言葉にして初めて伝わる
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布団から起きたのは沖田だった。
‥あ、言っておくけど今のはダジャレ狙ってないから。起きたのがたまたま沖田っていう名前の少年なだけだから。わざとじゃないから。


「何やってんでィ、こんなとこで」


「‥ひ、じかたさんにお弁当頼まれて‥それで」


沖田は鼻声だった。あぁ私のせいだ、そんな顔マッカートニー‥じゃねぇや、真っ赤でだるそうにし「お前さっきからトロンボーンとかマッカートニーとかいい加減にしろィ」


「‥ごめん」


ごめん、沖田。悪意がない誘いを真剣にとらえずに雨の中待たせてごめん。あの日、すぐ謝らなくてごめん。仕事だってあるのに(サボリ魔だということには目を瞑ろう今回限り)風邪引かせちゃってごめん。


謝ることはいっぱいあるのに、素直に言えなくて、思ってるだけで‥ごめん。


「お前が謝るなんて珍しいな、牧野」


「藤堂な。花男どんだけ好きなんだよ」


許してくれたかは分からないけど、沖田はいつもの沖田に戻っている気がした。それがすごく嬉しくて、でも気づかれまいと表情を崩さぬよう耐えた。


「土方の野郎に何て言われたんでィ」


「え?スーパーで会って、沖田が死んでるって言って‥それで忙しいから一番安いお弁当届けてくれって」


私が数時間前にあったことを話すと沖田はふーん、とどこか気にくわなさそうに言った。ていうか私普通に沖田と喋れてる‥?怒ってたらどうしようとか、もう来てくれないんじゃないかと思ってたけど、何か‥普通に話せてるじゃん私。


「それで?俺に何か言うこたァねーのか」


「‥‥ナイ」


「あーあー体がだる重ー」


「吉瀬美智子?」


「そっから動くんじゃねーぞ」


沖田が布団の下から出したものは手裏剣。まだ持っとるんかィィイイ!悪かった、吉瀬美智子(アリナミン)とか言ってごめんなさい!正直今のはちょっとふざけました(土下座)!


「誰のせいで風邪引いたと思ってんでィ、雑草」


「花男から離れろよ!つくしじゃないから私!」


吉瀬美智子は反省するけど、でもこんなんじゃ謝りたくても、謝れる雰囲気じゃない。私だけが真剣に謝っても馬鹿にするでしょ絶対。


「冷えピタ、取り替えろィ」


「は‥私?」


「メス豚の分際で俺様の命令が聞けねぇのか」


「(‥花男+メス豚コラボめっちゃムカつく!いつもより3割増しでムカつくゥウ!)」


その場に腰を下ろしてコロッケを置く。そして沖田をチラ見‥本当に私がとるの?自分でできんじゃん?ていうか何で、こっち見てんの?鼻くそでもついてますかね!?


「ついてらァ」


「え、嘘!?」


「あー悪ィ、目だった」


‥オイ。このくだり前もあったぞ(27話参照)、時間が空いたからってまたリセットして投げ込んできたな!ていうか毎度毎度‥私の目は何なの。


「早くとれィ」


「‥はいはい」


沖田へ抱いていた申し訳なさや罪悪感は少し薄れてきていた。だってこれ、いつもの私たちじゃね?ただの日常じゃね?


躊躇していると沖田がこちらへ顔を向けてきたので、仕方なくぺりっと冷えピタを剥がした。


一瞬だけ、微かに触れた額は思ったよりも熱くて、剥がした冷えピタにも熱を含んでいた。一体何度あるんだ、本当に熱い。松岡修造よりも熱い。


「何でお前が苦しそうな顔してんでィ」


握った冷えピタが私の手の中で溶かされるようにぬるくなっていって、私の中でムカつく気持ちと申し訳ない気持ちが混ざってぐーっと喉から込み上げてきた。


「‥‥ごめん」


それは押し出されるように、言葉になった。自分の声が沖田の部屋に吸い込まれていく。ごめん、がこんなにもすんなり言えるとは思わなかった。言葉にして初めてその意味を考えて、恥ずかしくなった。沖田はどう思っているだろう、とてもじゃないけど沖田の顔なんか見られなかった。


「‥何のことでィ」


沈黙を破ったぶっきらぼうなその口調は、わざとらしくて。どんな顔をしてるかなんて見なくても分かる、きっと私の嫌いな‥ムカつく顔をしてるに決まってる。


「まぁ、どうしても俺の看病してェって言うならさせてやっても良いぜ」


「‥ありえないっつうの」


「出た、牧野」


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