それは作戦だったのかもしれない
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「え、捜索願?」


「あァ、その猫とそっくりのな」


猫ちゃんを拾って2日、朝出勤してきた沖田総悟は私がまだ準備をしている2階にやって来た。のり子さんに内緒で猫ちゃんの世話をしているから、わざわざここまで来てくれたのかな。


「江戸で有名な蔵持んとこの猫で、一週間前に逃げ出したらしい」


「え、じゃあこの子はそこで飼われてるってこと?」


猫ちゃんに買ったキャットフードを開けながら話を聞く私に沖田がうなずいた。


「まぁ、猫の顔なんざ見分けはつかねーからこいつに決まったわけじゃねーけど」


他人事のように私があげた餌を食べ続ける猫ちゃん。この子、やっぱり飼い主いたんだ‥しかも蔵持ちんとこの猫‥か。


「たしかに金持ちオーラ出てるよね、毛並みに」


「何でィ、寂しくねぇのか」


「まぁ野良猫っぽくなかったし?」


「チッ、泣きゃおもしれーのに」


「何だそれ。舌打ちすんなバカ」


開店前からいつもの喧嘩ムードになりそうだ、と思っていると沖田総悟がそれと、と話を続けた。


「俺ァ今日いっぱいで手伝い終わりでィ」


「えっ」


まさかの話題に驚いて沖田総悟を見ると何でィと眉をひそめられた。今日で終わり?


「そんなこと、言ってたっけ?」


「今言った」


「‥‥‥」


「お別れパーティーに土方さんは呼ぶんじゃねーぞ」


「知るか。お別れパーティーなんかしないから」


一人で乾杯やってろと言うと沖田総悟は私の頭を叩いてさっさと下へ降りていった。


「いった‥あいつ何で本気で殴るかな」


朝から脳細胞死んだじゃないか、最悪。


「‥やめるんだ、今日で」


いきなりそんなこと言われてもあ、そうですかとしか言えない。


たしかに、期間付きのお手伝いだし私の指はもう完全にカムバックしてるし、退院したあとの体調も好調と来れば沖田総悟がここにいる意味は自然となくなるけど。


「‥かわいくないな、分かってたけど」


もっと早く言えばいいのに、こっちだって心の準備とかあるし。


べ‥別にいいよ、あいつが辞めてくれれば喧嘩も怪我もしなくて済むし。私の体調ももう良いし、イライラも減るもんね!


でもやっぱり、何だかんだ言って助かってたしお店も繁盛したし‥それが楽しかったとは言わないけど。


モヤモヤするもの心の奥に感じながら、私は1階へと降りていった。





「ありがとうございましたー」


沖田総悟は最後までいつもの沖田総悟だった。味噌汁セットを売り、私には強く当たり、客が退けばコロッケを盗み食い。それに呆れながらも、最後だと思うと怒る気にはならなくて、私はいつもより静かなテンションで一日を過ごした。


「マナ、あんた洗濯物とりかこんでおいで」


夕方になっても沖田総悟は帰らなかった。今日は最後までいるらしい。どうせ報告書とか自分の仕事から逃げてるだけだろ、フンッ。


昼の混雑を過ぎすっかりガランとした店内でショーケースを拭いていると、雲行きが怪しくなってきた外を見てのり子さんがキッチンから顔をだした。


「あ、はーい」


江戸に台風が近づいているらしい、お客さんがたしか言ってたな。私は雑巾を置いて2階のベランダへ向かった。


ザァアアア‥!


それからものの30分もしないうちに大雨が降りだした、ゴロゴロと雷が鳴る音も聞こえる。


「(ひょえぇえ!めっちゃ降ってる‥)」


バケツをひっくり返したように降る雨を店から見ながら、のり子さんの作った試作(コロッケ)を沖田総悟と食べた。


「あんたこれ帰れんの?」


のり子さんはここから走れば3分のところに住んでるから帰れるけど、真選組の屯所は結構離れてる。ずぶ濡れになって風邪をひけば面白いのに。


「無理でィ、暴風警報出てらァ」


コロッケをかじりながら自分の携帯をほら、と見せてきた沖田総悟。ニュースサイトに江戸全体に暴風警報が発令と書いてある。マジか、夜の台風ってワクワクするんだけど!


言っておくと私、雷にキャーとか怖がる人間じゃないから、むしろテンション上がる方だから。雨の中走り回るアホな方だから。不謹慎だけど楽しみ。


「あんた何でそんな余裕?」


どんどん暗くなる空と強くなる暴風と大雨にテンションがぐんぐん上がっていくのを感じながらもここで騒ぐのはまだ早いぞ抑えろマナ!と自分を冷静に保ちながら沖田総悟に尋ねる。


「ここに泊まればいい話でィ」


「そっか外出れないもんねぇ‥‥‥‥は?」


いたって真面目な顔で発言した沖田総悟の顔がピカッと光った雷に怪しく照らされた。


誰か、この馬鹿の頭をかち割れるような石を持ってきてください。できれば結構デカくて重いのを。


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