カニクリームコロッケの気持ち
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夏祭りから一週間。沖田がお店に来なくなった。あの日喧嘩別れしてから彼を一度も見ていない、お店に来る他の隊士たちに聞こうと思えば聞けるけど、聞いてどうするんだと自分勝手な理由をつけて何も聞かなかった。いいもん、お客さんがひとり減ったくらい。いいもん、沖田の顔が見れないくらい。


「‥お前といると調子狂う」


あの日の沖田が言ったこと、あれが本音ならもう彼はここに来ないかもしれない。わざわざ調子狂わされになんて来ないだろう、そんなMみたいなことあいつは絶対しない。


沖田に会えないから何よ、出会う前に戻る前じゃん。怪我も喧嘩もしない平和な毎日に戻るだけじゃん。第一、今現在だって会えてないようなもんじゃん、いいじゃんこれで。


いいはずなのに、私が思っていた平和な毎日はどこにもない気がした。アレ、私の平和って何だっけ?


カラン、


暇な時間に一人で店番だとさらに暇だなぁ、コロッケをつまみ食いしていた沖田を思い出しながらショーケースをぼーっと覗いていたら来客を知らせる音がした。


「‥沖田、」


来客してきたのはなんと沖田。いつもの無愛想な表情で伏し目がちに店内へ入ってきた。まさか来るとは思わなかったのでリアクションができない。え、嘘‥マジで来た。


「‥‥‥」


驚いていたらリアクションはおろかいらっしゃいませを言うタイミングも失った。お互い無言、それにくわえて静かな店内。気まずい、空気がとてつもなく苦しいィイ!


「藤堂、」


先に喋ったのは沖田の方だった、名前を呼ばれてこんなにビックリしたのは初めてかもしれない。驚いて肩が揺れたのを沖田が眉をひそめて見てきた。ヤバい‥何でこんなに緊張してるんだ私!そして呼吸すら聞こえてしまいそうな沈黙がまたやって来た。


「うん?」


「うん?じゃねぇや、カニクリームコロッケ2つ寄越せ」


「あ、うん」


アレ、沖田何か普通じゃね?普通に客としてコロッケ買いに来たよ。しかも外は暑いのにカニクリームコロッケって‥まぁ美味しいけどさ。


「ジロジロ見んな、ジローラモ」


「‥‥‥‥」


何これ、普通にすればいいの?沖田があまりにも普段通りな態度なので戸惑ってうまく喋れない。


「そんなに野郎が好きか、」


喧嘩した日のことが頭を過る。あの日は私がキレて泣いて、いつもの口喧嘩じゃなかったよね?沖田だって変なことばっか言ってたし、それに一週間も会いに来ないから私なりに少し気にかけてたのに。言い過ぎたかなとか、会ったとき何て話せば良いのかなとか。普段クソッタレ呼ばわりしてる沖田に私がここまで気にしてたのに‥!


「はい、210円」


包みに入れた熱いコロッケを差し出すと沖田は私にお金を渡して、そしてひとつしか受け取らなかった。いやふたつ取れよ。


「それやらァ」


「えっ?」


「黙って食え」


早速コロッケにかぶりつきながら私の手に残ったままのコロッケを顎でさす沖田。今日は驚くことが多い、コロッケを私にくれるだと?しかもお金ちゃんと払ってたし、どうした沖田?


「‥良いことあった?」


「何も」


何もなくて沖田がこんなことする?しないよね、こんな優しい行動はアレだ、もっと優しい人がやるもんだよ。何でこんなことしてるんだろう。また企んでるとか?いやコロッケはのり子さんが揚げてたから安全だ。じゃあ何で?


「‥余命宣告された?」


「早く食わねェとお前の寿命縮ませるぜィ」


ギロリとこちらを見る沖田と目が合った。私と目が合ったことに一瞬驚いたように見開かれたその目はすぐに戻ったけど、その一瞬に見せた表情はとても新鮮だった。‥つーかコロッケのカス付いてるよ。


「‥沖田、もしかして反省してる?」


「何がでィ」


「女の子泣かせちゃったー、って」


「…知らね」


目も合わせず白々しいその表情を隠すようにコロッケにかぶりつく沖田。相変わらずムカつく顔だけど、いつもとは違って心なしかへこんでいるように見えて。これが沖田の反省している表情なのかもしれないと思ったら、ちょっぴり嬉しくなった。だって超レアじゃない、しかもごめんねのかわりにコロッケなんて、素直じゃないのにもほどがありすぎ。


でも私の心は不思議とスッキリしていた。喉につっかえていたものが取れて大きく深呼吸したような感じ。


「沖田、ありがと」


「礼なんて慣れねぇことしてお前こそ、余命宣告された‥らいいのになぁ」


「どういうことだコラァア!」


"ごめん"はなかった。でも沖田の気持ちはちゃんと伝わった。それが嬉しくて、土方さんが言っていた憎たらしいだけのヤツじゃないぞ、っていう意味も‥今なら分かる気がした。



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