雨と野良猫と優しさ
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「ミャー」


3日前、ゴミをお店の裏に捨てに行くとゴミ箱の隣に黒猫がいるのを見つけた。


「きれいな猫ちゃんだねぇ」


最初は野良猫かな?と思っていたけど、毛並みの良さや全体的に全く汚れていないところが、野良猫っぽくなかった。


「またねー猫ちゃん」


この辺りで野良猫を見るのは珍しくないので私は何も気にしなかったんだけど。


「ミャー」


その日からその猫はお店の周りに現れることが多くなった。お店の裏やキッチンの裏口、お店の前でじっと座っていることもあった。


「変に懐かれちゃ面倒だから」


のり子さん(犬派)はそう言って猫を放っていたけど毎日どこかで見るその猫を見る度、私は気になっていた。野良猫っぽくないしもしかしたら飼い主さんがいるのかもしれないけど、お店の前とかでミャーミャー鳴いているとお腹が空いてるんじゃないかなって少し心配になる。


でも、のり子さんの言うことも一理ある。育てていけるかとか、飼い主がいたらとか、色々考えてしまって。
結局私はその黒猫に何もすることはなかった。





だが3日後、つまり今日。久々の平日休みをもらってお母さんのお見舞いへ行った帰り道、私はその黒猫に出会った。お店から少し離れた路地裏でだらんと寝ていたのである。それだけならお昼寝かな、と思えるけど今日は雨が降っていて、今だって結構強めの雨がざあざあ降っている。そんな中、黒猫は雨に打たれたまま。


「‥‥‥」


ピクリとも動かない黒猫に、私は反射的に駆け寄っていた。濡れた体に手を触れると体温はあった、でも骨をすぐに感じる辺り、3日前に会ったときより痩せ細っているように見えた。


大丈夫かな、まだ死んでないよね?私はその黒猫を抱き上げ持っていた手拭いでくるんだ。のり子さんには反対されるかもしれないけど、このまま放っておくわけにはいかない。飼うとかそういうことじゃなくて、助けてあげないと‥それが一番だ、私は雨の中急いでお店へ戻った。


「何でィ、その猫」


お店へ戻ると、のり子さんは買い出しでいなかった。その代わりに沖田総悟が店番をしていて、私が抱いた猫を指差した。


「最近この辺りでよく見てたんだけど、さっき雨の中で倒れてて‥のり子さんには内緒ね」


店番よろしく、と言って私はそのままお店の上、家へと上がっていった。お湯で体を洗ったあとタオルで水気を拭き取る。


季節外れのストーブを出して、少し離れたところに黒猫を寝かせた。だいぶ冷えてるから温めたほうがいいよね、ご飯とかそういうのは目が覚めてからだよね、と動物を飼ったことがない人間なりに考え不安になりながら傍で見守った。


するとしばらくして微かだけどお腹の辺りが動いているのを確認した。


「よかった‥」


眠る猫の頭をそうっと撫でながらこれで一安心だとホッと胸を撫で下ろしていると、ふわりと頭に何かが乗った。


頭を触るとタオルがかけられていて、パッと後ろへ振り向くと沖田総悟が立っていた。少し口をへの字にして、よく見る憎たらしい表情で。


「早くおめーも乾かせ」


「‥え、あ‥うん」


いつからここにいたのとか、店番はどうしたのとか、言いたいことは何も口から出てこなかった。だってそのぶっきらぼうな言い方の中に、優しさを見つけてしまったから‥憎たらしい沖田総悟のくせに。


急いで帰ってきたから私も結構濡れていて、もしかして私を心配してわざわざ来てくれた‥?いや、でもあの沖田総悟だよ?


突然見せた沖田総悟の知らない部分に私は動揺して、ありがとうも言えないまま。


「(‥何よ、あいつ)」


沖田総悟が階段を降りていく後ろ姿を、私はただ見ることしかできなかった。


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