何を研究したの。 「俺、真選組のお兄ちゃんにいっぱい助けてもらって、かっこいいって思ったんだ!」 「‥‥‥」 「なにその顔」 「あんたこそ何その顔。何であんなティンカスに目輝かせてんの?」 「ティンカス?チンカスじゃなくて?」 「気分で使い分けるの。今日はティンカス」 たしかに龍之介は東公園の山で捕まったときとか、大江戸商店街のお祭りのときとか、沖田と絡んでいた。でもかっこいいって、それ沖田のかっこいい部分しか見ていないからじゃん。 「あの金髪のお兄ちゃん(沖田)にしゅざいもしたんだ、」 「金髪じゃないよアレは。でもまぁいいや、今度会ったとき金髪豚野郎って言ってみ?」 「泰葉?」 「‥龍之介何でそんなネタ知ってんの、何?頭良いと何でも知ってんの?」 最近の子供は末恐ろしいな、と思いながらも自由研究の話が気になったので話を戻した。龍之介は沖田と山崎さんに話を聞いたらしい。取材するならもっと上の人に聞けば良かったのに、とくに山崎さんとかポジション微妙だし。あーでも土方さんとか近藤さんだとやっぱり忙しいのかなぁ。 「お兄ちゃん僕にいっぱい話してくれたんだ、花男のこと」 「‥花男かィイイイ!自由研究関係ないじゃん!何それどんな研究?まとめたの見せてほしいわ!ていうか龍之介もよく聞いたなそんな話!」 「最後は一緒にお兄ちゃんの好きなシーン見たんだ!えーと‥あ、そうそうつくしが生ゴミかけられるとこ」 「こえぇぇえよ!何そのドSの楽しみ方!ドラマの見方間違ってるぅう!」 花男ってそういうドラマじゃないよアレ、ラブだよ!?しかも龍之介まで巻き込んでどうすんだ。ていうか龍之介、おかしいって気づこう?自由研究のテーマ考え直そう? 「お兄ちゃん優しいよ、僕のこと弟みたいだって言ってくれて真選組ソーセージもくれたんだ」 嬉しそうに話す龍之介を見ていたら何も言えなくなってきたんだけど、それは無邪気なの?子供ゆえの憧れなの?花男見て満足してるの?しかも真選組ソーセージこの間、感謝状と一緒に貰ったじゃん、無駄に1年分。 「あっ、いっけね!おれお兄ちゃんと約束あったんだった」 「ちょ‥龍之介!」 もう突っ込むのも疲れた私を置いて、龍之介は思い出したようにそう言って足早にお店を出ていってしまった。約束って何だよ、花男鑑賞ですか? 「あ、いっけねェーあのガキとの約束忘れてたぜ」 「わあ!」 龍之介と入れ替わりでお店にやって来たのは沖田。私の心の声を聞いて、龍之介と約束していたことを思い出したらしい。ていうか‥もう当たり前のことのようになってるけどさ、ホントにこいつ知らないうちにいるよね。面倒くさいから聞かないけどさ、いつの間に入って来るのかね。 「鼻水に効くコロッケ3日分」 「ねぇよ。ティッシュ、ほら」 「嫌でィ。俺ァな、使うティッシュは鼻セレヴだって決めてるんでィ」 ずるずると鼻をすする沖田はこの間会ったときより体調が良くなっているように見えた。鼻のあたりが少し赤いのが痛々しい、鼻セレヴ使ってんのにそんな赤くなるの?鼻セレヴの意味なくね? 「そういやァ、お前に渡したいモンがあんでィ」 そう言って沖田は持っていた紙袋を私に差し出した。え、何?私は恐る恐るその紙袋を受け取って中身を見た。嫌な予感しかしないんだけど、 「‥これ」 私の予感は当たらなかった。紙袋に入っていたのは大江戸商店街のお祭りで特別賞を取った写真だった。普通の写真より大きめに現像されたその写真は白いフォトフレームに収められていた。だがおかしな点がひとつ。 「‥何で私の顔マジックで塗りつぶされてんの!」 「マジックじゃねェ!筆でィ!」 「逆ギレェエ!?おかしいだろ、せっかくの写真に何してんの!」 「コンテストの人がくれたんだがねィ、サイズが大きくなっただけでちとアクセントが足りなかったんでィ」 「だからって塗りつぶすなよ!教科書の落書きじゃないんだから」 せっかくお店に飾ろうと思ったのに、台無しじゃないか。何考えてんだよ沖田。 「まぁまぁ。落ち着けよ、血豚値上がるぞ」 「血糖値な。あんたは何でそう豚キャラに持ってくわけ?」 ヒロインだぞ私は、と言いかけたとき沖田が懐から何か紙を出して私に差し出した。今度は何だよ、と沖田から受け取ったそれは 「お、大江戸ネズミーランドのチケット!?」 夢と魔法の国のペアチケットだった。な、何で沖田がこんな素晴らしいもの持ってるの!? 「特別賞の景品でィ。俺ァそんなとこ行かねぇからお前にやらァ」 興味がなさそうにそう言う沖田。今回は悪意がないらしい、リアルご厚意で私にくれた。 「ありがとう沖田!初めてあんたの良いとこ見た!」 ここずっと行きたかったんだよ私!めちゃくちゃ嬉しいんですけど、ヤバィイイ! 「そんなに喜ぶたァ意外だな。夢と魔法が詰まったネズミは旨いのかィ?」 「食わねぇーよ!」 前へ 次へ back |