人の笑顔は信じるな
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「いちごとレモンください」


「はーい、500円でーす」


大江戸商店街祭り当日、天候に恵まれ屋台や小さなやぐらが建てられた公園にはたくさんの人で賑わっていた。私ものり子さんと一緒に自分達の屋台でバカ売れするかき氷を作って売っていた。


「のり子さんお久しぶりです。豚カツがコロッケ売るたァ斬新ですねィ」


「沖田てめぇ豚カツって私のことか、あぁん?」


沖田がやって来たのは、日が傾きかけて祭り会場がなかなか良い雰囲気に包まれている夕方。沖田は休みなのか隊服ではなく紺色の甚平を着ていた。着流しとは違う爽やかなその姿は浴衣のCMから出てきましたと言っても頷ける。AAAと一緒にいってみヨーカドーとか言ってそう。


だがしかしそんな沖田を若い女の子たちがチラチラ見ているのが気にくわない。


あ、分かると思うけど気にくわないのは女の子たちではない。


「水凍らしてシロップかけただけで250円?てめぇふざけんのは顔面だけにしろィ」


私が気にくわないのは沖田総悟にだ。あの男の子かっこいいとか思われてるんだろうけど、ふざけんなと言ってやりたい。私が知っている今日までの醜態をさらけ出してやりたい。


「文句言うなら食べなくていいから。邪魔しに来たなら帰ってアイスでも食ってろ」


「沖田くんは100円で良いよ、いちご?メロン?ブルーハワイ?」


のり子さんはかき氷機をガーリガーリ回しながらニコニコ。ちょっとォオ!何半額にしてるの、500円くらいとってよ!


「さすが。のり子さんは優しいなぁ」


手渡されたかき氷をストローですくいながら沖田がわざとらしく微笑む、のり子さんではなく私を見て。キィイイイイ!うざいなホントに!


「早くどいてよ、後ろにお客さん並んでるんだから」


しっしっと追い払う仕草をすると沖田はへいへいと言って人混みへ消えてい‥く前に何か思い出したように私をもう一度見て、


「そういえばあの顔面ミサイル写真、予選突破してたぞィ」


と真顔で言って私が返事をする前に今度こそ消えていった。って、


「コロッケとかき氷のいちごくだ「ウソォオオオオ!?」


沖田の後ろに並んでいた男の子が自分の注文を私の大声に遮られたことにビビって母親に抱きついた。


でもその倍‥いや3倍‥やっぱり4倍、私の方がビビっていた。何であの写真で予選突破?テーマは大江戸商店街の良いところじゃん、選んだやつとりあえず出てこいィイ!


‥‥‥


‥‥





「マナさん、こんにちは」


どうかあの写真がこれ以上コンテストを進みませんようにと祈るしかない私の元に金成木さんがやって来たのは沖田が来てしばらくしたあとのこと。彼もまた甚平を来て片手にチョコバナナを持っていた。ホント好きなんだな、チョコバナナ。


「こんにちは、来てくれたんですね。ありがとうございます」


「当たり前じゃないですか。楽しいです、このお祭「「「マナねぇちゃーん!」」」


金成木さんを遮って、というか割り込んできたのは佐吉と龍之介、一平の三人組だった。金魚やら水あめやら焼きとうもろこしを握りしめる三人。うわーめっちゃお祭りエンジョイしてるじゃん。


「来てくれてありがとう、でもちゃんと順番に並ばなくちゃダメでしょ?」


わいわい騒ぐ三人に注意すると、三人とも"あ、そうか"と反省した表情を見せた。テンション上がりすぎなんだよ、ほらさっさと後ろ行きなと言いかけたときだった。


「「「‥‥‥」」」


割り込んだことを謝ろうとしたのか三人が金成木さんを見上げた、すると三人の顔が固まった。さらに金成木さんの眉がピクッと動いた。そんな彼らを見た私は知り合いなのかと聞こうとした。だが三人は金成木さんからすぐに目をそらし走り去って行ってしまった。


「ちょ、どこ行くのよ!」


「マナさん、あの子たちとは知り合いですか?」


どうしたんだろうと首を傾げる私に金成木さんがそう聞いてきた。いつものニコニコした笑顔で。


「え、そうですけ‥ど」


でもその笑顔が一瞬怖いと感じた。沖田の本性を隠した笑顔の怖さとは違う。いや違う意味では沖田よりも怖いようなそんな笑顔。




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