お見舞い品はその人が好きなものを >「藤堂さん、」 その日、私は足のリハビリを病院で受けていた。斬られた傷は深くはないらしいけど、歩くと痛むし暫く安静にしていたので慣れさせるためにも、と手すりを使って歩く練習。 これがなかなか疲れた。え、歩くのってこんなに大変だったっけ?と驚くくらい。 リハビリを終えて病室へ戻ってくると、そこには近藤さんがいた。 「あ、こんにちは」 近藤さんと会うのは結構前に彼がコロッケをお店に買いに来た以来だ、事件のときは沖田総悟ばかりで他に誰がいたかとか覚えていない。 「調子はどう?もしかしてリハビリ?」 「はい、今日から始まったんですけど。大変です」 しばらくは松葉杖での生活なので、ベッドへ戻るのも大変で、近藤さんは"変態と言われないように気を付ける"とよくわからないルールを自分で決めて私の手助けをしてくれた。 「ありがとうございます。助かりました」 無事ベッドに入り、近藤さんにお礼を言う。この人は同じ真選組でもヤツとは正反対だ、優しいし包容力もありそう。 「それで、今日はどうしたんですか?」 私の問いに近藤さんはあ、そうそうと思い出したように 「今日はお見舞がてら話があってね」 と持っていた紙袋を差し出した。中身は美味しそうな果物が盛られたフルーツバスケットだった。すごい、こんなの初めてもらった!かわいい! 「わぁ、私これ憧れてたんですよ。フルーツバスケット!嬉しい!」 「おぉ!それは良かった、ぜひお母様と一緒に食べてくれ」 嬉しそうに笑う近藤さんは、それと‥と今度は隊服のポケットから一枚の紙切れを取り出した。 「藤堂さんに、感謝状が送られることになってね、その授与式のことで」 「あ、はい」 か、感謝状‥!前回お母さんから聞いたので驚きはしなかったけど近藤さんから聞くと現実味が増す、しかも今聞くとは思わなかった。でもよく考えたらそっか、近藤さんが局長だもんね。 やばい、授与式とか言われたら緊張するじゃん。何か恥ずかしい、何着て行けばいいんだろう?授与式ってこうパーティー会場とかでやるのかな?立食パーティー的な?シャンパンとか開けるの?記念品は何だろう? 勝手に妄想(都合のいい)ばかり膨らんで自然と顔は綻ぶ。リハビリして早く足治そう! 「マナさん、こんにちは」 近藤さんが帰ったあと、ベッドで雑誌を見ていると誰かに声をかけられた。ふと顔を上げるとそこには山崎さんが立っていた。 い、いつのまに‥?今日の彼はパジャマではなく着流し姿。そういえば山崎さんとは病院以外で会ったことはないので着流し姿は新鮮だ、真選組だけに。 「こんにちは。気づかなくてすいません」 「いーえ、気づかれないのは慣れてますから」 「‥本当すいません」 「いやそういう嫌味で言ったんじゃなくてね、俺は監察をしてるんで気づかれないのはむしろ潜入「で、どうしたんですか?」 「‥あの、聞いてくれません?」 山崎さんが監察をしてることと、何かしら(たぶん生まれつき)で人に気づかれない人間だということは分かった。 「ちょ‥合ってるけど言い方!( )に関しては反論できないから」 そう言って苦笑いする山崎さん。何しに来たのかな、今ごろ自己紹介?大丈夫です、この連載に山崎さんはそんなに出演予定ないですから。 「はぁー、マジで自己紹介しに来たんですか」 「何そのため息、めんどくさいのか?そういうことか?ていうか俺とマナさんまだ1回しか絡んでないんだよ、ひどくない」 1回しか絡んでないわりによく喋る人だな、と思いながら山崎さんを見る。山崎さんもため息はいてるじゃん。 「俺、今日で退院するんで挨拶に来たんです。マナさんのお母さんとも仲良くなれたから、入院生活も退屈しなかったってい「この髪飾りかわいー」 「聞けぇええ!」 すでに興味は山崎さんから雑誌へ戻っていた私に盛大な突っ込みが振ってくる。だって、退院報告?あ、そうなんですかおめでとうございます。くらいしか言うことないんだもの、わざわざ来て言うこと?しかも1回しか絡んでない相手に。 「‥山崎さん出演シーン増やしたくて来ましたよね確実に」 「ち、ちがわい!」 「図星ですよね、焦りすぎて口調が田舎者みたいですけど」 「‥こっ、これ置いてくんでどうぞお大事に!」 そう言って雑誌の上にあんぱんを置いてさっさと病室を出て行ってしまった山崎さん。まだ言うことありそうだったけど、居づらくなったんだろうなーまぁいいや。ていうか何であんぱん? 「‥私、あんぱん好きじゃない」 その瞬間、廊下で誰かがずっこけた音がしたけど、たぶん山崎さんなので触れません。 前へ 次へ back |