特技はスマイル0円
>




「マナちゃん、今日の日替わりは何だい?」


江戸の商店街から少し離れた路地裏にある小さくて古い弁当屋、あいうえお弁当。


天人が地球侵略してから日々近代化する江戸の街に、別の意味で目立つこの店は今年で創業30年だ。


別に特別おいしくもないし、看板メニューだってあるわけじゃない。街にある大型スーパーに売ってる弁当と変わらないようなそんなレベル。


「今日はエビフライ弁当!あ、でもあたしが揚げたコーンクリームコロッケ弁当もオススメかな」


そんな店で生まれ育った私は、わりと自由に学生時代を過ごし最近まで星へ留学していた。しかし2ヶ月前に母が体調を崩して入院したので帰国し、店番をするようになった。今じゃ街で噂の看板娘だ(自称)。


決して人気店ではないけれど、平日の昼休みになると近くの工事現場で働くおじさんや主婦の人たちで店内は賑わう。いわゆる昔ながらの知る人ぞ知る店、ってやつ。


「じゃあアジフライ弁当にするわ、俺」


「ちょっ、おじさん聞いてた!?」



狭い店内に私と客の会話が響く。最初は人見知りしていた私も今では常連さんたちと冗談を交わす仲。みんな若いだのお母さんに似てるだの可愛がってくれるし、中には私が小さい頃から知っている人もいてお喋りが好きな私はなかなか楽しんでいる。お給料は安いけどね。


「マナ!のり弁できたてのやつ運んどくれ」


そしてこのお店の従業員がもう1人。開店当初からお母さんと二人三脚で切り盛りしてきたパートの加藤のり子さん。お母さんがいないので厨房で1人弁当をすべて作っている。もはやパートという名の正社員だ。ちなみにのり子とのり弁ってのはたまたまだから。偶然が生んだ産物だ、産物。


「はーい!熱々のり弁追加でーす」


「私、のり弁にしようかしら」


「俺も!あと鮭おにぎりと豚汁も!」


「はいはーい、順番に並んでねー」


江戸にある小さな弁当屋、あいうえお弁当には今日も看板娘(自称)の明るい声が溢れています。


前へ 次へ

back

×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -