いくつになっても正義は守れ
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私と佐吉は不気味な狭い部屋で、男に捕まったまま動けずにいる。


「あんま調子こくんじゃねぇぞ。お前ら殺すことなんて痛くも痒くもねぇんだからよ」


男は時折、刀や木刀をニヤニヤしながら私たちを見た。ムカつく!女子供相手にそんなことして最低なカス男め!


‥とは言えないので心の中で愚痴って私は小さく頷く。


「‥わかった。おとなしくするから他の二人に会わせてよ」


「あの二人は大事な人質だから別室だ」


「は!?」


人質!?何するつもだこいつら!ギロリと男に睨むと、男は怪しく笑った。


「あの二人、ボンボンと幕府関係者の家族らしいじゃねぇか。俺らの要求と引き換えに使えるだろ」


「‥‥‥え」


た、たしかに龍之介は金持ちだけど、一平は幕府関係者の家族って言えるのか?一平は警視庁に勤めてる‥何とかさんって人の親戚の弟の従兄弟の息子だよ?
正直、遠くね?


「んで、そのガキは盗んだ小判返さねぇんだよ。あの二人と違って貧乏人だから仕方ねぇーか」


ハハハと笑う男の笑い声が部屋中に響く。一平のことはかなり盛られてるけど黙ってよう、とりあえず今はこの状況をどうにかしないと。


「もうすぐ警察官がわんさか来るだろうよ、お前らも一応人質だから逃げようとか変なこと考えるんじゃねェぞ」


「ねぇ、チンカ‥おにーさん、あの二人より私の方が人質として価値あると思うよ」


「マナねぇちゃん?」


「お前チンカス言いかけただろ」


チンカス発言しちゃったけど挑発的な私の言葉に男は興味を持ったようだ。ニヤニヤしながら近づいてくる。


「お前どこぞの令嬢かァ?」


「私はね、株式会社ABCの跡継ぎ娘。双子の弟に真選組もいる」


私の脱出作戦はまず三人を解放すること。まだ10歳の子供だ、怖くなって泣きわめいたりして下手に殺されてしまうかもしれないし、人質なんて聞いたら混乱するに決まってる。それに三人を逃がしても助けは来てくれるはずだ。それなら人質は少ない方がいい。


「え、えーびーしー?」


首をかしげる佐吉の背中を男にバレないように軽く叩いた。
お前を助ける嘘ついてんだよ、合わせろや。


「あれぇえ?佐吉知らなかったっけ?私はA(あいうえお)B(べんとう)C(カンパニー)の娘でしょ。(ただの弁当屋)
しかも弟の‥総悟は真選組じゃない、アーハッハッハッ(親戚でも何でもないただの犬猿の仲)」


「そそそうだったね、あははは‥」


だいぶ盛ってるけど、男が気づかなければいい。これは悪い嘘じゃないもん、佐吉は苦笑いしつつも察知したようだ。


「ほォ。自分から人質に名乗り出るたァ、おもしれぇな」


「だから三人は解放して、ほら佐吉あんた小判返しな」


「やだよ!だってこいつら悪いことしてるんだよ!盗んだ宝を山にかくして、マナねぇちゃんのこと殴って‥」


涙を流しながら叫ぶ佐吉にズキリと心が痛んだ、佐吉の言っていることは正論だ。攘夷浪士とか言ってるけどこんな犯罪犯して、小判もきっと盗んだんだろう。これじゃあただの盗人だ。こんな小さいのに逃げようとしない佐吉がとても男らしく見えた。でも今はこいつの悪事よりも佐吉の方が大事なんだよ‥?


「言ってくれるねぇ、クソガキ」


そう言って佐吉の頭を鷲掴み、自分の方へ引き寄せる男。佐吉が痛そうに顔を歪めた。


「ちょっと!離して、何やってんのよ!」


危険を感じた私は男の腕をつかんで、そのまま男の足を思いっきり踏んづけた。隙があるところはとことん狙わせてもらうんだから!


「っつ、クソアマァア!」


意外に痛かったらしい、男が足に気をとられてる内に佐吉が離れたのを確認。よし、あとは‥


ガンッ、


ぐらつく視界、頭に走る衝撃と痛み。あぁ、またこのクソ男殴ったなと分かったとき私はその場に倒れ込んでいた。冷たい床に頬が当たる、あぁ痛い。普通二回も殴る?


「マナねぇちゃん!!」


「‥佐吉、逃げな、早く‥!」


だんだんぼんやりと霞む視界に映る佐吉の泣き顔。こうなったら佐吉だけでも逃げてほしい、男はかなりお怒りモード入っちゃってるだろうしもしかしたら私も殺されるかもしれない。


「やだよ!マナねぇちゃん!」


「行きなって言ってんの‥!こういうときくらい、私の言うこと、聞きな‥」


男に頭を踏んづけられる、ちょ‥そこお前が殴ったとこだからめっさ痛ェエ!せめて場所ずらせ血が止まんないでしょーが。ちょ、マジお願い。


でも、それでも上を見上げて佐吉に訴えた。そんな私を見て号泣する佐吉に大丈夫という意味を込めて"ね?"と小さく微笑むと佐吉は、


「っう‥!」


泣きながら私に背を向けて走っていった。よし、良い子だよ佐吉。私は大丈夫だから。
幸い、この部屋は小屋のようになっているらしい、佐吉が開いた扉の向こうに外が見えて私は安心した。


「あーあー。あんなガキ守っても何も意味ねぇのによォ。ヒーロー気取りか?AKBのお嬢さん」


「‥ABCだっつてんだろチンカス、」


バギッ、


「うっ‥あ、」


腹部を蹴られ、そこで私は意識を失った。
チンカスで‥そこまでキレるな、よ‥


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