愛情表現はほどほどに
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「か、金成木さん‥」


私の震える声に金成木さんは笑ったまま首を少し傾けた。ただそれだけなのに、彼がフクロウのようにじっとこちらを見つめているみたいで、怖くて仕方なかった。金成木、さん‥あ、あんた‥そんな、顔だった‥?


「‥その子供たちに何を吹き込まれたんですか?」


崩れない笑顔はもう笑顔と呼んで良いか分からないほど恐ろしかった。でもここで怖がっても泣いても仕方ない。アレ‥これあの事件の日と同じじゃね?怖がる三人を私が落ち着かせてそれで殴ら‥いやだァアア!あの日と同じ結末はいやだァアア!とっ、とりあえず落ち着け私。金成木さんは私の知り合い。いくら犯人でもあの日の犯人みたいに乱暴はしないはず‥というかしないで。


「‥あの日‥あの山に、いたんですか」


「フフッ‥ハハッ、ヒヒヒヒッ!」


「「「「‥‥!」」」」


私が質問した途端、金成木さんは大声をあげて笑い出した。こ‥こえぇぇええぇええ!気味の悪いその姿に私たちは思わず後ずさり。これアレじゃん、よくドラマとかで真相暴いたら犯人が急に大笑いするやつ、まんまじゃん。わざとらしい演出だなオイって思ってたのに‥!


「(気味悪さとかこの緊迫した空気がドラマだったらどれだけ良いか)」


「マナさんの怯えた顔も可愛いなぁ。ねぇ、どうしてそんなにきみは魅力的なんだい」


「(‥し、知るかァアア!)」


やべーよ、おかしいよこの人!何だ、私が何かスイッチ押した?地雷踏んだのか?こんな変質者みたいなキャラ私知らねェエエ!


「‥あの事件と、関係してるんですか」


「知らないな‥と言いたいところだけど、そう。その子供たちが言った通りさ」


「‥な、んで」


金成木さんはあの事件の犯人だったんだ、捕まっていないだけで。私に怪我をさせた奴等と同じ仲間なんだ、ただ会わなかっただけで。


「捕まった男たちには口止めしてあったんだよ、万が一捕まっても僕の存在は明かすなってね」


「じ、じゃあ金成木さんが‥窃盗とか薬物の売買をしてるってことですか」


「フフッ、まぁそうだね。表向きには将軍家御用達の老舗傘屋で通ってるけど、裏じゃ薬物だの攘夷活動だの言えないことばっかりさ」


「そんな、」


今まで敬語だった金成木さんの口調が変わって、表情も笑顔から真顔になった。これが金成木さんの本性なのか。


「あの日、子供たちを助けなかったら僕たちは普通に出会えてたはずだった。今みたいに本当の姿もバレることはなかったのに」


そう言ってこちらを見る金成木さん。やだ、殺される‥?全神経がそそり立つのを感じる。


「ニュースでマナさんを知ったときは名前だけだったけれど、ウチの猫を通じて初めて見たとき、僕はきみの虜になった」


「‥‥‥」


「まさかあの日の人質だったとはって最初は思ったけど、僕はそんなの気にしない。きみへの愛は本物だから」


また怪しい笑みを浮かべた金成木さんは一歩一歩こちらへ近づいてきた。そんな彼とこの状況に私たちはもう我慢できなくなって、


「「「「ギイィャァアァアァ!」」」」


一斉に振り返ってその場を駆け出した。こういうとき何も言わずに同じ行動がとれるのがズッコケ三人組ft.弁当屋なんだよ!


「ギャァアアァァ!あんたら絶対捕まるなよォオ!」


「「「うぉぉぉお!」」」


とりあえず叫びながら後ろを見ずに走る。叫びながら走ると速くなるって‥あのーアレ‥ボルトら辺が言ってた気がする、うん。それにこんだけ大声出してたら誰かしら気づいてくれ「ビンゴォオオオ!」


「またビンゴかィイイイ!」


遠くの方からまたビンゴ大会で盛り上がる声がした。ていうか今の声のり子さんだった、絶対のり子さんだったァア!私がピンチなのに何お祭りエンジョイしてんだよォオ!誰か、誰か‥もう見ず知らずの通行人Aとかでもいいから、


「誰か助け‥ぐはっ」


そう言いかけたとき、後ろから誰か(恐らく、いや絶対金成木さん)に羽交い締めにされた。逃げようと抵抗するのに全く体は動かない。金成木さんの荒い息と笑い声が耳元に降ってくる。やだ、気持ち悪い、離して!耳がゾワゾワするゥウ!


「い、や‥ぁ!」


「「「マナねぇちゃん!」」」


私の声に気づいた三人が足を止めてこちらを振り返る。必死に体を動かしながら抵抗する私に三人の泣きそうな表情が映って私まで泣きそうになった。


「ずっと、こうして抱き締めたかったんだよ‥フフッ。きれいなうなじだね」


私を両手で羽交い締めにしたまま、金成木さんは余裕そうに私のうなじに顔を埋めてきた。彼の表情は見えないけど、その行為が、笑い声が、浴衣越しに伝わる生暖かい体温が、気持ち悪くて怖くて仕方なかった。三人の前では泣けない、そう決めていたのに。


「(怖い、やめて‥!)」


そう思うのに口はうまく動かなくて。体は震えて、いつの間にか涙が溢れていた。


「きみは僕と一緒になるんだ」


「‥っつ、やっ‥あ!」


「フフッ、抵抗する姿も可愛いなぁ。その泣き顔よーく見せてよ」


金成木さんの太い腕が私の顔へ近づいてくる。三人も私も何も出来ないまま、ただ泣いていて。抵抗はおろか声も出せない自分に、もう無理だと思った。殺されてしまうかもしれない。


「オメーら祭りそっちのけで、何やってんでィ」


その瞬間、ここで聞こえるはずのない、でも本当は聞こえてほしい、助けてほしいヤツの声がした。うそ、でしょ‥


「‥おき、た‥?」


金成木さんの動きが止まった隙に顔を上げると、涙でぼやける視界に憎たらしい蜂蜜色が見えて、


「楽しそうな遊びしてんじゃねぇか、藤堂」


沖田がニヤリと笑っていた。


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