裏か表なんて見ないと分からない
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沖田の手は母親が泣く子供に対してよしよし、と慰めるときのような温もりを持っていた。沖田の手、あったかいな。あぁ、何でこんなに安心しちゃう自分がいるんだろう。


暴言の塊男とは思えないような、優しい手つき。子猫をあやすような、母親が泣く子供に対し‥あ、それは今言ったわ。


沖田のハンドパワーかは知らないけれど、涙はようやく止まって、私は濡れた頬を手のひらで拭った。そして泣きすぎて嗚咽寸前の呼吸を整えようと大きく息を吸おうとしたときだった、


「‥ふんがぁあ!」


私の頭の上にあった沖田の手がするりと後頭部へ移動し、そのまま私の後ろ髪は掴まれて思いっきり下へと引っ張られた。時間にしておよそ1秒(予想)、無防備だった私は沖田の引っ張る力に首ごと持っていかれてしまった。頭と首に激痛が走る。


「い、いだいいだいィイイ!」


無理矢理、顔を上げさせられた私の目の前には沖田。髪は依然掴まれたままで、分かりやすく言うとまっすぐ立ってるのに、顔だけブリッジ状態。しかも沖田は超笑ってる&顔に影つき。え、何これ。今からちょっと良い感じの雰囲気になる予定だったじゃん。


おかしいぞ‥と嫌な予感がする私に沖田はニタァと白い歯を見せたかと思うと、


カシャカシャカシャカシャ‥


「豚の泣き顔in商店街祭りィ〜」


と携帯のカメラを私に向けてきた。何やってんだァこいつゥウ!しかもお前それ、連写モードォオオオ!


「おっ、きた‥!あんた、いいかげ‥ぐわしっ!」


抵抗しようとすればさらに髪を引っ張られ、顔がのけ反る、首に激痛、頭皮も激痛、表情は歪む、そして連写。え、何これ。マジで何してんのこいつ。


「俺が心配して抱き寄せるとでも思ったか、メス豚ァ」


「‥‥くっ‥!」


「世の中そんな甘くねぇんだよ」


「(‥キィィイイ!)」


てめ‥っ!前話ラスト&今回の冒頭シーンの読者ドキドキ感返せコラァア!


心の中でそう叫んだ瞬間。プツン、私の中で何かが切れた(キレた)。それは怒りと痛みが限界を越えた音。私は最後の力を振り絞ってお互い無防備になっているであろう下半身(卑猥な意味ではない)に力を込めた。


「死ねええぇぇぇ!」


そして沖田の股間、別名男の弱点を思いっきり、思いっきり蹴った。
※思いっきりは大事なので二回言いました。


「ふごっ!」


するとそれまでどや顔だった沖田は固まり、どんどん青ざめていったあと悟りを開いたような表情になった。そして痛みに耐えきれなかったのか私の髪から手を離し涙目で股間をおさえてのたうち回り始めた。


「ンガァアアァア!」


やっと、やっと本当に自由になった私はのたうち回る沖田に携帯を向けた。もちろん連写‥ではなくムービー。


「ギャハハハ!ざまあみろ〜」


今までの怒りをこめて私は動画を撮り続けた。手裏剣といい、顔ブリッジといい、私を裏切りやがって‥!


にしても沖田が苦しそうにしてるとこ、実に面白い。いつも澄まし顔のくせにあんなに歯くいしばっちゃってさ〜面白いからこの動画、沖田の被害者の会(28話参照)に売り付けてやろうかな、ぐふふふ。


しばらくして大満足の撮影会を終え、沖田の痛みも収まったらしい。土だらけの甚平姿でこちらへ来た。拭いきれていない額の冷や汗に吹き出しそうになる。


「私の脚力なめてるからこうなるんだバーカ(聞いて驚け、私の寺子屋時代のクラブ活動はな、女子サッカー‥グラウンドの近くで細々と活動してた一輪車クラブだコノヤロー)」


「ふっ、」


得意気な私を見て沖田が軽く笑った。その笑いはいつもの人を馬鹿にするような憎たらしい笑いではなくて、どこか安心しているような笑い方だった。ホッとしているような表情をしているようにも見える。


「‥調子戻ってんじゃねぇかィ、心配して損した」


「は、」


そう言って笑う沖田に私は固まった。今‥沖田、心配って言った?え、心肺?心配?私を?え、何で?強く蹴りすぎておかしくなった?開いた口が塞がらない私をよそに、甚平についた土を払う沖田。
ちょ、何この展開。私のこと心配してたの?


「藤堂、」


あの三人を先に帰したのも、頭を優しく撫でてくれたのも(この際髪を引っ張られたことには触れない)、泣いていた私を‥心配して、思ってしてくれたっていうの?


そう思ったと同時にじんわり胸が熱くなる。‥沖田の手が温かくて優しいことも、他人を思える良いところがあることも、今の今まで知らなかった。それに気づいた私の中には罪悪感が生まれていた。だって沖田の不器用な思いやりを、私はキン○マ攻撃で返すなんて‥ヒロイン、いや人間失格じゃないか。せっかくあの沖田が沖田なりに私のことを考えてくれてたのに。


「沖田ごめ‥バサァアア、


謝ろうと私が沖田を見た瞬間、何かが顔に直撃した。え、何?


「まんまと引っ掛かったな、メス豚」


「‥げほっ、ごっ、おぇっ」


何で私、顔に土かけられてんの?ていうか何で沖田、土握って笑ってんの?


「‥やられたらやり返すのは常識。やりきって余裕ぶっこいてる相手にやり返すのがSの常識でィ」


い、いい加減にしろォオオ!頭撫でて、キン○マ蹴られて、心配してた発言からの‥土ィイ!?何、演技?今までの全部嘘!?どこまで性格腐ってんだァこいつ!


「ふざけん‥ザシュッ


「あーやべぇや。ビンゴ大会より面白れぇ」


「オイィイィィ!手裏剣飛んできたんだけど!ザシュッて言ったよザシュッて!」


「そのまま金成木と死ねィ」


「沖田ぁあ!」


私が土を両手に握りしめ、沖田めがけて思いっきり投げたのを皮切りに、土と罵声が飛び交う喧嘩が始まった。


そんな私たちは、しばらくして沖田が呼んだ真選組隊士たちによって押さえられましたとさ。


え、何このオチ。


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