女の子に豚なんて言ってはいけません
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「メス豚、そこの袋取れ」


「‥どーぞ」


皆さんご存じの通り、沖田総悟は私をメス豚と呼ぶ。悲しきかな、こう呼ばれることに慣れてしまっている自分もいる。


「コロッケ女、今何時でィ」


「‥2時8分」


そして私が揚げたてのコロッケをショーケースに並べているときはコロッケ女と呼ぶ。


「おい休憩だぞベン・ジョンソン」


さらに私がトイレ掃除をしているときにはベン・ジョンソンと呼ぶ。便所とかけてか知らないけど。


「あのさ、統一してくれないかな!」


一日何度も色々な名前で呼ばれて私がここまで我慢したことにまず拍手してほしい。


ついこの間、ジュースをくれて優しいところもあるのかななんて思ったけど最近はまたいつもの憎たらしさが満載な沖田総悟。このままではヤツの思い通りになってしまうので、今日は言ってやろうと思います。でもいつもと同じようにいけばただの言い合いになってしまうから穏便にいこうと思います。よし!


「あのさ、」


休憩時間、のり子さんがキッチンで作業している間に私は沖田総悟に話しかけた。


「あ?」


賄いを食べながらテレビに夢中な沖田総悟。まぁテレビっていうかヤツが持ってきた自分のDVD(女子プロレスの試合)だけど。食事中に女同士の喧嘩を見るなんてなかなかの悪趣味だよ。ていうか一緒に食べる私の身にもなってほしい。


「ねぇねぇ」


「あ?」


沖田総悟は私よりも女子プロレスらしい。呼んでも返事をするだけでこちらを見てくれない。


「‥ねぇってば、」


「だから何でィジャガー彩子」


「ジャガー彩子って誰だよ、その名前プロレスだろ女子プロレスの選手だろ!」


ちょ、いい加減にしてよ。話進まないから!私は手元にあったリモコンでテレビの電源を消した。ギャーギャーやかましかったテレビが消えたので休憩室はシンと静まり返る。そしてやっと沖田総悟がこちらを見た、よし。


「あのさ、私の呼び方統一してく「メス豚で」


そう言ってリモコンをとろうとしたので、すかさずリモコンを自分の後ろに隠す。何で即決、しかもメス豚?もっとちゃんと考えてよ。


「ちゃんと名前で呼んでってこと」


「今さらメス豚呼ばわりに傷ついてんのか」


「今さらっていうか常に傷ついとるわボケ!いい?私には藤堂マナっていう名前があるの」


だからせめて名字で呼んでよ、と言うと沖田総悟は無言でコロッケをむしゃむしゃ食べてごっくんと飲み込んだあと、


「のり子さぁん、今日のコロッケ旨いでさァア!」


とキッチンに向かって叫んだ。いや無視ィイ!?聞けよ私の話。


「別に我が儘言ってるわけじゃないでしょ?名字で呼んでって言っ「そりゃ良かったわァー!」


のり子さんんん!タイミングを考えろ、タイミングを。


「じゃあ何て呼べばいいんでィ、い・ま・さ・ら」


沖田総悟は面倒くさそうに私を見て言った。私だって毎回毎回、沖田総悟って言うの面倒くさいんだよ、ヤツとかアイツとか言うのも分かりにくいし。


「お互い名字で呼ぼうよ、それなら平等でしょ?」


私は沖田、あんたは藤堂、どう?と聞くと沖田総悟は沢庵をポリポリ。


「‥聞いてる、かな?」


「お前が沖田なんて呼び捨てすんのは気に食わねぇな」


「じゃあ沖田くんならいいの?」


「いーや。キモい」


「‥‥‥」


ああ言えばこう言う男だなほんっとに!私がせっかく穏便に進めてるのに、暴言吐き出したいのを抑えてるのに、何呑気に食事?


「仮に俺がお前のこと藤堂って呼んだらキモいとか言うんだろィ」


「メス豚とかよりは全然マシ」


箸を止めて話している自分が馬鹿らしくなって、もう私も食べようと箸を持つ。


「ふーん」


「ふーんて何?」


あまりに関心を示さない沖田総悟に苛ついて、箸でコロッケをぐさっと刺した。


「マナ!行儀悪い!」


するとそこへのり子さんがたまたまやって来て私の箸がコロッケに刺さっているのを見て頭を叩いてきた。


「いでっ、ごめんってば」


のり子さん、悪いけど今こっち大事な話してるから。ていうかさっきからタイミング悪いな。私は普段こんなことしないよ、ちょっとイラついちゃっただけだから。


「もう休憩時間終わるな、早く食えよメス豚」


腕時計を確認するように袖をずらす沖田総悟。いや腕時計つけてねーじゃん、演技がわざとらしいんですけど。ていうか‥


「いい加減メス豚呼ぶなァア!」


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