たまには子供の言うことも信じよう
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「マナねぇちゃん‥!」


日が暮れた頃、祭りのイベントのひとつであるビンゴ大会が始まった。景品が結構豪華なので、たくさんの人が真剣に参加している。私たち屋台組はこの時間を利用して休憩に入っていた。


暑いなーなんて思いながらジュースを飲んでいると誰かに小声で呼ばれた。ん、この声は‥龍之介?どこだと辺りをキョロキョロ見回していると袖を引っ張られた。


「ここだよ、ここ」


袖の先、龍之介が地面に屈んで私の袖を引っ張っていた。


「何してんの、かくれんぼ?」


「違うよ!ちょっと来て‥!」


私の声にうるさいと言わんばかりにシーッと人指し指を口に当てる龍之介。何だよこちとら休憩中だぞと思いながらも、さっき金成木さんと会ったとき何で逃げてしまったのか気になったので、のり子さんにすぐ戻ると告げて私は龍之介に着いていった。


「‥‥‥」


どうでもいいけど何で龍之介、ほふく前進なのかな。自衛隊に入隊希望なの?


「あ、マナねぇちゃん!」


祭り会場を出た静かなところで佐吉と一平が待っていて、三人に連れられた私はさらに人気のない路地裏にやって来た。


「どうしたの?こんなところまで連れてきて」


遠くでビンゴ大会で盛り上がる声が聞こえる。三人とも眉をひそめて神妙な面持ちで、何かいつもと違う雰囲気で怖い。


「あのお兄さん、いたんだよ‥!」


「お兄さん‥金成木さんのこと?」


私の袖をぎゅっと掴む佐吉が私を見上げる。やっぱり金成木さんと知り合いなのかな、ていうか金成木さんがいたってどういうことだ?


「おれたちが東公園の山の宝とりに入ったときつかまったでしょ?‥そのときあのお兄さんいたんだ」


「‥えっ」


龍之介が周りを警戒しながら小声でそう言った。私は意味が分からなかった。金成木さんがいたって‥え、どういうこと?


「あのお兄さんがぼくたちの手しばったんだよ、なんで捕まってないの?なんでマナねぇちゃんと友達なの?」


「え、縛ったって‥は!?」


涙ぐむ一平の言葉が信じられなかった。金成木さんが‥え、嘘でしょ?あの日の事件に関わってたの?


「え、どういうこと?本当に金成木さんがいたの?見間違いじゃなくて?」


「ちがうよ!あのお兄さん途中からいなかったんだ、でもほかの犯人たちとつかまったと思ってたもん」


「‥‥‥」


三人が言っていることが本当なら、金成木さんはあの日の犯人の一人で、上手く逃げたか何かでまだ捕まっていない‥ってこと?まだそれが決まったわけじゃないけど、三人の様子からして嘘をついてるようには見えなかった。


それに一平が言うように、途中で金成木さんがいなくなってたんだったらあとから捕まった私と顔を合わせなかったっていう可能性も十分ある。


いやでも何で、金成木さんが?あの人が攘夷浪士?急にぶちこまれた衝撃に私の頭はパンク寸前だった。金成木さんに何か怪しいことがなかったか思いだそうとしてみたけれど、私の中の金成木さんはいつも笑顔で優しくておおらかで、私のこと可愛いって言ってくれて‥‥‥


「いい人すぎて逆に怪しくね?」


私は彼の良いところしか知らなかった。あれだけお店に来てくれて、お祭りにも行って、金成木さんのことを知る時間はたくさんあったのに、いや本当に良いとこばっかりの人なのかもしれない。いやでも三人の言ってることが正しいなら犯罪者なわけだし‥あぁあぁあ!もう分からん!


のり子さんにはすぐ戻ると言ったから、もう戻らなくちゃいけなかった。でも今はそれよりも重大な事態が起きていて、でもどうすればいいのか全く分からなくて。冷や汗が顔を伝う。心臓の音がやけに激しく聞こえて落ち着かない。


「マナねぇちゃん、どうしよう‥おれたちまたなぐられるの!?」


「殴られたのは私だろーが!」


また殴られて斬られて、あんな怖くて痛い思いするのは絶対いやだ。


「‥っ」


怖がる三人と同じくらい私も怖かった。治ったはずの傷口が心なしか痛む、本当にどうしよう。警察?通報すれば良いの?


「マナさん」


そんな焦る私の背後に急に降ってきた声、マナさんって‥え、嘘。まさかの事態に肩がビクッと大きく跳ねて、一瞬止まりかけた心臓はたちまち速く動き始める。私の心の危険信号が点滅。やばい、これはやばい。


怖いけど、誰がいるのかはもう分かってるけど、振り向かないわけにはいかなかった。私の腕にしがみつく三人の震えを感じながら体にぎゅっと力を込めてゆっくり、首だけを後ろに回した。


「(‥ご、ご本人登場ォオオ!)」


振り向いてすぐ、私の想像通りの笑顔が私の目に映った。がしかしその目は笑っていなくて。真っ黒い黒目が私だけを映しているのがとてつもなく怖くて不気味で、泣き叫んでしまいそうだった。


「‥何をやってるんですか、こんなところで」


その言葉さえ明るく笑っていて。周りの音が消えて呼吸が荒くなる。まるで恐ろしい世界に投げ込まれたような孤独感も押し寄せて、手足の熱がサァアッと冷めていく。誰か、誰か助けて‥本能が危ないと訴えていた。そしてそんな私の本能が助けてほしいと一番に浮かんだのは、


「藤堂、」


遠くから聞こえたビンゴォオオ!と叫ぶ沖田だった、


‥って、あいつビンゴ大会参加しとるんかィイイ!


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