何でも粗末に扱うべからず
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「すいませぇーん」


土方さんに宅配を頼まれて、やって来た真選組屯所。土方さんのお弁当(一番安いのはアジフライ弁当)とは別にコロッケも持ってきた。これは、沖田の‥沖田に会えたら渡そうと持ってきたもの。沖田のコロッケ謝罪作戦(45話参照)を使おうと思い「山崎退‥アレ、作文!?」


「‥‥‥」


「こんにちは、マナちゃん」


目の前に現れたのは山崎さん。勝手に自分のネタを被せてきてニッコリ笑ってる。そんな山崎さんを見る私(無表情)。


「スパァアキィイィイン!」


「んぐわァア!」


何かイラッとしたので山崎さんのネタを拝借して、コロッケ(熱々)を投げてみた。山崎さんがその場で後ろに倒れて行く、食べ物は粗末にしちゃいけないけど‥まぁいい。多めに持ってきたし。


「‥‥‥」


山崎さんは起きなかった。顔が汚いまま門の前で倒れている、強すぎたかな?熱すぎた?どっちもか?


でもまぁ山崎さんがいなくても、土方さんの部屋は分かる。さっきスーパーで土方さんが教えてくれたし‥いや、でも山崎さんの部屋の隣って言ってたから山崎さんの部屋がどこか分かんなくちゃダメか。


「山崎さぁーん、山崎さんの部屋どこですか?」


他に隊士が来る気配はなかったので、倒れた山崎さんを覗き込む。ペチペチ何回か頬を叩くと、うっすら目を開けた山崎さん。


「普通、コロッケ‥投げる?」


「時と場合によっては」


「何その笑顔!無駄に眩しいんだけど無駄に!」


「‥あと3つあるんですけどぉ、何味がいいで「俺の部屋?そこ真っ直ぐ行ったとこだよ。障子破れてるからすぐ分かると思う!じゃ!」


そう言って山崎さんはスタッと立ち上がり、どこかへ走り去って行った。特別警察が弁当屋にビビってどうすんだよ、江戸大丈夫かよ。


「あ、障子破れてる」


長い廊下を歩いていると、山崎さんの言った通り穴の開いた障子の部屋が見えた。あれが山崎さんの部屋ってことは、その隣が土方さんの隣ってことだよね。


「土方さん、藤堂です。お弁当届けに来ました」


部屋の前で少し大きめの声を出す。中からは返事はない‥え、無視?土方さん自分から注文しておいて無視?もしかしていない?


「土方さーん?聞こえてます?」


勝手に開けるわけにはいかないのでもう一度呼んでみる。


「‥‥‥」


でもやっぱり無反応。え、何いないの?ここに突っ立ったままも飽きるんだけど、お弁当冷めちゃうんだけど。


「ひーじかたさぁーん?いる?いない?いないならもう行きますよー?」


襖に耳を当てて、最後にもう一度声をかける。これで返事がなかったら他の隊士に預けようと思っていた。すると急にスパァアン!と襖が開いた。


「ぎあ!」


まさかそんな自動ドアみたいなシステムで開くとは思わなかったので、驚いてお弁当とコロッケを落としてしまうところだった。


「‥‥‥」


そして襖が開いた先は誰もいない。え、誰が開けたの?まさか本当に自動ドア?


「‥‥‥」


誰もいない代わりに部屋の奥には膨れ上がった布団。頭から足の先まですっぽりかぶっているらしい、ていうか何でこんな時間に昼寝?土方さん忙しいんじゃねーのかよ。そして気になることがひとつ、


布団の中からこちら(襖)に伸びている刀。これで襖を上手いこと開けたらしい‥あーなるほど、だから誰もいなくても開いたのねー


‥っていやいやこれで開けた?侍の魂、何に使ってんだよ!真選組だろ!


「ひ、土方さん‥あのーお弁当届けに来たんですけどー」


部屋に入り、そーっと近づいて上から声をかける。ていうか何で顔出さないの、刀出しておいて顔はNG?相変わらず反応はない。何かもう気持ち悪いんだけど。でっかいぬいぐるみとかじゃないよね?


「‥お弁当、ここ置きますからねー」


仕方ないのでお弁当を枕元に置いて、帰ろうと思った。代金は山崎さんに立て替えてもらおう。


「おい」


私が土方さんに背を向けると、ばさっと布団をめくる音がして声をかけられた。やっと起きたか、と思いながらゆっくり振り返った。


「お、きた‥?」


だがそこには土方さんではなく、沖田がいた。‥なななな何でェエ!?何で沖田がいるの!?いや、そりゃあ屯所だしいるかなとは思ってたし、会えたらちゃんと謝ろうって思ってたけど、思ってたけども!ここ土方さんの部屋じゃないの?え、ちょ‥ハァアア!?


数秒前までシラフだった私の心臓が、血液が、細胞が、一気に激しく活動し始めた。2日ぶりに見る沖田に、動揺が隠せない。


「え、あ‥沖田‥」


「‥‥‥」


布団から顔を出した沖田は顔が真っ赤で、おでこには熱冷まシートが貼ってあった。そしていつもよりトロンボーン‥じゃねぇや、トロンとしただるそうな目に、


「熱、あるの‥?」


私の胸がざわざわと騒ぐ。あの日、傘をささずに雨に打たれたから、風邪ひいたの?


沖田はじっと私を見たまま、答えなかった。


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