これが修羅場ってやつですか >「あれまぁ、可愛いじゃないの」 金成木さんに夏祭りに誘われた。最初は行くつもりなかったけど、金成木さんに何度も誘われ、しかも行く相手も他にいなかったので(友達が少ないとかそういうことじゃないから、決して)私は彼と夏祭りに行くことにした。地球に帰ってきて初めての夏祭りに行かないわけにはいかないしね。 慌てて買いに行った浴衣を身にまとい、化粧をしているとのり子さんが様子を見に来た。 「本当?化粧濃くないかな?」 「大丈夫、マナは若いんだからチューされても毛穴すら見えやしないよ」 「のり子さん!」 私は初デートでそんなチューするほど軽くないもんね! 「そろそろ迎えに来る時間だろう、金持ちくん」 時計を確認するのり子さん。金持ちくんじゃなくて金成木さんね、 「真選組の出前は私に任せて、今日は楽しんできなさい」 「うん、ありがとう」 真選組は夏祭りの警備に駆り出されていて、そこでまたウチのお弁当の宅配を注文したらしい。儲かるから良いとかのり子さんは言ってるけど、毎回毎回あの人たち図々しくね? ついでに沖田はお弁当盗った日からお店に来てないし、結局お金払ってない。警察が何してんだよ全く。 「‥‥‥」 あーダメダメ!今からデートなのに、嫌なことを考えるのは止めよう。年に一度の花火大会もあるし、楽しまなくちゃね! 「‥藤堂さん素敵です」 金成木さんは待ち合わせ時間ぴったりに来た。私の浴衣姿に顔を真っ赤にしている。マジか、そんな可愛いか私? 「そ、そんな‥恥ずかしいです」 金成木さんも甚平を着ていていつもよりさらにさわやかボーイなんですけど。紺色がめちゃくちゃ似合ってるんですけど。一瞬クラッと来たのは内緒だけど。 「今日、晴れて良かったですね」 「確かに、花火楽しみです」 初々しさ満点の私たちはしばらくぎこちない会話を交わしながら夏祭りへ向かった。 「わぁーすごい人」 祭り会場はすでに人で混雑していた。遠くまで屋台が並び、特設会場では盆踊りや御輿を担いだりとかなり盛り上がっている。 「藤堂さん、こっちこっち」 混雑の中を歩くので、うまく進めない。そんな私の手にあたたかい手が触れた。 「えっ、あぁ‥はい」 それが一歩先を進む金成木さんの手だと気づいた私の頬はたちまち熱を帯びていく。 やばい、これめっちゃドキドキするんですけどォオ!汗、手汗がやばい出そう、やだ恥ずかしい!ただ私には握り返す冷静さも振り払う勇気もなくて、熱だけがぐんぐん上昇していった。 しばらく歩いて、金成木さんが何か食べようと提案してきた。手は繋いだままである。私からしたら手に神経が集まっちゃってそれどころじゃない。ずっとこんなことされたら身が持たないよ。 「藤堂さん、何が食べたいですか」 「‥えぇっと、綿菓子」 「ふふっ、可愛いですね」 金成木さんは微笑んだあと、辺りを見渡して綿菓子の屋台を探してくれた。 「僕、チョコバナナが食べたいんです。あそこならどっちもありますよ」 金成木さんに連れられて、屋台へ向かう。もちろん手は繋いだまま。やばい、何このドキドキ。恋か、これが恋なのかァア! 「‥いや、どっちかって言うとアバンチュール?」 「え?」 「あ、いえ、何でもないです」 屋台で並んでいる間、左に立つ金成木さんをそっと見上げる。背が高いしやっべかっこよく見える‥!周りから見たら恋人同士に見えるのかなぁなんて考えたらまた恥ずかしくなってきたので止めた。 「あ、」 キャラクターの袋に入った綿菓子を買い、チョコバナナを買うために列に並ぼうとしたとき、金成木さんが何かに気づいた。何だろうと思い、その視線の先を追う。 「‥え、沖田‥?」 なんと私たちから少し数メートル離れたところに沖田が立っていた。何でこんなところにいるの?しかもこんなにたくさん人がいるのに、偶然会うなんて。デートしてるところ沖田には見られたくなかった、なんとなく。 どうせからかってくるんだろう、やだなぁと思って沖田をもう一度見る。 沖田はこちらをじっと見たまま動いていなかった。彼の鋭い視線は私でも金成木さんでもなく、 「藤堂、」 私たちの繋がれた手だった。冷たく聞こえる私の名前に火照った体が冷やされていく気がした。 「こんばんは、沖田さん」 金成木さんの挨拶に、沖田の視線は一瞬だけ彼へ向いた。でも挨拶を返すわけでもなく、すぐ私へ視線が戻った。なんか、いつもと様子が違う気がする。 「‥‥‥」 「弁当届けに来ねぇと思ったら、デートかィ」 「きょ、今日は休みなの!休みに何しようと関係ないじゃん」 「俺も早番でもう警備終わったんでィ」 「だから何よ、」 できるだけいつものような暴言は言いたくないので、沖田への攻撃は今日はやめておこうと慎重に言葉を選んでいると沖田が近づいてきた。 「金成木さん、早番デートお疲れっした」 沖田は無表情のまま、金成木さんを見上げてそう言うと 「えぇっ、ちょっ‥沖田!?」 私の腕を強くつかみ、歩き出した。私と金成木さんの手はするりとはがされ、私は沖田に引きずられるように人混みへ入っていく。 「マナさん!」 そのとき、後ろから聞こえた金成木さんの声。私のこと下の名前で呼んでるなんて思いながらも、さっきみたいにドキドキしなかった。 それよりも、前を歩く沖田につかまれた腕が熱くて、その温度に胸が苦しくて。 「沖田、放してよ!」 その苦しさを隠すように大きな声を出して、私が腕をふりほどこうとしても立ち止まろうとしても、沖田は歩き続けた。 前へ 次へ back |