イエス、フォーリンラブ >「すいませぇーん」 カラッカラに晴れた空の下、私は真選組屯所にやってきた。 近藤さんから隊長会議があるので弁当を注文したいと電話があったのだ。近藤さん、前もあったけどウチはそんな宅配サービスしてないよ!しかもお昼までに届けてってウチのお店も忙しいんだけど。 「宅配料金ごっそり取ればいいのよ、向こうは公務員なんだし」 のり子さんは儲かるとウキウキだったけれど、宅配するの私だからね!こんな暑い中重いもの持って歩いて届ける私の身にもなってよね。 「あ、マナちゃん」 屯所の前で突っ立っていると、中から山崎さんがやって来た。 「どーも。弁当届けに来ましたー」 両手の弁当を差し出すと、山崎さんはえ、俺?みたいな表情で私を見た。他に誰がいるんだよ! 「家に帰るまでが遠足、部屋に届けるまでが宅配でしょ?」 「‥じゃあ早く案内してください」 心の中で盛大な舌打ちをして、山崎さんのあとに着いていく。暑いし重いし、帰りアイス絶対買って食べよう! 「会議は1時からだから、まだ時間あるけど隊長に会ってく?」 長い廊下を歩き会議室まで運ばされ、さあ帰ろうとしたら山崎さんがニッコリ。 「何笑ってんですか、気持ち悪い。会うわけないでしょ」 「気持ち悪いってのいるかな?」 「ていうか屯所で会議なら宅配いらないですよね?食堂とかあるんでしょ?」 「評判なんだよ、あいうえお弁当がおいしいって」 山崎さんがお弁当を会議室のテーブルにひとつずつ置いていく。評判か‥たしかにここ最近お店に隊服着た人たちが結構来るけど、話したりはしないからなぁ。評判なのは嬉しいけど宅配とは話が別だからね。 「マナちゃん、良かったらお茶で「はい、ありがたく頂戴します」 山崎さんがやっと‥やっと気を利かせてくれた。冷たい麦茶と茶菓子的なの出せよ。 「やっとって何?しかも茶菓子まで要求してきたんだけど」 「私、つぶあんは苦手なんで」 「聞いてねぇよ!」 冷房の効いた客間に案内してくれるという山崎さんと一緒に廊下を歩く。それにしてもここの廊下ホンット長いなぁ、鬼ごっことかしたら楽しそう。 「あ、沖田隊長」 「ふんごっ!」 屯所に入るのは初めてだったので、あちこち見ながら歩いていたら急に前を歩く山崎さんが立ち止まった。私は気づかず、山崎さんの背中に追突。 「よォ、山崎‥ってメ、藤堂」 鼻をおさえながら前を見ると目の前の部屋から沖田がちょうど出てくるところだった。 (前回から沖田と呼ぶことにした) 「メス豚って言いかけたな、お前」 久々に会ったな沖田。相変わらずメス豚離れしてないけど、言い直しただけマシか。 ほんの一週間くらい前までエプロンと三角巾してたのに、キチッと隊服を着こなして刀をさしていると別人みたいだ。 「‥ちょうどいいや。金成木さん、こいつが猫拾って世話をしてたんでさァ」 沖田は何か思い出したようにいきなり部屋の襖を開けて、私を指差した。 「この方ですか‥!」 部屋にいたのは、近藤さんと土方さん、そして一人の青年。(知らない) でも沖田が猫って言ってたから、もしかして‥ 「蔵持の‥ゴホン。猫ちゃんの飼い主さんですか?」 私がそう尋ねると青年ははい、と頷いた。おう、マジか。優し笑顔がさわやかだ。ていうか何かもうオーラが金持ちだ、着物も高そうだし、そんなに喋ってないのに品がある。しかも沖田、金成木さんって呼んでた。金が成る木で金成木?どんな名字? やっぱ金持ちはすごいなーと金成木さんを見るとバッチリ目が合った。しかも私をじっと見たまま、立ち上がって私の目の前までやって来た。意外と背が高くてビビる大木。 「うちの猫がお世話になりました。お名前を伺ってもよろしいですか」 「え、あ‥藤堂マナ、です」 「素敵な名前ですね、私は金成木幹也と申します」 「か、金成木さん…こそ素敵なお名前ですね(金持ち的な意味で)」 なぜか目が輝いている金成木さん。やばい、お金持ちの知り合いなんていないから緊張するんだけど!えた非人とか言われたらどうしよう、 「‥藤堂さん、あの‥いきなりこんなこと言うのもおこがましいですが‥」 「はい?」 急にモジモジし始めた金成木さん。お金持ちがそんなモジモジしなくても‥もっと堂々としてればいいんだよ(by貧乏娘) 「もし良かったら‥あの、僕とデートしてくれませんか!」 「「「「‥‥‥はっ?」」」」 きれいに言葉が重なった。おそらくこの場にいる全員(金成木さん以外)が同じ表情をしているだろう。みーんな開いた口が塞がらない状態だ。 デ、デートォオ?は‥えぇえ!?何で私と!?しかも金成木さんいつのまにか私の両手握ってるんだけど!ていうか私の手汚いって、山崎さんにぶつかった鼻おさえたから。 「マナちゃん、それは俺が汚いってことか?」 (山崎さんの言葉は無視)ななな何だ、この状況。何で私会ったばかりの男と手握ってるんだ。弁当届けに来ただけなのに、お茶飲んで帰るつもりだったのに。 「いや、あの‥!デートが嫌なら‥その、お友だちからでもいいんで」 18歳の初夏、私は人生初の一目惚れをされました。 ※金成木(かなき)と読みます 前へ 次へ back |