忘れた頃にやってくるから気を付けろ
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「どうしたんだい?二人ともそんなに汚れて」


沖田との喧嘩(土戦争)を終えて、意識が戻らない金成木さんを真選組の人たちが連行して行った。おもちゃも沖田が使えば、あんな悲惨なことになるんだね‥気を付けよう。


お祭り会場に戻った私に屋台の混雑は過ぎたからお祭り楽しんでおいでと送り出してくれたのり子さん。でも私にはお祭りを楽しめる元気も余裕もなかった。


「「‥‥‥」」


土を投げて避けて叫ぶことがこんなにも体力を使うとは。私と同じくらい疲労困憊な沖田と無言で空いている椅子に腰かけた。前の方の特設ステージではビンゴ大会ではなく次のイベントで盛り上がっている。それを死んだ目でボーッと見つめる私と沖田。ステージとの温度差が激しい。


「あー‥つかれた」


「‥俺の体についた56487粒の土どうしてくれんでィ」


「は?私の耳の穴まで土詰めといてよく言うよ」


私も沖田も土まみれ汗だらけ。今どき公園に行ってもこんなになるまで遊ぶ子供たちはいないと思う、私18にもなって何やってんだ。


「「「マナねぇちゃん!」」」


しばらく私たちは無言で座りじっとしていた。きれいな茜色の空を見上げて、ボロボロの体を椅子に預けて目を閉じる。ごくせんの喧嘩のあとってこんな気持ちなのかななんて思った。そんな私の名を呼んだのはヤンクミ‥じゃなくて、


「佐吉、龍之介、一平‥」


「マナねぇちゃん、大丈夫‥?」


金魚すくいの屋台にいた三人が気づいて駆け寄ってきた。土と汗で汚れ、疲れはてた私を見て驚き、かつ心配の眼差しで私を見ている。そうだよ、マナねぇちゃん頑張ったんだよ。それなのに何あんたら普通にお祭りエンジョイしてんだよ、呑気に金魚すくいしてたのか。


「おいガキ。てめーらそんな土まみれの豚女の心配より俺様だろィ」


沖田がだらんと顔をこちらに向けてきた。疲れてるくせに暴言だけは健在だな、いっぺん土に還れ。


「そんなとこで突っ立ってねーでとりあえずお前らポカリと焼きそばと焼きとうもろこし買ってこい。金はそこの豚の貯金箱割って持ってけ」


「誰が豚の貯金箱だコルァ。私はイカ焼きとフライドポテトと綿菓子で飲み物はアクエリアス、ここ注意してポカリじゃなくてアクエリアスね」


「「「えぇぇーやだよー」」」


「‥沖田、手裏剣3枚くらい残ってない?」


「あるぜィ、とっきんとっきんのがな」


「「「行ってきまァアす!」」」


沖田が光輝く手裏剣を懐から出すと、三人は一目散に屋台の方へ消えていった。精神的にも肉体的にも限界でお腹ペコペコな私、でも買いにいくのは面倒だったので食料調達はありがたい。今は脅しだとかパシリだとかそこら辺は気にせずにいこうと思います。


「おい、これアクエリアスじゃねぇかィ」


数分後、食料を両手に持って戻ってきた三人。沖田はポカリがどうのこうの言っている間に私はアクエリアスをグビグビ。冷えたそれは乾いた喉を通って私を潤していく。やっぱりポカリより時代はアクエリアスだよ、ペットボトルのキャップまで青くて何かシャレオツだし。


「三人ともありがとうね、じゃあ次は金魚すくいやってきて親玉金魚すくってきて」


「俺は的当てな、ハワイ旅行当ててこい」


「そんな的当てなくね?」


「それにもう無理だよーおかねないし」


「ぼくたち帰らなきゃいけないもん」


子供の言い訳をして三人は本当に帰ってしまった。まぁ食料調達してくれたしいっか。綿菓子の包みを開けながら三人の背中を見送る。あーこの甘い匂いたまらん。


「‥さて、1位までの発表を終えましたが‥いやぁ素敵な写真ばっかりですねー!大江戸商店街の良さがたくさん詰まってます!」


三人が買ってきてくれた屋台のモノを食べて、精神的にも体力的にも少し回復した私はふと気になった特設ステージの方を見た。ステージでは八百屋のおじさん司会の大江戸商店街の良いところ写真コンテストが開かれていた。


「‥‥はっ!そそそ、そういえば私の写真!」


沖田が私のすっぴん写真をエントリーするという恐ろしいことをしたのを思い出して(46話参照)、私はその場を立ち上がってステージに飾られた写真に自分がいないか慌てて確認。まぁあの写真が選ばれるはずないんだけどなぜか予選突破しちゃったし‥一応ね。


10位から1位までの写真がステージに張られて表彰されているみたいだけれど、私のすっぴん写真はなかった。いや、分かってたよ?あんな悪意と女の現実の塊が選ばれるわけないじゃんって分かってたけど、良かった。本当に良かったァア!心の中でガッツポーズ。


「ふっ、残念だったな沖「そしてそして、特別賞は‥えー沖田総悟さんエントリーの写真です」


隣で焼きとうもろこしを頬張る沖田にどや顔を向けたとき、私の声に被さってきたステージからの声、そして沖田の名前。


‥‥え、嘘。お、沖田総悟さんエントリーだ、だと?


「こちらでーす!」
「ちょ、ちょっと待てェェエェェエエ!」


八百屋のおじさんが写真にかかった赤い布を剥がすのと私が叫んだのは同時だった。会場は静まり返り人々の視線が刺さる、がそんなことはどうでもよかった。私、大江戸商店街にいられなくなる!嫌な汗がだらだらと出る、


「‥‥‥」


止めてェ!と思いながらも間に合わない悔しさと今後の生活に落胆しつつあった私の目に映った、八百屋のおじさんが剥がして、見えた写真は、


「あれ?マナちゃん。皆さん!あの女の子‥何か土だらけですけど、あの子があいうえお弁当の看板娘のマナちゃんです!こちらの写真にも写ってます!いやぁそれにしても良い写真ですねぇ」


「な、んで‥?」


「えぇータイトルは"あたたかい場所"、たしかにこの写真はあったかい雰囲気が出てますねぇ。ここのお弁当はいつも温かいから、それと掛けてるんですかね?」


特別賞に選ばれたのは私のすっぴん写真ではなく、沖田が最後の出勤だった日(35話参照)にのり子さんと三人で撮った写真だった。


「写真ですかィ?」


「そう。総悟くん今日最後だろう?3人で撮ろうじゃないか」



エプロン姿ののり子さんを挟んだ私と沖田は上手く笑えてない。距離もぎこちなくて和気あいあいとしてる様には見えないのに、


「(‥心がじんわり温かいのは、何で?)」


ステージに張られたその写真に映る私たちはとても輝いていて。私と沖田の無愛想な表情も、不自然なピースも‥全部全部。


「沖田、」


隣を見れば、驚きも落胆もしていない沖田が写真を見て焼きとうもろこしを食べている。


「‥誰でィ、写真すり替えたの」


バレバレの下手くそな台詞も、こちらを見ない無表情も‥全然素直じゃないところも、沖田らしくって。


「さぁね、知らない」


もう一度、写真を見た。無愛想だけど良い顔してるじゃん、私たち。


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