期待するほど馬鹿を見る
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結局、着替えはできず(というか着替えを持っていなかった)化粧もしないという寝起き同然の格好で私は沖田総悟が乗ってきたパトカーで授与式へ向かった。


「化粧くらいさせてくれてもいいじゃん」


助手席でぶつくさ文句を言ってやる。いやこれくらい言わせろ。


「おめかしなんざするほどの授与式じゃねーのにかィ」


「うっさい、女の化粧は身だしなみなの」


「お前が化粧してもしなくても何も変わんねェや」


意外にも安全運転をする沖田総悟を横目にその言葉の意味を考えた。


「それは元が良いから化粧してもしなくても変わらないという意味かね?」


「車から降ろすぞ顔面兵器」


「「「ギャハハハ!」」」


「‥‥‥」


誰か助けてください。この車の中に私の味方はおりません、至急応援をォオオ!


「着いたぞ、降りろィ」


ムカつくので爆笑しやがった後部座席に座る三人の頭にげんこつを落としてから車を降りた。


目の前に広がった景色、真選組屯所だった。あぁ、ここで授与式やるのねなんて納得しながら沖田総悟のあとに続いた。


初めて入るその場所、これから待ち構える授与式に、急に現実味を感じて緊張しちゃったりラジパンダリ。


「何かドキドキする」


「ガスター10やらァ」


そういう意味じゃねぇよ、しかもガスター10って胸焼けの薬だから。


沖田総悟の一言で少し冷静になっているうちに授与式が行われる部屋に着いた。襖の奥でたくさんの話し声が聞こえる。うわーついに来た、すっぴんだけど!パジャマだけど!


「失礼しやす、三匹の子豚とジュゴン一匹到着しやした」


襖を叩き、沖田総悟が声をあげる。途端におおぉ!という声とともに起こる拍手、いやいやお前らおかしィイ!子豚とジュゴンでなぜ拍手ができるんだ!


「何でジュゴンだてめー」


「豚が四匹だと漢字で読みにくい」


「読者の目線んんん!?何その謎な配慮。漢数字止めればいいだろ、ていうかストレートに人間でいけばいいでしょーが」


そんな私を無視してズカズカと部屋へ入っていく沖田総悟。慌ててその後ろに続いた。


「(ゲェエエエ!)」


部屋に入った途端、私は一瞬フリーズ。
なぜなら入った部屋は想像していた3倍は広く、しかも真選組の隊士たちで埋め尽くされていたから。しかも全員拍手、拍手、拍手!やべーよすっぴんでパジャマでこんな‥恥ずかしい超恥ずかしいィイ!絶対笑われてる、何あの病人みたいな格好やばくね?みたいな目で見てる絶対。


「‥‥‥」


立ち位置である部屋の奥まで来たときには、赤面で真っ直ぐ顔を上げられなかった。隣に並ぶ三人はワクワクしているけど、そんな無邪気に喜べない恥ずかしいせめて着替えしたいこんなの公開処刑だ。


「えー、では藤堂さんから」


目の前に立つ近藤さんが手元の賞状を読み上げ始めた。


「‥貴殿の勇敢な行いをここに称え、表彰します。特別武装警察真選組局長近藤勲」


笑顔で手渡された賞状は、


「‥‥‥」


思いっきし手書きなんですけど(字汚い)。しかもこれただの画用紙じゃね?賞状でよく見る四角くて大きいはんこもない。いやあるけど普通に"近藤"の印鑑なんですけど。宅急便来たときに押すやつと同じなんですけど!


何か私が想像していた感謝状とは違う気がするけどこれが普通なんだろうか。いや違うよね?そのあとに渡された三人の賞状も手書き。


ちょっとこれ本当に授与式?ていうか普通こういうのって警視庁とかでやるじゃん、TVとか新聞の取材もあるじゃん。


「‥‥‥」


何で見渡す限り真選組?身内行事なのか?


「記念品だ、よく頑張ってくれた!みんなありがとう!」


そう言って渡された記念品。まぁ正直、記念品さえちゃんとしてれば賞状は手書きでも良いや。近藤さんから受けとった記念品(段ボール)をその場でみんなで開けた。


「‥な、何これ」


「ん?それは真選組ソーセージだ!」


オィイイイイ!記念品が真選組ソーセージ!?お前ら人の頑張り何だと思ってるんだよ、しかも無駄に1年分?いらんわ!


「以上で、感謝状授与式を終わります」


しかも‥これで終わりかィイ!


「だから言ったろィ。おめかしなんざするほどの授与式じゃねーって」


沖田総悟の独り言は私には届かなかった。


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