渡す前に振るのは当たり前
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「おい早くしろよメス豚、置いてくぞ」


「あんたも持ってよ!どんだけあると思ってんの?」


午後5時半、私は沖田総悟とともに真選組のパトカーに弁当を乗せていた。


お店に近藤さんから電話が掛かってきたのは3時間ほど前。遅番で護衛に入る隊士たちの弁当の注文だった。近藤さん何で当日に注文?と思いながらものり子さんは注文を受けて、沖田総悟と三人で人数分の弁当を作った。たまたま注文が昼過ぎだったので作っている間、お客さんはほとんど来なかったのが幸いだった。


そしてなぜか、完成したお弁当を私も一緒に届けることになった。ヤツが護衛に入るはずの3時はとっくに過ぎていたけれど、近藤さんは弁当優先で!と了承してくれた。


違うよね。お弁当より将軍だよね?クッキングより将軍の命だよね?


お弁当を積み、やって来たのは町外れの大きなお屋敷。沖田総悟はパトカーを降りるなり近くにいた近藤さんと何やら話している。ていうかお弁当!もしかしてこれ私が運ぶわけ?


「うー重っ‥」


しばらくしても沖田総悟がこちらへ戻ってくる様子はないので私は仕方なくパトカーから降りてお弁当を運ぶことにした。お屋敷を囲うように護衛している隊士たち一人一人に配るわけではなく、まとめて置いてほしいと電話で近藤さんが言っていたのを思いだしお弁当を出来るだけ持った。こんなデリバリーみたいなサービスしてないんだけど、ていうかマジで沖田総悟手伝わないのか!


「あぁ!藤堂さん危ないよ」


お弁当は味噌汁セットなので地味に重い。一気に持ちすぎたと後悔しながら運んでいると近藤さんが駆け寄ってきてくれた。


「あ、ありがとうございます」


ひょいっと軽々しく私のお弁当を持ってくれた近藤さん。おい総悟ーお前も手伝え!なんて言ってヤツを呼んでくれた、良い人!


「わざわざありがとう、」


隊士たちの休憩室として使っている部屋へ三人でお弁当を運び終えると近藤さんが代金を払ってくれた。


「いえ、護衛お疲れ様です」


もう私の仕事は終わったので近藤さんに挨拶をして部屋を出る。部屋に沖田総悟はいなかった。またサボり?と呆れつつ私はお屋敷を出た。


「あー肩痛ぁー」


あんな重いものを持ったのは八百屋へおつかいへ行ったとき以来だと思い出しながら肩を上下に動かす。ていうか‥


「歩いて帰る‥の?」


お屋敷を出て帰ろうとしたは良いけど、お店まで30分は歩く距離。行きはパトカーで来たから良いけど帰りのこと考えてなかった、ヤツは護衛だし‥


「おーいメス豚」


徒歩で帰宅しなければいけないことにテンションガタ落ちしている私の背後から聞こえてきた言葉。こんな失礼なこと言うのはヤツしかいない。


「‥何?」


もうヤツにキレるテンションも残ってない私はゆっくりと振り返った。沖田総悟はお屋敷の玄関の壁にもたれていた、いつの間にそんなとこ‥


そして私が振り返ったのを確認した瞬間、何やらこちらにひょいっと投げてきた。
え、何!?と思ってそれを目で追っているとキャッチしろィと声が聞こえてきて、私は慌てて両手を差し出した。爆弾とかじゃないよね!?


パシッ、


無事キャッチしたそれは固くて冷たくて、よく見ればそれは缶ジュースではないか。


「これ‥」


「出張代金でさァ、」


沖田総悟は笑顔を見せるわけでもなくいつもと変わらぬ表情で一言。そして私が何か言う前にお屋敷へと入っていってしまった。


残された私と缶ジュース。沖田総悟が私にジュースをくれた‥?信じがたいことだけれど本当だった、いつもは憎たらしいはずのキャラとは違う行動に私は嬉しくも複雑な気分だった。


少なくとも憎たらしいだけのヤツじゃねぇぞ?


ふと土方さんの言葉が蘇る、これが土方さんの言っていた沖田総悟なんだろうか?
ずっと気になっていたはずなのに、突然すぎたのと意外すぎてイマイチどんな感情なのか分からないんですけど。


「‥‥‥」


でもせっかくもらったし‥喉乾いたからジュース飲もうかな、とプルタブを起こした。


ブシャァアアア!


しかし開けた瞬間、なぜか中のジュースが吹き出し、見事私の顔面に直撃。こ、これ‥


「‥た、炭酸じゃねぇかァア!」




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