甘い話には裏がある、とは限らない
>




金成木さんが捕まってから2週間、毎日のように通ってくれていた金成木さんが店に来なくなったことに私は喜ぶことも、落ち込むこともなかった。


彼は私の中でそれくらいの存在だったということなのか。可愛いと言ってくれたり、後ろから捕まえてキモい発言したり、二面性どころの騒ぎではない部分を見て、自分の中で整理できていないのか。どっちか分からないけど、分からなくてもいいと思った。結局、私のモテキは去ったわけだし。


「玉の輿のチャンスだと思ったのに、残念だったねぇ」


将軍家御用達の老舗傘屋が攘夷浪士と関わりがあっただけではなく、攘夷活動に賛同していたというニュースは世間を騒がせた。


「玉の輿なんて興味ないよ。金持ちの感覚についていけないから私」


休憩室でのり子さんと金成木さんの逮捕について報道している情報番組を見ながら、お茶をすする。世の中刺激より安定だよ。


「甘い話には裏があるってのはこういうことかねぇ」


甘いってどういうことだ、言っておくけど私は本気で惚れられてたんだって!最終的に金成木さんは犯罪者で何かキモい変態野郎みたいな男だったけど、そういうとこ省けばマジでアイラブマナ!みたいな男だったんだってば。本物のモテキだったんだって、


「そういえば、捕まえたの総悟くんなんでしょ?凄いねぇ若いのに」


「‥‥‥」


世間を騒がせるニュースの傍ら、事件を解決したのは沖田だと報道されていた。いかにマスコミが適当なことを報道しているかが分かる良い例だと思う。だって捕まえたって言わないよアレは。ドSの遊びしてたらたまたま捕まった(刺さって意識不明)だけだからね、逆に金成木さん被害者だからね。


「やっぱり甘ったれた金持ちより、若くてもちゃんと守ってくれる男の方がいいよマナ」


「‥何が言いたいの」


「ふふ、いいじゃないのよう。総悟くん手に職つけてるしイケメンだし弁当売るの上手だし、ほら‥公務員だし?」


「それ結局、お金ってことじゃん」


しかも弁当売るの上手って関係なくね?婿養子にでもなるのか?ていうかあんな男と結ばれたかねぇよ!結ばれるなんて‥私はほどくぞ、全力でな!


「あの写真エントリーしちゃうなんて、良い子じゃないの。私感激したよ」


「‥‥‥」


あの写真‥たしかに写真は良かったよ、私のすっぴんじゃなかったことも含めた意味で。でも沖田が私以外の人たち(主におばさん)の前で好青年になるのが許せない。今回だってのり子さんの中のポイントを上げたっぽいし。
何だよ、上目使いのアヒル口のぶりっ子女とやってることは同じじゃねーか。


「‥最近、総悟くん来ないねぇ」


そして事後処理やら取り調べやらで忙しいのか、沖田はお祭りの日からお店に来ていない。寂しそうにするのり子さんに同情はできない、ていうかここ最近毎日のり子さん総悟くん総悟くん言ってるから、プチ鬱陶しい。心配しなくてもそのうちふら〜っと来る「あり?休憩中ですかィ」


休憩室の外から足音がして沖田が顔をひょっこり出した。ほらね、来た‥‥‥っておいィィイィイイイ!


「おまっ、いつになったらその不法侵入やめるんだよ!いい加減にしろよ」


「総悟くん、今ちょうどあんたの話してたとこだよ、久しぶりだね」


「のり子さん、何で驚いてないのキレてないのもうそれ心広いとかのレベルじゃな「いやぁ、のり子さんのコロッケ食べたくなりましてねィ」


図々しくこちらへやってくる沖田。口の横に茶色いカス付いてるぞてめぇ、既に食ったろ!ショーケースから盗み食いしただろォオ!


毎回こいつロクな登場しないなとのり子さんと盛り上がる沖田を睨みながらまかないを食べる。何ヘラヘラ笑ってんの、きームカつく!


「で、今日はどうしたんだい?」


「マナさんを食事に誘いに来たんでさァ」


「ゲォホ‥ッ」


いたって真面目な沖田のいきなりのその発言に思わずむせた。はぁ?何言ってんの沖田!マナさん?食事に誘いに来た?お前猫被るのも大概にしろよキャラ崩壊してんぞ。ていうかコーンコロッケ変なとこ入ったァ!慌てて胸を叩く。苦しいィイ!


「大丈夫かィ」


すると沖田が私の背中にそっと手を添えた‥だが信じん、その手はもう信じないぞ沖‥バッシィイ!


「い゙‥ったァア!」


添えていたはずの手が平手打ち並みのパワーで私の背中に降ってきた。ほら見ろ。もう私はコーンコロッケどころじゃない、背骨いった絶対折れたァアこれェエ!苦しみながら沖田を見上げて睨む。


「いや。蚊」


「嘘つけェエェ!そんなニヤケ顔信じれるか!」


何?そんな私のこと気にくわない?どこが?もうこの際言ってごらんよ、ん?


「良かったじゃないマナ。総悟くんは良い男だって話してたんだよ今、やっぱり良い男だねあんた」


「ちょっと!それはのり子ワールドの話だろ!私は一言もそんなこと言ってないよ!」


「こら、のり子さんにそんなこと言っちゃ駄目じゃねーかィ」


「‥‥‥」


優しいィイ!口調が優しい!台詞だけじゃ沖田って分かんないよ、キモい!金成木さんのキャラ崩壊のときと同じキモさ!手裏剣投げたろか。


そして私そっちのけでカレンダーを見ながら既に食事に行く前提で話を進め出すのり子さん。それに合わせて沖田も頷いている。
もういいよ、その二人でご飯行けよ。コロッケの話とかして盛り上がれよ。


「何でィ、行きたくないのかいあんたは」


「のり子さん沖田の口調移ってる、読者が混乱するからやめて」


行きたくないっていうか怖いの!沖田が私を食事に誘うなんて怪しさMAXじゃん、絶対何かあるじゃん、自らそんな恐怖に飛び込むほど私はM気質じゃない。


「今度の日曜、恵比寿ガーデンプレイス、時計広場、1時」


「道明寺?」


どうやら私に食事を誘いに来ただけらしく(ますます怪しい)、私のまかないの残りを食べた沖田は去り際にそう言った。いやその誘い方、意味わかんない。


「どの服着るんだい?化粧品揃ってるかい?」


「何でのり子さんが張り切ってんの?」


ていうか沖田行っちゃったけど、恵比寿ガーデンプレイスなんかないよ。完全に会えないよ‥まぁ行かないけど!


前へ 次へ

back

×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -