計画は念入りに練りましょう
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憎き沖田総悟に復讐を誓って3日、私は土方さんと会う約束をしていた。


話が聞きたいのでとファミレスで会うことになったのだけれど、そこにはいたのは松岡修造にも負けないような暑苦しさ満載の真選組の隊士さん。(20名ほど)


「私、土方さんしか召集かけてないですよね」


召集‥というか会う約束をしたのは土方さんだけ。でもなぜこんなに増えてるの、と思ったら召集という言葉が自然に出てきてしまった。まるで私がリーダーみたいな感じだなオイ。


「すいまっせェエエん、声もう少し大きくお願いしまァアす!」


しかもここはファミレス。当たり前に20人席なんてないので窓側の席を真選組プラス私で占めている、遠くの席に座る隊士が大声でそう言うもんだから他の客が怪しい目でこちらをチラチラ。


やだやだ一緒にしないで!こんなおっそろしい集団と。違うからね、私もこの状況に着いていけてないだけで、本来そっち(一般ピーポー)側なんです。


私はただ、土方さんから話を聞きたかっただけなのに。沖田総悟の復讐をするにあたって、弱味とか握れたら有利じゃね?と考えて普段よく沖田総悟の口から出る土方さん(ほぼ悪口)にアポを取って会う約束をしただけなのに。


「こいつらもお前と同じなんだとよ」


隊士からも周りのお客さんからも四方八方視線が突き刺さる中、私の向かいの席に座る土方さんがやっと口を開いた。私と同じだと?


「‥全員、沖田総悟の被害者ってことですか?」


半信半疑でそう聞けば土方さんはあぁ、とだけ言った。私は席のはじっこ(通路側)から、体をひょっこり出した。この全身黒ずくめの男たちが私の仲間だと?マジか沖田総悟。


警察官なのに、仕事仲間からこんな‥ここにいる人たちがどんな被害を受けたかは知らないけど、何かもうすごいよ。


「もう私と土方さんが会って話す感じじゃないですよね被害者の会ですよねこれ」


「そうかもな」


呑気に灰皿へタバコの灰をトントン落とす土方さん。
まぁせっかく集まってくれたんだし聞いておこう、大事な材料になるかも。


「じゃあ‥あの、あいつにどんなことされたか聞いていいですか?」


持ってきたメモを片手にそう聞くと待ってました!と言わんばかりに辺りが一斉にワイワイガヤガヤし始めた。順番に、なんて言う声も聞こえない。我先にと全員の声が押し寄せてくる。


「(うるっせェエエ!)」


これを中断するのは無理だと諦めた私はとりあえず、聞き取れたことだけをメモに残していくことにした。
‥が被害内容が酷すぎて途中から怖くなってきた。


「‥土方さん、あんた侍ですね」


「女に殺意沸いたの初めてだ」


「嘘です生意気な口聞いてすいません。あんなやつに苛められて大変だなと思っただけです、だからマヨネーズだけは!マヨネーズだけは向けないで」


「別に向けてねーだろ、ていうかお前何で俺がマヨネーズ好きだって知ってんだ」


「ヤツから聞いてるマヨ」


「てめ、俺のことなめてんだろ」


しばらく一通りの被害報告を受けて、メモいっぱいになったそれを見た私からは復讐してやる!とメラメラ燃えていた数日前のテンションは燃えカスになりつつあった。


・目覚めはバズーカ
・稽古後、水分補給したらドブ水だった
・貰った石チョコがただの石
・就寝中、脛毛を抜かれた
・とりあえずバズーカは常備
・厠のウォシュレットをマヨネーズに入替
・挨拶したら蛙投げられた
・犯人と一緒にバズーカで吹き飛ばされた


その他諸々、沖田総悟の悪事はとんでもないモノばかりだった。


「マナちゃんの骨折とか毒入りコロッケなんて王道だからね」


土方さんの隣にひょっこり顔を出した山崎さん。いたっけこの人。


「山崎さん何でいるんですか何ナチュラルに入ってきてるんですか、ていうかいつから下の名前で呼んでましたっけ」


「まぁまぁ。俺もマナちゃんと同じ被害者じゃん、仲良くや「チェンジで」


何でだァア!と騒ぐ山崎さんに土方さんが一発げんこつを落としてくれた。


「‥総悟が気に食わねぇのは分かるが、止めとけ」


土方さん、それは私に復讐を止めろと言っているのですか。相変わらずタバコを吹かす土方さんを見つめて訴える。


「楽しかったりするんだろ、実は」


「‥‥は?」


土方さんがこちらを見た。
いや、今の"‥‥は?"っていうのは生意気とかじゃないです自然に出たんです土方さんをナメてるとかそんなんじゃないです決して。


というか何を言ってるんだ、土方さん。土方さんなら分かってくれると思っていたのに、指を骨折したりお腹壊すことが楽しい?マゾでも嫌がるレベルじゃないすか。


「総悟も総悟でお前んとこ行くとき、楽しそうにしてんぞ。コロッケの試作持って」


「‥それは見た目こそコロッケかもしれませんが毒に分類されるものです。楽しそうの意味もブラック的なものかと」


「まァ、俺からしたらただのガキの言い合いみてぇなもんだ」


ダメだ、話が進まない。ただの言い合いならどんなに良いか。それは被害者でもある土方さんだって分かってるはずなのに。


「お前は総悟の全部を知ってるわけじゃねェだろ。復讐なんざする前にヤツを他の角度から見てみろ、少なくとも憎たらしいだけのヤツじゃねぇぞ?」


いや、ヤツはどこから見ても最悪クソッタレ野郎なんですと言いたかった。


「‥‥‥」


でも言えなかった、だって土方さんの言う通り。私はヤツの‥沖田総悟のその部分しか知らないから。土方さんみたいにずっと一緒にいたわけではないから、ヤツの全てを知らない。


"憎たらしいだけのヤツじゃねぇぞ?"


そう言った土方さんは薄く笑っていて。


何だか見てしまいたくなったじゃないか。
沖田総悟の憎たらしいだけじゃない、部分とやらを。


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